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犯罪へ至る道,離れる道

非行少年の人生

ロバート・J. サンプソン,ジョン・H. ラウブ 著/相良 翔・大江將貴・吉間慎一郎・向井智哉 訳

発行日: 2025年3月10日

体裁: A5判並製336頁

ISBN: 978-4-908736-40-7

本体: 4200円+税

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電子書籍あり

内容紹介

何が少年たちの人生を分けたのか?
ライフコースを通じて,犯罪や逸脱行動を繰り返す人と犯罪や逸脱行動から離脱する人とを分ける要因は何か。多面的な指標が含まれる,グリュック夫妻による1000人の長期縦断調査データを再構築・再分析し,年齢に応じたインフォーマルな社会統制理論を提唱した記念碑的名著。

目次

第1章 年齢に応じたインフォーマルな社会統制理論に向けて

第2章 少年非行の解明とフォローアップ調査

第3章 データの復元,補完,妥当性の確認

第4章 少年非行の家族的文脈

第5章 学校,仲間,きょうだいの役割

第6章 長期にわたる行動の継続性

第7章 成人の社会的絆と犯罪行動の変化

第8章 犯罪と逸脱の比較モデル

第9章 ライフヒストリーの探究

第10章 まとめと展望

著者

ロバート・J. サンプソン(Robert J. Sampson)

ハーバード大学ウッドフォード・L. &アン・A. フラワーズ大学教授

ジョン・H. ラウブ(John H. Laub)

メリーランド大学カレッジパーク校名誉教授

訳者

相良翔

埼玉県立大学保健医療福祉学部准教授
主要著作に,『薬物依存からの「回復」―ダルクにおけるフィールドワークを通じた社会学的研究』(ちとせプレス,2019年),「『同じ経験』と『違う経験』の狭間に臨むピア・サポート―更生保護施設および併存性障害者支援施設をフィールドとして」(『現代社会学理論研究』18: 31-43,2024年)など。

大江將貴

帝京大学文学部助教
主要著作に,『学ぶことを選んだ少年たち―非行からの離脱へたどる道のり』(晃洋書房,2023年),『日本の青少年の行動と意識―国際自己申告非行調査(ISRD)の分析結果』(分担執筆,現代人文社,2024年)など。

吉間慎一郎

検事
主要著作に,『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論―再犯防止をやめれば再犯は減る』(LABO,2017年),「社会変革のジレンマ―伴走者と当事者の相互変容からコミュニティの相互変容へ」(『犯罪社会学研究』44: 46-62,2019年),「包摂と排除をひっくり返す―解放区からの変革可能性」(『犯罪社会学研究』49: 25-39,2024年)など。

向井智哉

福山大学文化学部講師
主要著作に,『処罰と近代社会―社会理論の研究』(翻訳,現代人文社,2016年),「厳罰傾向と帰属スタイルの関連―日韓の比較から」(共著,『心理学研究』91(3): 183-192,2020年),「特定少年実名報道への支持と,責任付与・改善更生・重大性に関する各認知との関連」(共著,『心理学研究』95(2): 119-128,2024年)など。

