勝負中のモチベーションやパフォーマンスは,何によって左右されるのか?

『パーソナリティ研究』内容紹介

テストの点数やスポーツ,仕事の成績など,私たちは日常的に他者とさまざまな「競争」を行っています。競争や勝負の際に,力を十分に発揮できるときもあれば,いま一つやる気が出ないときもあります。競争の際のモチベーションやパフォーマンスが,どういった要因に影響されるのか実験的に検討されました。(編集部)

清水登大(しみず たかひろ):筑波大学大学院心理学学位プログラム博士後期課程3年。→webサイト

日常生活の中には,大小さまざまな「競争」が存在します。学校ではテストの点数を友達と比べたり,スポーツの試合で相手に勝とうとしたり,仕事でライバルより良い成績を目指したりすることがあります。こうした競争で勝つためには,最後まで集中力ややる気(モチベーション)を保ち,良いパフォーマンスを発揮し続ける必要があります。

私は「競争の最中,人のモチベーションやパフォーマンスは何によって変化するのか?」という疑問に関心を持ち,心理学の視点から研究を進めてきました。特に,これまでの研究知見を踏まえて,次の3つの要因が競争中の心理状態を左右すると考えました。

要因①:相対的な成績(優位/劣位/同点)

競争の最中,自分が相手より一時的に勝っている(優位)か負けている(劣位)か,あるいは拮抗している(同点)かは,気持ちに大きな影響を与えます。例えば,スポーツの試合でリードしていると,「このままいけば勝てるぞ!」と勢いに乗り,パフォーマンスがさらに向上することがあります。反対に,負けている状況では「ここから巻き返すぞ!」と気持ちが奮い立ち,かえって力を発揮する場合もあります。このように,優位・劣位といった相対的な成績の違いは,やる気やパフォーマンスを大きく左右します。

要因②:競争段階(初期段階/後期段階)

競争の「いつの段階か」という要素も重要です。ある研究では,競争の初期段階(序盤)に優位であることはパフォーマンスを高めますが,後期段階(終盤)ではむしろ気が緩んでパフォーマンスが下がる場合があることが報告されています。つまり,優位・劣位という相対的な成績の効果は,「競争が初期段階か後期段階か」によって変わる可能性があるのです。

要因③:制御焦点(促進焦点/防止焦点)

人のモチベーションは,「良い結果を得たい」というポジティブな方向に意識が向く促進焦点と,「悪い結果を避けたい」というネガティブな方向に意識が向く防止焦点の2つの状態に分けて考えることができます。心理学では,こうした目標への2種類の向き合い方を「制御焦点」と呼びます。

促進焦点の傾向が強い場合は,自分の取り組みが順調に進んでいるときにモチベーションが高まりやすいとされています。一方,防止焦点の傾向が強い場合は,自分の取り組みが上手くいっていないときにこそ,モチベーションが高まる傾向があります。

そこで私は,競争中の優位・劣位といった状況の影響も,この制御焦点の違いによって変わるのではないかと考えました。

研究の概要

私はこれら3つの要因(相対的な成績,競争段階,制御焦点)が,競争中のモチベーションとパフォーマンスにどのように関わるのかを明らかにするため,大学生・大学院生を対象に実験を行いました。

参加者には2人1組で,暗記問題や創造性を問う課題,素早さと正確さが求められるステップ課題など,頭と体を使う競争課題を4ラウンド行ってもらいました。

制御焦点は,実験前に「勝つと報酬が増える」(促進焦点条件)あるいは「負けると報酬が減る」(防止焦点条件)と伝えることで操作しました。また,第1ラウンド終了時(初期段階条件)または第3ラウンド終了時(後期段階条件)に,「相手より勝っている」(優位条件),「相手に負けている」(劣位条件),「相手と同点である」(統制条件)という途中成績を口頭でフィードバックしました。

その直後に「次のラウンドでどのくらい頑張りたいか(モチベーション)」を回答してもらい,続くステップ課題の回数をパフォーマンスとして測定しました。

研究の結果

分析の結果,後期段階では初期段階と比べて,劣位のときにパフォーマンスが低くなる傾向が見られました(Figure 2を参照)。また,促進焦点条件の参加者は,防止焦点条件の参加者よりも「次のラウンドで頑張りたい」という意欲が全体的に高いことが示されました。

これらの結果から,競争の終盤で劣位にある場合は,モチベーションを高める工夫が特に重要だと考えられます。例えば,「ここから逆転できる!」と前向きに思える声かけや戦略が有効かもしれません。また,人によって「良い結果を目指している」か「悪い結果を避けようとしている」かの違いを意識したサポートも効果的です。

今後の展望

今後は,日本人と海外の人とで同じ傾向が見られるか,また実際のスポーツの試合やビジネス場面でも同様の結果が得られるかを検証したいと考えています。こうした研究を通じて,競争中のやる気やパフォーマンスを最大限に引き出す方法を明らかにしていきたいと思っています。

文献

清水登大・外山美樹 (2025).「2者間でのゼロサム競争中における相対的な成績は動機づけにどのように影響するのか?――競争段階と制御焦点を踏まえた実験課題による検討」『パーソナリティ研究』34(1), 15-28.