10月 みあやまり――擬似相関(3)

『大学生ミライの因果関係の探究』より

研究室から窓越しに見える空はすっかり暗くなっていた。秋の日はつる落としというが,まさにそんな感じがする。先生との会話で時間を忘れていた,ということもあるけれど。

あおいのバイト先の店長は,おそらく因果関係を間違って認識しているのだろう。でも,この話はそれ以前に,広く知られてしまっている。

「先生,誰か「この説は間違いだ」とか「信じないで」とか,そういうことをみなに知らせる方法はないのでしょうか」

先生は,肩をすくめて答える。

「あのウェブページや本への反論は,すでに別の複数のウェブページで書かれている。本も出版されている。ただ,広く知られていないだけだ」

何だか,もどかしい気分になる。でも……。

「もっと,もっと広めるにはどうしたら」

「こういうのは,意図して広められるわけじゃない。あとは,個々の人々が何を情報源とし,どんな判断をするかに委ねられているんだ。僕たちは,そういう意味で賢くならなければいけないだろうね」

先生はさらに続ける。

「何でも疑えばいいというわけでもない。何かを信じて,そこによって立つことで,別の問題の解決策が手に入ることもあるだろう。だけど,調べて考えることを怠ってはいけないと思うよ」

すでに信じてしまっている人に対しては,どうしたらいいのだろうか……。先生は,私が考えていることを見透かすように言う。

「すでに信じてしまった人の意見を無理に変えるのも,とても難しい。残念だけどね」

あおいのアルバイト先の状況は,もう変えられないのだろうか……。

街灯の光の下で

江熊先生の研究室を出た。もうとっくに日が落ち,暗いキャンパス内を,ぽつぽつと街灯の光が照らしている。

図書館の前で,あおいに出会った。

「あおい。こんな暗くなるまで残っていたの」

「お,ミライじゃん。友達と話してたらこんな時間になっちゃった」

友人の多いあおいらしい言葉だ。

「今日は寒いね」

あおいが言う。

「うん,寒いね」

上着を,胸の前でぎゅっと締めた。気づけば,吐く息も白い。

私はあおいと一緒に静かで暗いキャンパスの中を歩きながら,先生の研究室で聞いた話を,順を追ってあおいに説明した。

あおいは熱心に聞いていてくれた。そして私が話し終わると,あおいはこう言った。

「ありがとう,ミライ。なるようになる。きっと,うまくいくようになるよ。私,こういうことは楽観的に考えることにしているんだ」

あおいらしい。私はそう思った。

冷たい街灯の光が,私たちを照らしていた。

「じゃあねミライ。これからバイトに行ってくる。うまくやってくるよ」

バイバイと左右に振る手の指先が,街灯に白く照らされてキラキラと輝いたように見えた。

(終了)

ミライの他のエピソードは書籍でご覧ください

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小塩真司著
ちとせプレス (2016/9/10)

「因果関係があるかないかを決めるのは,予想以上に難しかった」。心理学科のミライが統計にまつわる出来事に遭遇するキャンパスライフ・ストーリー。ストーリーで心理統計がわかる!


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