実験心理学の魅力(4)

しかし引き受けてみると、続けてほしい、またリピーターがいるので同じ内容は避けてほしいとの要望。これではいくつ引き出しがあっても限度があります。そこで考えたのが「ことわざ」でした。ことわざは人類の叡智の結晶ですから、豊かな人生につながる教えに満ちていますし、ことわざの中には人の心理や行動に関するものがけっこうあるからです。

「目は口ほどに物を言う」(感覚・知覚心理学)、「親は無くとも子は育つ」(発達心理学)、「急いては事を仕損ずる」(行動心理学)、「赤信号皆で渡れば怖くない」(社会心理学)などは、それらを支える心理学的事実はあるのか、学問的証拠で裏づけられているのか。これを問うことにしました。

しかし、ことわざは心理学の全分野にまたがるので、狭い意味での私の専門を超えてしまうことになります。長年ストレスの実験心理学を手がけてきた私にとっては「地震 雷 火事 親父」などは得意中の得意なのですが、知覚の心理学や社会心理学に関わりの深いことわざになるとかなり勉強をしなければなりません。

しかし現役時代よりは時間があるので、文献検索をし、文献を読んでいるうちにどんどん深みにはまりこむようになりました。その結果、目を輝かせて話すことができるほどになりました。そうこうするうちに、しゃべりっぱなしというのはもったいないように思うようになり、それをまとめたのが今回の『ことわざと心理学』です。

しかし、実験心理学者が書くものですから、中身はグラフや表や数字だらけです。それを見てある出版社からは、もっとやさしく書けないのか。でないと売れないと言われました。しかし証拠に基づくアプローチを何よりも大切にする実験心理学者としては、魂まで売り渡すわけにはいきません。また世の中に人たちに、心理学という学問は、このような実証的な学問であるということを知ってもらいたいと思いも強かったので、この出版社の要望には妥協はしませんでした。

頑固な姿勢に理解を示してくださったのが有斐閣の方々でした。ありがたいことでした。確かに、タイトルからいえばもっと面白おかしく書くことができた本であることは間違いありません。しかしそこまで世間におもねる気は毛頭ありませんでした。実証科学である心理学のこのような性質に世間の人たちが理解と関心をもっていただければと思うのですが、なかなかそれは難しいようです。

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今回取り上げたことわざは11でしたが、私が取り上げたいことわざはまだまだあります。したがって私の希望としては『ことわざと心理学』(続編)が出版できればと願っています。しかしそれは今回の出版に対する世間の反響しだいだと思います。今回の出版が、続編に対する出版要請があるほどみなさんに関心をもっていただけることを心より願っております。

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文献・注

(1) 関西学院大学心理学研究室80年史編集委員会編 (2012).『関西学院大学心理学研究室80年史(1923~2003)――今田恵の定礎に立って』関西学院大学心理学研究室

(2) 国際応用心理学会(IAAP)のウェブサイト

(3) 国際心理科学連合(IUPsyS)のウェブサイト

(4) 第31回国際心理学会議(ICP2016)のウェブサイト

(5) 今田寛 (2015).『ことわざと心理学――人の行動と心を科学する』有斐閣


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