18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(1)
何歳から大人か
Posted by Chitose Press | On 2016年05月19日 | In サイナビ!, 連載――海外では成年年齢は18歳が多数です。
青年期の時期の区分が国によって違う可能性が考えられます。ここでは,アメリカを例に考えてみます。アメリカは成年年齢が州ごとに違うのですが,50州のうち45州が18歳となっています(8)。ここでアメリカを取り上げるのは,アメリカ心理学会の心理学事典が手元にあり,青年期の定義を参照しやすいという理由です。
アメリカ心理学会が監修する心理学事典では,個人差が多いため正確な年齢はいえないが,青年期は思春期(10~12歳)に始まり,19歳頃の生理的成熟で終わる,とされています(9)。この期間中に,性徴やボディ・イメージ,性への関心,社会的役割,知的発達,自己概念で,早いか遅いかには個人差があるものの,どの青年にも大きな変化がある,とされています。しかし,生殖能力を獲得し,身体が大人になることが成人概念の中心に据えられているといえます。
ただし,アメリカの心理学者ウィリアム・デーモン(10)は,青年期の終わりの標識をシティズンシップ(citizenship)と市民的関与(civic engagement)に見ています。シティズンシップとは,社会のフルメンバーとしての権利と義務が認められていることをいいます。市民的関与とは,実際にその権利と義務を行使することです。ですから,アメリカでも,身体が大人になったから成人だということではなく,社会的にも認められているから成人だと考えています。
これには理由があると思います。アメリカは1943年の時点で選挙権は21歳でしたが,ベトナム戦争の際に,18歳から21歳までの者は徴兵されるのに政府への発言権がないのは不当であるという議論が起きて,1971年に選挙権が18歳に引き下げられたのです(11)。成年年齢もそれに連動して引き下げられました。
ただし,アメリカ心理学会の心理学事典の最新版(改訂版)(12)になると,発達全般,つまり認知面,社会面,自己の面の発達で見ても,19歳になると,十分に成熟が見られるとつけ加えられました。生理的成熟だけを見て大人だと定義しているのではなく,発達心理学的に見て青年期の終わりだと考えているということでしょう。
――それでは,日本では発達が遅れているのでしょうか。
すでに説明したように,国によって社会文化的背景や制度的な経緯により「青年」や「大人」のとらえ方が違うのであって,日本の青年の発達が遅れているから日本の成年年齢が高い,ということではないと思います。
実際のところ,自分を大人だと思うことを成人感といいますが,それで見ても日本と海外で大きな違いがあるとは思えません。日本では,20歳代半ば以降に自分が大人だとする人が多くなります(13)。これは,例えばアメリカでも同じです。「子どもか,大人か,どちらでもないか」と聞いたところ,20歳代前半まで「大人でも子どもでない」の方が多く,20歳代後半から「自分は大人だ」の方が多くなります(14)。
ただし,成人感は曲(くせ)者です。中学生と大学生では,一般に中学生より大学生の方が大人に近づいていると考えられますが,成人感で見ると,中学生の方が大学生より自分が大人だと考えていました(15)。その理由は,中学生は「電車賃などが大人料金」といったものでした。他方,大学生は,自分が大人でないと考えていますが,その理由は「すぐ親や他人を頼りにする」「いやなことを我慢しない」といったものが目立ちました。どちらの理由が,より大人らしいかは明らかだと思います。
なお,女性では中学生も大学生も大半が大人でないと答えており,違いはありませんでした。男性と女性では成人感のもち方が違うようです。