なぜオンラインカウンセリングは続かないのか?

『パーソナリティ研究』内容紹介

新型コロナの影響でオンラインによるカウンセリングが広がってきています。継続的なカウンセリングが途中で続かなくなることをドロップアウトと言いますが、オンラインでのカウンセリングではどのような要因によりドロップアウトが生じるのかが分析されました。(編集部)

桂川泰典(かつらがわ・たいすけ):早稲田大学人間科学学術院・准教授。→ウェブサイト

ポストコロナのカウンセリング

世界中でコロナの嵐が吹き荒れ,さまざまな業界が生き残りのために変革を求められています。カウンセリング業界も例外ではありません。カウンセリングとは,時間や空間,テーマなどを定めることで,日々の暮らしの中ではなかなか実現できないような,他者との濃密なコミュニケーションを試みる場といえます。そのためには,プライバシーの守られた空間が必要ですし,急かされずにじっくりと話し合える時間が必要です。それはコロナ禍において,私たちが最も避けるべきとされてきた,「密」な場であるといえます。そのため,従来から少しずつ普及しはじめていたオンラインを用いたカウンセリングですが,コロナパンデミックを契機として爆発的に普及することとなりました。(とはいえ対面で行われるカウンセリングもまだまだ主流です。多くの機関では,コロナ予防の厳重な対策を行って実施しています。)

オンラインでカウンセリングはできるのか

オンラインカウンセリングを実施するにあたって,カウンセラーの多くが心配したことは,「オンラインでカウンセリングの空間や作用を作り出すことは可能なんだろうか?」でした。しかし,2010年以降,オンラインカウンセリングと対面カウンセリングを比較した研究が出はじめると,「オンラインも意外と悪くないぞ」ということがわかってきました。私たちは経験を積むほどに,新しい技術に対しては懐疑的な視点を持ちやすくなりますが,目的を明確にして使うことができれば結構使えるツールであることもわかってきたのです。

一方で,オンラインカウンセリングのデメリットも少しずつ指摘されるようになります。その1つが,「相談が続かない」(これをカウンセリングの世界ではドロップアウトと呼びます)という問題です。とくに,2回目のカウンセリングでガクンと相談に来る方が減ってしまうことが問題になりました。これは,対面のカウンセリングでも同じ傾向があるのですが,オンラインでは対面以上にカウンセリングの初期にドロップアウトしやすいことがわかっています。

なぜカウンセリングが続かない?

カウンセリングのドロップアウト研究は歴史が古く,年齢,性別,経済状況や問題の深さといった相談者個人の要因,カウンセリング機関までの距離や待ち時間といった環境的な要因,相談者とカウンセラーの関係性やカウンセリングの満足度などカウンセリングの質がもつ要因など,さまざまな観点から研究がなされてきました。しかし,オンラインカウンセリングの初期に何を理由として相談者は来なくなってしまうのかについては十分に調べられていませんでした。

そこでこの研究では,オンラインカウンセリングの相談者を対象として,カウンセリングが継続されたか否かを追っていき,その可否にはどのような要因が影響しているかを統計的に解析しました。

年齢とか性別とか関係しそうですが

その結果,相談者やカウンセラーの年齢や性別などの要因は,ドロップアウトには影響していませんでした。これは意外に思われるかもしれません。私たちは「同性のほうが話しやすそう」とか「年下には相談しにくいなぁ」とか素朴に考えることがあります。相談者が若い方の場合にはこの傾向が見られるのですが,年齢を重ねていくとドロップアウトへの影響性が下がっていくことが,これまでの対面カウンセリングの研究でも明らかになっており,オンラインカウンセリングでも年齢,性別はあまり重要な要因ではない,という結果でした。ただ,年齢ではなく,カウンセラーの「カウンセリング経験の長さ」は影響していて,やはり歴の長いカウンセラーが実施するカウンセリングのほうが続きやすい傾向があるようです。

大事なことは未来へ向かうカウンセリングであること

また,相談者がカウンセリングの質を評価する項目では,「カウンセリングの効果を実感」すると1回で終わってしまう傾向も確認されました。この結果は,評価が難しいところです。文字通り「もうすっかり元気になったので大丈夫」と考えていいのか,あるいは十分に元気になったわけではないのだけど,相談者が目指すゴールとカウンセラーが目指すゴールのすり合わせが十分できてなかった可能性も考えなければいけないと思っています。どうやら「満足度が低いのでやめる」といった単純なものでもないようなのです。

一方,相談者がカウンセリング後に「将来的に効果が出そうだと感じる」と継続しやすい傾向も確認されました。当たり前といえば当たり前のような感じもしますが,1回目のカウンセリングでそれを感じてもらうには,やはりカウンセラー側の技術が必要です。カウンセラーは,相談者のニーズを踏まえ,このオンラインカウンセリングという場で何ができそうか,相談者がどうなることを目指していけそうかについて一緒に考え,ある程度の道筋を示せなくてはいけません。

オンラインカウンセリングは移動の手間がなく,「カウンセリングはもっと重たい問題を抱えた人が受けるもの」といった思いの影響を受けにくいなど,対面カウンセリングと比べると気軽に利用できるというメリットがあります。一方で,相談者のニーズも状態もさまざまであることから,カウンセラーにはよりいっそう,「相談者のニーズの把握とカウンセリングでできることのすり合わせ」や「カウンセリングの道筋を示す力」が求められるといえそうです。

論文

桂川泰典・松葉百合香・飯島有哉・千葉一輝・原田陸 (2022).「オンラインカウンセリングにおける初期ドロップアウト要因の探索的検討」『パーソナリティ研究』31(3), 148-158.