はじめに

本書の原点は2つの難題にある。8年前,私たちは,ハーバード大学法科大学院の図書館の地下にある埃まみれの段ボールに入った資料を見つけたのだが,それが最初の難題だった。その段ボールには,ハーバード大学のシェルドンとエレノア・グリュックによってまとめられたもので,彼らの古典的研究である『少年非行の解明』(Glueck and Glueck, 1950)のもともとの事例ファイルが入っていた。これらのデータと『解明』の1000人の対象者に関する18年にわたる追跡データは,1972年にハーバード大学法科大学院に寄贈されていた。グリュック夫妻は彼らの私的な文書,往復書簡,本,写真等も図書館に寄贈していた。これらの文書やその他のアイテムはグリュック夫妻のアーカイブの一部として分類され,完全に目録化されていた。段ボール内の資料は,図書館の地下室にただ保管されていた。
私たちはこれらのデータは計り知れないほど重要なものになると感じた。他方で,それらを分析することは容易ではなかった。たとえば,500人分の非行データだけでも,50個以上の12インチ×15インチのダンボール箱に収められており,とても手に負えないように思えた。また,これらのデータを再コード化し,コンピューターで処理でするのはきわめて困難だった。さらに,その事例ファイルを整理し始めると,それらは通常のデータではないことにすぐに気がついた。また,ファイルの整理を続けていくうちに,グリュック夫妻自身が型にはまった研究者ではないこともわかった(Laub and Sampson 1991)。しかしながら,数年にわたる素晴らしいグループと組織の努力によって,グリュック夫妻のデータの大部分を再構築した。それらのデータは本書における分析に供されたおもな情報源である。
グリュック夫妻のデータをまとめようとする一方で,私たちは年齢と犯罪,縦断的および横断的研究,「犯罪キャリア」概念の有用性などを巡る,近年の犯罪学を巻き込んだ根深く悪意のある議論に直面した(とくにGottfredson and Hirschi, 1986, 1990; Blumstein et al., 1986, 1988aを参照)。他方で,ゴットフレッドソンとハーシ(Gottfredson and Hirschi, 1990)は青年期の発達初期段階において自己統制を生み出すために,効果的な子育てが重要であることを主張していた。彼らは,自己統制がライフコースを通じた犯罪のパターンの理解にとって十分に安定した現象であると仮定したため,生活の縦断的調査は不必要であると見なしている。私たちは,少年非行の原因を説明するうえで家族の重要性が強調されていたため,この理論的な発想に魅力を感じた。
一方で,彼らの安定性に関する議論の重要な側面については疑問があった。成人期の犯罪パターンを説明するのに必要なのは,子育ての効果だけなのだろうか。成人期における個人の変化と重要な出来事についてはどうなのだろうか。縦断的データは犯罪を理解するうえで本当に不必要なのだろうか。これらの問題を検討するなかで,ハーシとゴットフレッドソンへの批判(たとえば,Farrington, 1986a; Blumstein et al., 1988a, 1988b)が,犯罪研究に関して重要なことを述べていると考えるようになった。縦断的なデータを適切に(つまり縦断的に),かつ理論的に活用することで,犯罪の原因について新たな知見を得ることができると考えている。私たちの見解では,この議論の両陣営の理論的な難題は,本質的には次のような課題に要約されると考えている。つまり,私たちは縦断的な視点から,幼少期における反社会的行動,思春期における非行,そして成人期の犯罪を解き明かすための理論的モデルを開発し,検証することはできるのだろうか。言い換えるならば,私たちは生涯にわたって犯罪と非行を解明することは可能なのだろうか。
結局のところ,両方の難題に対する私たちの解決策,ひいては犯罪学の議論における統合と調和をつくり出す試みの成否は,読者の判断に委ねられている。すべての理論をつまみ食いしようとするのではなく,私たちは議論の両陣営双方から経験的および理論的に正しいと思われるものを取り入れ,それらを組み合わせて,個々の部分の総和を超える一貫した主張を形成することを目指す。
もちろん,このような論争はたんなる学問上のものではない。私たちは,グリュック夫妻のデータに対する分析が,犯罪および犯罪政策に関する公共の議論にも貢献すると考えている。とくにグリュック夫妻のデータは,現代社会の犯罪と過去の犯罪を比較して理解を深めるためのめったにない機会を提供してくれる。「現在のデータ」に過度に重点がおかれるのは,社会調査において時間という次元は無関係であるという誤った考えによるものである。サーンストロムは,ボストン居住者の社会的流動性についての先駆的研究において,次のように主張した。「社会現象の歴史分析は,過去そのものに関心がある人だけの贅沢ではない。現在がどのような変化の過程を経て形作られたのかを無視してしまうと,現在に関する研究は必然的に表層的なものになる」(Thernstrom, 1973: 3)。このような観点から,私たちは本書が現代社会における犯罪問題の一般的な議論に関係するものと信じている。
