子どものがまんを科学する――実行機能の発達(3)

子どもの将来を予測する実行機能

予測因子としての実行機能

次に,実行機能について見ていきましょう。これまでの研究から,実行機能の発達も,子どものさまざまな能力の発達に重要な影響を与えることが示されています。そもそも,実行機能の発達が注目されるようになった1つの理由は,この能力が,心の理論の発達と関連していたためかもしれません。心の理論とは,他者の行動からその背後にある心の状態を推測する能力のことを指します。現在さまざまな研究がなされていますが,子どもの実行機能の発達が,心の理論の発達に重要な役割を果たすという考えが受け入れられています(7)。実行機能が発達すると,子どもは自身の思考や知識状態,思い込みを制御できるようになるため,他者の心を推測することができるようになると考えられています。これ以外にも,実行機能は,噓をつくことなどのコミュニケーション能力や,親の言うことを守るなどのある種の道徳的行動の発達にも寄与していることが示されています。つまり,実行機能は社会性の発達に重要な役割を担っているのです。

また,実行機能は,学業成績とも関連しています。上述のように,自己制御能力も学業成績と関連しますが,実行機能の研究ではより詳細な検討がなされており,近年,この点を調べる研究は劇的に増加しています(8)。ある研究では、4歳児時点における作業記憶課題の成績が,7歳時点における数の知識や順序,グラフの理解などの成績を予測することを示しています。実行機能は,算数以外にも,国語の成績や理科の成績とも関連することが示されていますが,とりわけ算数の成績に対する効果が繰り返し報告されています。これは,実行機能が高いと,与えられた問題の情報を保持し,問題のさまざまな側面に注意を切り替え,ひっかけ問題などのように問題の顕著かつ誤った情報に引きずられるのを抑制することができるためだと考えられます。

自己制御能力とは異なり,実行機能を取り入れた長期縦断研究はまだ始まったばかりであり,初期の実行機能が子どものその後の発達に与える長期的な影響については今後明らかになってくるでしょう。

さて,自己制御能力や実行機能が,子どもの学力や社会性に重要な影響を与えることが明らかになっています。そうなると,次に関心が出てくるのが,どのような要因が子どもの自己制御能力や実行機能に影響を与え,どのようにすれば子どものこれらの能力を支える・育てることができるのかという点です。この点については,最終回となる次回に触れたいと思います。

(→続く;近日公開予定)

文献・注

(1)  OECD (2015). Skills for social progress: The power of social and emotional skills. OECD Publishing.

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(2)  Heckman, J. J. (2006). Skill formation and the economics of investing in disadvantaged children. Science, 312(5782), 1900-1902.

(3)  Casey, B. J. et al. (2011). Behavioral and neural correlates of delay of gratification 40 years later. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108, 14998-15003.

(4)  Mischel, W., Shoda, Y., & Peake, P. K. (1988). The nature of adolescent competencies predicted by preschool delay of gratification. Journal of Personality and Social Psychology, 54, 687-696.

(5)  Moffitt, T. E. et al. (2011). A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108, 2693-2698.

(6)  Duckworth, A. L., & Seligman, M. E. P. (2005). Self-discipline outdoes IQ in predicting academic performance of adolescents. Psychological Science, 16, 939-944.

(7)  森口佑介 (2012).『わたしを律するわたし――子どもの抑制機能の発達』京都大学学術出版会

(8)  森口佑介 (2015).「実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援」『心理学評論』58, 77-88.


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