グリットは安定した特性か?

『パーソナリティ研究』内容紹介

「やり抜く力」として注目されているグリットは安定したパーソナリティなのでしょうか。3年間の縦断パネル調査から,グリットの安定性について検討されました。(編集部)

井川純一(いがわ・じゅんいち):東北学院大学人間科学部。→ウェブサイト

本研究の目的

「やり抜く力」と邦訳されるグリットが近年着目されています。グリットは,目標に対する情熱や努力を示す「根気」と長期的な興味を示す「一貫性」の2つに分類され,それらの高さがその後の学業成績や仕事の継続性,良好なメンタルヘルスなどを予測することが示されています。一般的な生活を送っている以上,グリットが高いことはどうやらポジティブなことといえそうです。

では,このグリットは安定したパーソナリティ特性なのでしょうか? もし,グリットが生まれつきもしくは発達早期に完成されるものであり,変わりえないならば「あなたは今現在グリットが低いです」と言われるとかなりつらいものがあります。一方,さまざまな経験によって変化しうるものであれば,これからグリットを高めるために何ができるのかを考えることができます。まあ,かといってあんまりコロコロ変わるのであればそれを質問紙で測定することにどんな意味があるのかという疑問も生じてしまいます。

日本ではこれまで,グリットの経年変化について長期的なスパンで検討された研究は発表されていませんでした。そこで,本研究では日本の介護福祉士を対象とした3年間(Time1―Time3)の縦断パネル調査(同じ人が毎年8月末にアンケートに回答)のデータをもとにその疑問にアプローチました。

パーソナリティ特性とグリット

本研究でグリットと比較したのが,神経症傾向,外向性,開放性,協調性,誠実性からなるビッグファイブという性格検査です。文化を超えて性格特性を説明するために使用されているビッグファイブは,近年の心理学研究においては,パーソナリティ全体を把握するための特性検査として用いられています。一般に「性格」として考えられているものと,グリットを比較すればどの程度グリットが安定した特性なのかがわかるだろうということですね。

分析結果

スコアの平均値の変化について検討したところ,グリット(根気,一貫性)もビッグファイブ(神経症傾向,外向性,開放性,協調性,誠実性)も3年間でほとんど変わりませんでした。これを見ると,どうやらグリットは3年程度では変化しないように見えます。グリットの低めの僕にとってはしょんぼりとした結果です。ただ,それぞれの得点同士の毎年のスコア同士の相関係数を確認してみたところ,ビッグファイブの項目の多くよりも,グリットの項目の方が低い相関係数にとどまっていました。この結果は,全体レベルの平均値はあまり変わっていないが,個人レベルで見ると上がったり下がったりしていることを意味しています。相関係数の値は中程度ということもあり,まさしく高くも低くもないという結果ですね。これらの結果を総合すると,グリットは「性格」ほどではないもののある程度安定している一方で,さまざまな経験を通じて変化しうるということになります。

本研究の今後

今回の調査に参加していただいたのは,介護福祉士という対人援助の専門家であったため,もう少し参加者の幅を広げた調査を行う必要があります。また,今回の研究を通じて,そもそも非認知能力とは何か?という点について考えるようになりました。「こころ」は目に見えるものではなく,概念を何らかの方法で測定することで,あたかもそれが存在するかのように見えてきます。グリットという概念も最近になって注目された概念です。このグリットを質問紙で測定することで我々の行動への理解が深まるのかどうかについてもあらためて考えていきたいですね。

論文

井川純一・中西大輔 (2023).「グリットは安定したパーソナリティ特性か?――Big Fiveとの比較を通じた縦断的検討」『パーソナリティ研究』32(2), 36-38.