たとえば,今日では犯罪についての議論の中で,犯罪行為が人種や薬物と必然的に結びついていると仮定されることが多い(Kotlowitz, 1991を参照)。しかし,私たちが分析している歴史的文脈では,犯罪は黒人の仕業ではなく,むしろ構造的に不利な地位にいる白人たちによるものである。また,薬物は広く浸透していなかったが,犯罪とアルコール乱用はかなり横行していた。グリュック夫妻の非行少年サンプルに含まれた男性は持続的で,重大犯罪を起こした者であり,また彼らの多くは現代的にいえば「キャリア犯罪者」というラベルが貼られるだろう。それゆえ,サンプルとなった人々が社会的および経済的に不利な環境から抽出されながらも全員が白人であったという事実は,人種,犯罪,アンダークラスに関する現在の懸念を評価するための重要な比較の基礎となる(Jencks, 1992を参照)。さらにコカインやヘロインなどの薬物の使用や有償譲渡はこの研究では広く見られたわけではなかったので,アルコールと犯罪行為の間の関係について知見を得るための貴重な機会となっている。私たちの見解では,犯罪政策の方向性は,データ,理論,歴史的・縦断的視点なしに決定されることがあまりにも多いが,本書はこの3つの要素をすべて網羅している。
同様に,私たちは,犯罪に関連する問題に対する解決策として収容のみに焦点をあてるような狭い視野には強く反対する。犯罪対策は,より広い視野に基づいていなければならないし,犯罪を減少させるための政策の最重要事項として,家族,学校,労働条件,近隣住民のような非政府機関に目を向けるものでなければならないと確信している。政府は,私たちの社会におけるこれらの基本的な機関を強化するよう導くことができるし,そうすべきである。私たちは,重大犯罪を行った個人をけっして収容すべきではないと言いたいのではない。むしろ,私たちが,長期の施設収容,とくに少年犯罪者に対する長期収容に重きをおいた現代の犯罪対策に留保を付すのは,そのような政策が犯罪を減らすこともないうえに逆効果を生じさせるのではないかと危惧しているからである。
私たちは,犯罪は注目すべき差し迫った社会問題であると信じている。私たちは2人とも,過去に,とくに生活の質や社会的結合に対する犯罪の破滅的効果や犯罪が生み出す恐怖心について書いたことがある(Sampson, 1987, 1988; Garofalo and Laub, 1978; Laub, 1983a)。この関心を反映して,私たちは,本書において,犯罪に関する政策について新たな方法で考える際に用いる理論的・経験的枠組みを提案する。犯罪に関する公共空間における言論は,テレビ番組やラジオ番組によって支配されているが,私たちは,こうした場は犯罪の原因や犯罪に関する問題の解決策について議論するには不適切だと考えている。私たちの見方によれば,じつは私たちも過去に求められてきたことなのだが,犯罪研究を放送用の10秒の言葉に集約できると考えるのは無謀である。メディアによる報道はさておき,私たちは,ほとんどの市民は,のちに本書の分析の中で明らかにされるような,犯罪に関する問題の複雑性に気づいており,そのことをよく理解していると考えている。本書の分析は,時に難解なものに見えるかもしれないが,「全体像」を抽出するための基礎として必要なものである。この知識をもとに,犯罪に関心をもち,社会科学的研究が犯罪対策に関する対話を促進できると楽観的に考え続ける私たちのような人々に届くことを目指している。私たちは,よく熟考され,学識に基づいた犯罪対策は可能であるはずだと考えているし,私たちの研究が犯罪対策の発展に貢献できることを望んでいる。
私たちは,経験的および理論的な謎と現在の政策論争に対するより大きな関心とを以下のような形で結びつける。最初の3章では,本書のおもな理論的戦略を提示する。より具体的には,第1章では,ライフコースという枠組みと年齢段階に応じたインフォーマルな社会統制と犯罪の理論的モデルの主要原理を概説する。第2章では,グリュック夫妻の『少年非行の解明』における研究を,縦断的追跡データとともに詳細に見ていく。この章では,グリュック夫妻の犯罪学的視点を歴史的および制度的な文脈に位置づけ,グリュック夫妻の調査研究に対する方法論的,イデオロギー的批判に応答する。第3章では,現代での利用に向けてグリュック夫妻のデータをどのように再構成したのかについて,データの妥当性を実証的に検証するために私たちが払った努力を含めて概説する。また,グリュック夫妻の研究の対象者を歴史的に位置づけ,個人の生涯を理解するうえでのコホート効果と時代効果についても論じる。
次の2章では,青年期における反社会的行動や非行行為の原因についての検討を行う。第4章では私たちのインフォーマルな家族による社会統制を扱ってその評価を行い,第5章では学校の要因,きょうだい,仲間集団に焦点をあてる。この2章において,私たちは,『少年非行の解明』研究においてもともと生成されていた横断的データを分析する。
次の3章では,成人のライフコースにおける犯罪と逸脱の持続と変容を探究する。この分析は,『少年非行の解明』研究での1000人の男性に関する犯罪の持続と犯罪からの離脱を検証することが中心となっている。第6章では,子どもの非行行為と成人後の結果との連続性を検討する。第7章では,もともとの500人の非行少年だった対象者に対して成人期の社会的絆が犯罪行動の変化に与える影響について探究する。第8章では,もともとの500人の非行をしていなかった対象者が,遅くに犯罪や逸脱を開始することについて検討する。これらの分析においては,グリュック夫妻が公的記録と25歳時と32歳時における面接調査から集めた追跡データを用いる。また,調査対象者たちの32歳から45歳までの犯罪活動に関する新たなデータも提示する。
第9章は,グリュック夫妻の調査チームによって集められた質的データと量的データとを統合する。私たちは,豊富な語りの情報を描写することで,私たちの理論における鍵となる対比を表す70人の男性の反社会的行動と社会統制の生活史を探究する。最後に,第10章において,研究結果を統合し,犯罪学的理論と研究への示唆について議論する。そして,この研究が犯罪に関する現在の政策的論争に与える影響の記述をもって,この本を締めくくる。

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