心理学研究は信頼できるか?――再現可能性をめぐって(4)

――よりよい心理学研究に向けた、意欲的な取り組みですね。最後に、プロジェクトへの意気込みをひと言ずついただけますでしょうか。

池田:

Author_IkedaKoki池田功毅(いけだ・こうき):中京大学心理学研究科・日本学術振興会特別研究員PD。主要著作・論文にShape and spatial working memory capacities are mostly independent(Frontiers in Psychology, 6, 581, 2015,共著)Fearful faces grab attention in the absence of late affective cortical responses(Psychophysiology, 50(1), 60-69, 2013,共著。→webサイト →Twitter: English(@kokiikeda) →Twitter: 日本語(@kokiikedaJP)

今後、さまざまな心理学のサブ研究領域で、先行研究の再現可能性をチェックし、信頼できる知見だけを選んだ教科書を作り直す必要があります。今はまだ余裕がなくて全然できていませんが、特に僕の個人的な関心対象である感情研究や進化心理学などについては、今後システマティックかつ継続的に、高い検定力を備えた追試研究を行っていきたいので、できるだけ早くそのシステム作りを始めたいと思います。その際、すでに述べたように個人の力には限界があるので、国内・国外を問わず、同じ関心をもつ研究者間でのネットワーク作りが重要であると思われるので、今後積極的にその立ち上げを行っていきたいと思っています。

藤島:

Author_FujishimaYoshitsugu藤島喜嗣(ふじしま・よしつぐ):昭和女子大学人間社会学部准教授。主要著作・論文に「自尊感情と自己関連動機に基づく推論の歪み」(村田光二編『現代の認知心理学6 社会と感情』北大路書房,2010年),「社会的影響」(遠藤由美編『社会心理学――社会で生きる人のいとなみを探る』ミネルヴァ書房,2009年)。→Twitter(@gsd9720)

再現可能性の検証と直接的追試の促進について日本はずいぶん遅れています。日本のデータは何でも比較文化データだと言われてしまう困難もあります。少しでも追いつく努力が必要ですし、他国の研究者との連携も深めていくべきだと思います。その手がかりとしてこのプロジェクトを生かしたいと思っています。

一連の騒動と今回のプロジェクトは、自分自身の研究を見る目を変えてくれているような気がします。科学的手法をより自覚するようになりましたし、同時に科学的でない手法の意味も少し理解できるようになりました。これらを生かして、新しい中にも安定感のある研究を遂行できればと思っています。

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平石:

Author_HiraishiKai平石界(ひらいし・かい):慶應義塾大学文学部准教授。主要著作・論文にHeritability of decisions and outcomes of public goods games.(Frontiers in Psychology, 6, 373, 2015,共著)「進化心理学――理論と実証研究の紹介」(『認知科学』7(4), 341-356,2000年)。→webサイト →Twitter(@kaihiraishi)

私個人としては「意気込み」というよりは、研究者という仕事をしている以上、やらねばならないなぁ、というくらいの地味な覚悟です。研究という仕事の(私にとっての)良さの1つは、噓をつかないことが尊ばれる世界であるということです。自分が清廉潔白な人間であるなどと言うつもりは毛頭ありませんが、正直であることが尊重される社会の方が、自分は居心地が良い。しかし人間というのは弱いもので、悪気はなくとも、自分に好ましいようにデータを見てしまうことがあるのは、この連載でもすでに述べられている通りです。そういった歪みに気づいてしまったのであれば、少しでも治す努力はしないとね、ということです。ただ人間は弱いものなので、志は高くとも1人でやるのはしんどい。仲間がいるから続けられるという意味で、このプロジェクトにはとても感謝しています。

樋口:

Author_HiguchiMasataka樋口匡貴(ひぐち・まさたか):上智大学総合人間科学部准教授。主要著作・論文に「コンドーム購入行動に及ぼす羞恥感情およびその発生因の影響」(『社会心理学研究』25(1), 61-69,2009年,共著)「ビデオフィードバック法によるコンドーム購入トレーニングの効果に関する予備的検討」(『日本エイズ学会誌』12(2), 110-118,2010年,共著)。→Twitter(@HIGUCHI_MA)

私にとってこのプロジェクトは、まさに自分自身への叱咤になっています。自分および自分の研究室で行っている今の研究のやり方、これは本当に正しい知識を得るために有効なのか、それを常に考え続けることができる装置がこのプロジェクトです。

また、このプロジェクトで目指していることは心理学の世界において非常に重要なことだと確信していますが、それが多くの人に重要だと認識され、心理学界におけるデフォルトの発想として定着するかどうかについてはあまり楽観的な見方をできていません。再現可能性問題への対策が定着していくためには、やはりその活動が楽しいことである、素晴らしい意味をもつことであると示されるのが重要でしょう。私が今一番大切にしたいのは、再現可能性の問題を考え検討していく活動がとてもエキサイティングで新しい知見を生み出すことができる、真に科学的な作業だということを身を以て示し続けるという点です。特に学部生や修士の学生に対して、身を以て示し続けたい。それ自体が、自分自身への叱咤にもなります。

三浦:

「息長く続けられるようガンバリマス!」はデフォルトとして、実験実習や卒論研究などに再現可能性プロジェクトを組み込むことで、基礎的な心理学教育の効果も同時に高めたいと考えています。心理学は教育プログラムが比較的きちんと確立されている学問領域ですが、中でも「自分たちで実験をしてデータを収集・分析してレポートを執筆する」という一連の流れを経験する「実験実習」は非常に重視されており、卒論研究はその延長線上に位置づけられます。再現性検証プロジェクトで対象となった研究を素材として使えば、詳細な情報が手に入るうえに、オリジナルばかりではなく世界各国の追試データも比較対象として手に入ります。こうすることで、前出OSC論文の結びにあった「科学的研究とは」という自覚をより強くもたせられるのではないかと考えています。

(連載終了)

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文献・注

(1) Baker, M. (2015). First results from psychology’s largest reproducibility test. Nature News, 30 April.
COURRiER (2015).「有名な心理学研究のうち「再現可能性がある」ものはわずか39%だった」『COURRiER JAPON』7月7日Nature誌の記事紹介)
Open Science Collaboration (2015). Estimating the reproducibility of psychological science. Science, 349(6251).
Sheridan, K. (2015).「心理学の研究結果、6割以上が再現不可能 検証調査」『AFPBB News』,8月28日Science誌の論文紹介)

(2) Open Science Collaboration

(3) Psychological Science(PSCI)誌
Journal of Personality and Social Psychology(JPSP)誌
Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition(JEP: LMC)誌

(4) (1)のOpen Science Collaboration(2015)Fig. 3より作成。

(5) 人間行動進化学会
Letters on Evolutionary Behavioral Science

(6) 「実験結果の再現可能性検証に関する諸問題」日本社会心理学会第56回大会ワークショップ

(7) 寺田晃ら (1988).「教育心理学研究」の方向性とあり方を考える――最近の動向を通して」『教育心理学年報』27, 20-29.


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