幼児教育のエビデンスと政策(1)

注目される幼児教育のエビデンス

OECD保育白書『人生のはじまりこそ力強く』が提案する「幼児教育の質」

幼児教育の質を守るためには、質の定義とその評価基準が必要になります。これまでのOECDの報告を参考に考えてみましょう。まず、機能に関する事項には、「志向性」「構造」「理念」があります。また「相互作用・プロセス」の質と「実施運営」の質も重要です。そして、その「成果としての子どもの発達や成績」「親・地域への支援活動とこれらの参加」が評価に関連する基準と言えるでしょう。

では1つずつ詳しく見てみましょう。

「志向性の質」とは、国レベルでどのように乳幼児政策に取り組んでいるかを示すものです。公共システムとして見るのか、市場主義で考えるのか。また、学校のレディネス(準備)のための教育として認知的な発達を目的の中心に置くのか、whole child(全人教育)として充実した子ども時代を過ごし全体的な発達を目指すのかによって、国の政策の立て方は変わってきます。

「構造上の質」は、質を保証するのに必要な全般的な、行政が責任をもつ仕組みのことを指しています。法令や規制の作成・施行によって保障されるものです。具体的な中身としては、職員の養成・研修のレベル、カリキュラムのガイドライン、子どもの発達の何を見るか、職員1人あたりの子どもの人数、適切な労働条件と職員の確保、物理的環境としての建物・広さ・戸外設備・教材などがあります。

「実践上の教育理念」は、上記の行政によって定められる、カリキュラム基準の枠組みにあたります。国のレベルで定められるのが通常であり、その実現のために高いレベルの職員の養成・研修の仕組みを行政的に定める必要があります。日本では幼稚園に対しての幼稚園教育要領で示されており、その内容を実現する力をもつ教員を養成するような養成課程が必要ですが、日本ではその仕組みは少し弱いように思います。

「相互作用あるいはプロセス(過程)の質」とは、実際の保育の場でどのような大人と子ども、子ども同士の関係が結ばれているかに関わるものです。つまり、保育者と子ども間の教育的(保育的)関係の温かさ、子ども同士の相互作用、保育者同士の関係などの質です。子どもの成長の結果を決定する中心的な要因の1つがこの「プロセスの質」です。

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その関係に含まれる要素として、個々の子どもへの養護・配慮、普遍的幸せ(well-being)への関心、専門家による学びへの支えがあります。何を教えるかではなく、どのように教えるかによって、子どもの学びが変わるとわかっています。北欧諸国では、社会的教授(ソーシャル・ペダゴジー;social pedagogy)という、子どもの経験を総合的に捉え関係性を重視した教育理念に基づいて、幼児教育が行われています。

「実施運営の質」とは、地域のニーズ,質の改善,効果的なチーム作りに応えているかに焦点を当てた管理の質のことです。定期的な計画作り、職能開発とキャリア発展への参加、観察の時間と記録と評価、職員の活動への支えなどのリーダーシップがあるかどうかが、幼児教育の質に関わります。この中には、保育時間の長さや、核となるプログラムの選択、地域サービスや特別なニーズをもつ子どもへの手立てをどう組み込むかといったことなども含まれます。

「子どもの成果の質の基準」は、最初の「志向性の質」で説明した方向性、つまり何を成果と捉えるかによって内容が変わってくるかもしれません。子どもの成果アプローチの場合、言語と数理的技能を優先し、「学校のレディネス」を取り上げることになります。この場合は、客観的なテストで伸びを測定しようとします。ただし、その場合でも子どもが必要とする相互関係的な教育的指導についての配慮を蔑ろにすることがないようにして、プロセスの質を担保する必要があるでしょう。

ですから、世界的には、日常の系統的観察、継続的記録、子どものポートフォリオ(さまざまな資料の集積・整理)、親へのインタビュー、学びの履歴、全国標本調査などさまざまな方法で調査されます。

「親・地域への支援活動および親・地域の保育参加に関する妥当な基準」といった、園の周囲の地域社会との関係も幼児教育の質を考える要素です。保護者へのアウトリーチと家庭の子どもが学ぶ環境の改善、地域の文化的価値や規範と保育内容との関係づけ、親集団への支援、社会福祉・健康・障害教育などと統合化されたプログラム作りなども、地域の特性に応じて重視されます。


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