18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(4)

――少年に比べて,被害者の権利がないがしろにされていないでしょうか。

加害者と比べるまでもなく,被害者の権利はかけがえのないものです。十分に保障されるべきだと思います。被害者の権利には,加害者から謝罪や償いを受ける権利が含まれると思います。加害者は謝罪や償いをする義務があると思います。少年法による処遇は,それを可能にするものだと考えています。

重大な非行を起こした少年は,「生きていてもよいことなど何もない」「自分なんてどうなってもかまわない」と考えていることが少なくありません。自分で自分を信じることができないのです。自分を見失っている少年にどんなに重い刑罰を与えても,それが反省につながることはありません。世の中を恨み,捕まった自分の不幸を嘆くだけです。

そうした少年の一見,投げやりな言動からも「自分だってまっとうに生きたい」「自分を大切にしたい」という願いを読み取り,大人が粘り強く信頼関係を築いていくなら,彼らは自分への信頼を回復することができます。それは,人間として被害者の痛みに気づき,謝罪や償いができるようになっていくうえで不可欠なことだと思います。

被害者は少年に直接,聞きたいことがあるかもしれません。それを可能にする処遇は被害者の権利に答えることになると思います。原理的にはそうであっても,それが十分に実現できていないところに問題があると思っています。

――少年の処遇は効果があるのでしょうか。非行の凶悪化などと聞くと心配です。

何をもって非行の凶悪化というのか,また,いつの時代と比較するかによって変わってきますが,戦後を大きく見ても,またこの10年間を見ても(7),非行はむしろ減少しています。

近年,少年院を退院しても何度も繰り返す少年の割合が増加しています(8)。これだけ聞くと,少年の処遇は効果がないように聞こえるかもしれません。しかし,人数で見ると,横ばいです。1回きりの少年が減少しているため,結果として何度も繰り返す少年の割合が上昇しているのです。

そこで,これから力を入れるべき処遇として,少年院から社会への移行の支援が重要ではないかと考えています。一般に大人になることは,生活できる場所があり,自活できるだけの仕事があり,愛する人との出会いがあって可能になります。少年にもこうしたことが可能になる支援が必要だと思います(9)。アメリカで行われた縦断研究でも,非行からの離脱に有効だったのは雇用の継続であり,また結婚している場合には関係の継続でした(10)。もちろん,職場を与えるだけでは不十分です(長続きしません),個別的援助が不可欠なことは言うまでもありません。

――少年法適用年齢引き下げに青年期という観点から異議ありと言っているように思いましたが,そうすると前回の政治的認識の発達(18歳選挙権)との扱いの違いをどのように理解すればよいのでしょうか。

18,19歳は大人になるグラデーションの中の青年期にいると思われるので,少年法の処遇を外すのは早いと考えます。質問には次回,答えます。

次回は,18歳選挙権の実現と成年年齢引き下げ,および少年法適用年齢引き下げの相互の関連について説明します。

(→続く:近日公開予定)

文献・注

(1) 白井利明・岡本英生・小玉彰二・近藤淳哉・井上和則・堀尾良弘・福田研次・安部晴子 (2011).「非行からの少年の立ち直りに関する生涯発達的研究(VI)――「出会いの構造」モデルの検証」『大阪教育大学紀要(第IV部門)』60(1), 71.

(2) 大村敦志 (2015).「プロローグ」大村敦志・横田光平・久保野恵美子『子ども法』有斐閣,p. 4から示唆を受けて,自説を展開した。

(3) 内田伸子 (2007).「子どもは変わる,大人も変わる――人間発達の無限の可能性」内田伸子・氏家達夫編『発達心理学特論』放送大学教育振興会,p. 35.

(4) すでにお気づきと思いますが,私は大人でも「翻訳」が必要であると考えています。しかし,繰り返しになりますが,大人の行動の「翻訳」は,自分の意思を十分に表明できない子どもの場合とは質的に違うこともはっきりしていると思います。

(5) 堀尾良弘 (2014).「犯罪・非行における暴力――加害と被害」心理科学研究会編『平和を創る心理学――私とあなたと世界ぜんたいの幸福を求めて〔第2版〕』ナカニシヤ出版,p. 49.

(6) Shirai, T., Satomi, A., & Kondo, J. (2013). Desistance from delinquency through social encounters with significant others: Case studies of Japanese juvenile criminals. 『大阪教育大学紀要(第IV部門)』61(2), 97–105参照.

(7) 警察庁生活安全局少年課 (2015).「少年非行情勢(平成26年1~12月)」図1 刑法犯少年の推移,p. 1.

(8) 法務省 (2015).『平成27年版 犯罪白書――性犯罪者の実態と再犯防止』第4編/第1章/第5節/1,4-1-5-1図 少年の一般刑法犯 検挙人員中の再非行少年の人員・再非行少年率の推移

(9) 白井利明 (2016).「立ち直り研究」日本犯罪心理学会編『犯罪心理学事典』丸善,pp. 550-551.

(10) Sampson, R. J., & Laub, J. H. (1995). Crime in the making: Pathways and turning points through life . Harvard University Press.


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