のぞいてみよう!ICP2016――世界と日本の心理学の未来に向けて(後編)

2016年の7月24~29日の6日間,パシフィコ横浜にて,第31回国際心理学会議(ICP2016)が開催されます。ICP2016の組織委員会委員長を務められる帝京大学の繁桝算男教授にお話を伺いました。後編では日本からの発信力,社会への貢献などについて。(編集部)

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Author_ShigemasuKazuo繁桝算男(しげます・かずお):帝京大学文学部教授。ICP2016組織委員会委員長。元日本心理学会理事長。主著に『ベイズ統計入門』(東京大学出版会,1985年),『意思決定の認知統計学』(朝倉書店,1995年),『後悔しない意思決定』(岩波書店,2007年)など。

日本からの発信力,海外との連携

――日本の研究者の発信力,プレゼンスを高めていくということですが,現状として不足している,物足りないと感じられる面があるのでしょうか。

そんな気がします。もちろん世界に通用する一流の人たちは数多くいます。しかし,私は英語による発信力――いまは英語が研究の分野では支配的な言語ですから,日本語ではなく英語を使って発信するのはやむをえないわけですが――さえあれば,本当は日本の研究はもっと注目されるべきだと思っています。研究成果の発信という意味では,日本の研究者はアンダーアチーバー,つまり期待されるよりも発信の水準が低い状態にあります。今回,日本の研究者が采配を振るう大きな大会を開催することで,発信力を高めていくうえでもよい機会です。日本の研究者全体においては,海外の国際大会で発表することや,定評のある海外の専門雑誌に投稿することが当然となっているような研究環境であるとは限りません。あまり海外の学会と縁がない環境の研究者や実践家には,まずは,日本で開催されるICPに参加することが1つの出発点になることを力説したいところです。

――日本の研究者や実践家の反応はいかがでしょうか。参加される方は研究者の方が多いでしょうか。

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研究者が多いですね。実践家の方への働きかけは,これからも努力しなければいけないと思います。臨床心理学関係の学会に,宣伝のために行って資料を配ったことがあるのですが,ICPが日本で開催されることを知らない人も多いですし,かなり関心も薄いように感じました。

発信力に重ねていうと,実際に心理臨床として現場に関わっている人こそ,国際的な議論をして,日本の知見を発信してほしいと思います。例えばですが,神経質や対人関係ということを重視した森田療法が海外で注目されていて,そうした日本的な対人関係を重視するというような発想は,世界にも通用することでしょう。

――普段の実践が日本国内で成立してしまうからでしょうか。なかなか世界に目を向けて,とはならないのでしょうか。

もちろん,臨床的なアプローチでは,言葉こそが大事だと思います。言葉ではない伝わり方も重要ですがが,言葉による伝達がカギになります。そうであるならば,日本語を母国語とする実践家の間で理解し合うことに居心地のよさがあるのはわかります。ただ,発想を変えると,外国ではどのように臨床実験が行われているのかということや,臨床の場で言葉がどのように使われているのかということを知ることは自分の実践の視野を広げるためによい経験になると思います。日本語以外で,言葉の微妙なニュアンスや実践記録を英語で伝えるということが難しいことはわかりますが。今回は日本が舞台ですし,海外から来られる参加者たちの中には,日本での実践的な研究,現場的な研究の方に関心をもってやってくる人も多いと思いますので,よい機会だと思います。

ICPは科学的心理学だけの大会ではありません。科学的なアプローチと,実際に社会の人々の抱える問題を解決するアプローチの両方が共存する学会です。


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