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薬物依存からの「回復」

ダルクにおけるフィールドワークを通じた社会学的研究

相良翔 著

発行日: 2019年12月20日

体裁: A5判上製288頁

ISBN: 978-4-908736-14-8

定価: 4600円+税

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電子書籍あり

内容紹介

薬物依存者として生きていく

民間リハビリテーション施設「ダルク」におけるフィールドワークを通じて,薬物依存からの「回復」のプロセスとその意味内容を記述し,社会学的に考察。「自分でどうにかして生きていく」ことだけではなく,「何かによって生かされている」ことも可能な社会のあり方とは。

補論として,4人のライフストーリーを収録。

目次

序章 本論の問題関心

第1章 ダルクとはいかなる場所なのか?

第2章 薬物使用における〈止める―プロセス〉の検討

第3章 調査概要

第4章 「回復」に向けた契機としての「スリップ」

第5章 「回復」と「仲間」――ダルクにおける生活を通した「欲求」の解消

第6章 「回復」のプロットとしての「今日一日」

第7章 「回復」における「棚卸し」と「埋め合わせ」

第8章 ダルクベテランスタッフの「回復」

第9章 「回復」を巡るコンフリクト

終章 「回復」を支える社会のあり方

補論 ダルクメンバーのライフストーリー

著者

相良翔(さがら・しょう)

2018年,中央大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了。現在,埼玉県立大学社会福祉子ども学科助教。

[主要著作]

相良翔,2018,『自分を信じることから「立ち直る」―向き不向きよりも前向きに』セルバ出版.

南保輔・中村英代 ・相良翔編,2018, 『当事者が支援する―薬物依存からの回復 ダルクの日々パート2』春風社.

相良翔,2013,「ダルクにおける薬物依存からの回復に関する社会学的考察―『今日一日』に焦点をおいて」『福祉社会学研究』10: 148-170.

相良翔・伊藤秀樹,2016,「薬物依存からの『回復』と『仲間』―ダルクにおける生活を通した『欲求』の解消」『年報社会学論集』29: 92-103.

相良翔,2017,「更生保護施設在所者の『更生』―『更生』における自己責任の内面化」『ソシオロジ』62(1):115-131.

はしがき

私は偶然が重なり非行および犯罪からの「立ち直り」について研究することになった。

大学時代に社会福祉学を専攻していた私は,社会福祉士になるべくソーシャルワーク実習の授業を履修していた。そのときの実習先の中に更生保護施設があった。その実習では,更生保護施設だけではなく,精神科クリニックやホームレス支援関係の施設など関連機関にも多く連れていってもらい,さまざまな視点から「立ち直り」について考えることができた。そして,この社会の現状について,とくに社会的排除のリアリティについてまざまざと見せつけられた。さまざまな理由はあれども,人が生きていくのに必死になってしまう環境に追い込まれるさまを見て,心のどこかにモヤモヤを抱えることになった。大学入学当時からなんとなく大学院に進学しようと思っており,このモヤモヤを解明することを考えて進学した。このような研究関心を得られたのも,そのときの実習指導者の方のおかげであり,大変感謝している。

修士課程から社会学を専攻し,「立ち直り」を支援する場所でもある更生保護施設でフィールドワークを行い,研究を進めていた。その中でやはり考えることが多かったのが,薬物関係の犯罪を起こした人たちの存在であった。とにかくその犯罪を繰り返している人が多かった。また,他の罪種で更生保護施設に住むことになった人の中にも過去に違法薬物の使用をしていた人が少なくなかった。「立ち直り」について考えていくうえでは,薬物犯罪について,薬物依存からの「回復」について調べることが必要になるだろうとそのときに思った。

博士課程に進学することを決め,更生保護施設の研究の傍らで薬物依存に特化した研究が必要だと考え,知人を通じて,薬物依存の民間リハビリテーション施設であるダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center)の1つXダルクへの訪問を決めた。Xダルクに関する事前情報を得ていたものの,具体的なイメージもつかめずに訪問の日を迎えた。正直,そのときの記憶はもうおぼろげなのだけれど,たしかミーティングに参加し,事務所でスタッフの方から説明を受けたと思う。印象としてダルクは,更生保護施設に比べて,ゆるい場所だなと感じた。そして,それは個人的にはとても心地のよい場所であった。その当時はそれがなぜなのかわからなかったし,今から思えばダルクでの生活の一側面しか見ていなかったが,とても楽な場所なのだろうなと思った。それがなぜなのか知りたいと素直に思った。そのうえで「回復」という用語自体は事前に知っていたのだけれど,その内容に考察を試みようとした。

そのタイミングで東京大学大学院の教育社会学を専攻する有志によって始められた非行研究会で,研究報告をする機会があった。そこにダルク研究会で一緒に活動することになる森一平さん(現在,帝京大学)と伊藤秀樹さん(現在,東京学芸大学)と出会った。そして,そのお二人からダルク研究会に誘われることになった。2011年1月頃と記憶しているが,本当にタイミングがよく,この出会いには感謝している。そして,早8年が過ぎるが,いまもダルクでの研究を続けている。

このように私がダルクをフィールドにして薬物依存からの「回復」について研究を始めるようになったのは,偶然が積み重なった結果ともいえる。しかし,この研究を続けてきたのはどこか自分の問題関心,つまり研究に向かう根本的動機に合ったものであったからだと思う。「立ち直り」もそうなのだが,「回復」という言葉に私が自然と関心を寄せたのは,これまで自分がどこか重荷のようなものを抱えて生きているような気がしており,そこから解放されたいと考えていたからであろう。そのヒントをダルクから見出せそうな気がしたからだ。勉強や研究を重ねるにつれて,そのような生きづらさを抱えているのは私だけではなく,社会的なものなのだと気づいた。そして,犯罪社会学,福祉社会学,医療社会学の観点から薬物依存からの「回復」について考察することを通じて,そのような生きづらさからの解放のヒントを考え出そうとしたのが本書のコンセプトにもなろう。薬物事犯という犯罪の研究,薬物依存症という病気の研究というよりも,薬物依存者として生きていくことの研究である。