社会心理学の学際性とは(3)

研究の展開と発表

木下:

ただ学際といっても,1つの分野への取り掛かりが別の分野に展開していくということがあります。例えば廃棄物処理の話も私の場合,出発点は空き缶のポイ捨て制御の話でした。観光地に多勢の客が来てゴミを散らかして帰るのを防ぐためにどうすればよいかという問題です。ごみを持ち帰ってもらうために情報はいつ,どこで,どう与えるか,ごみ箱をどうレイアウトするか,誘導表示をどうするかなど,数々の調査や実験を行い,制御システムを構築しました。その経験が公共トイレの設計に広がるわけです。公共トイレの使用のされ方,トイレに対するニーズ,不満,使われ方,男女差などを調べ上げて,快適なトイレを設計するのです。その後問題はさらに広がり,原発の高レベル廃棄物の処理をどうしたらよいかという問題になって,設計したり提言したりしました。現象的には異なる問題ですが,これら個別的トピックスの背後には,「よそにできるのはいいけれども自分の近くにできるのは困る」というNIMBY(Not In My Back Yard)という共通性があります。背後にある基本的な構造はあまり変わらないわけです。どう制御するのかは同じ文脈で解決できます。

いまやっている中で一番学際的で大がかりなのは,電力会社とJAXA(宇宙航空開発研究機構)の共同研究です。僕が仲人です。両組織が抱える巨大で複雑なリスクの中から,未知の危険性をどのように,またどこまで事前想定するか,その能力をどう開発したり訓練するか,想定に失敗したときどう対応するかといった問題についての研究会を先日開始しました。世界でどこもやっていないことなので刺激的です。

ただ,学際研究にも難しいところがあって,発表する学会がないんです。電力会社とJAXAの研究でもこのことにいま悩んでいます。これまでの学際的な研究のうち,日本社会心理学会で発表したものはほとんどありません。残念ながら日本社会心理学会には適切な発表部門がないし,関心をもっていただける研究者が少ないからです。以前に宇宙空間における人間の意識や行動を宇宙飛行士の野口さんと一緒に研究したものをなんとか『社会心理学研究』に掲載しましたが(1),それまでけっこう苦労しました。最初は私が日本社会心理学会で口頭発表をしたんですが,来場者が少なく質問もゼロでした。次の学会では野口さんが来てくれたので,たくさん人は集まりましたが,質問する人がみんな「お会いできて光栄です」と余計なことを言うわけです。実りのある質問は少なかったですね。

三浦:

実りのある質問を受けたいとなると難しいですよね,たしかに。

fig03

木下:

そこは一番の悩みですね。それともう1つ。これは先ほど三浦さんの言われたことに関係する話題です。それは学際的な研究の話をするときには,分野間で用語法とか概念にずれがありますので,表面的なコトバの違いを超えて,その背後にある「機能的等価性」という考え方を持つことが一番重要だということです。用語法は分野間で全然違うけれども,よくよく聞いてみると機能的に等価であるということはよくあります。それが両者をくっつける粘着剤です。ご存じないと思いますが,社会心理学と放射線生物学の間にも機能的に等価な概念がいくつもあるのですよ。「バイスタンダー効果」とか「フット・イン・ザ・ドアー効果」とか。現象のレベルではなくて,機能のレベルで見なくてはいけないということが,異なる分野をくっつけるときのキーワードではないでしょうか。

(→続く:近日公開予定)

文献・注

(1) 野口聡一・木下冨雄 (2014).「宇宙空間における重力基準系の変化は人にどのような影響を与えるか――身体定位,認知,対人関係の変化を中心に」『社会心理学研究』30(1), 1-10.


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