いろいろな衝動性を捉える

『パーソナリティ研究』内容紹介

あまり深く考えずにものごとを行ってしまうことに悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。そうした衝動性をどのように測定することができるのでしょうか。5つの側面から衝動性を測定する尺度が日本語に翻訳されました。(編集部)

喜入暁(きいれ・さとる):大阪経済法科大学法学部准教授,博士(心理学)。→ウェブサイト
松本昇(まつもと・のぼる):信州大学人文学部准教授,博士(心理学)。→ウェブサイト

衝動性

明日は朝早いのに,帰らなければならないはずなのに,今のこの場が楽しいから帰らなくてもまあいいかとか,よく考えればわかるはずなのに,それが後々大変なことになるのは明らかなのに,調子に乗ってべらべらしゃべってしまうとか,少し粘れば,少し頑張ればなんとかなるのに,結局投げ出してしまって後悔しても遅い,というようなことはよくあるのではないでしょうか。あるいは,むしゃくしゃして着ない服を大量に買ってしまったり,爆食して気持ち悪くなってしまったり,ということもあるかもしれません。このようなケースを「あるあるある!」と思う人は,おそらく衝動性が高いです。ちなみに筆者は(おそらく共著者も)こんなことがよくあるので,衝動性が高いのだろうなあと思う今日この頃(ここ数年)です。

本研究は衝動性,つまり,「(悪い結果になってしまうかもしれないにもかかわらず)あまり深く考えずにものごとを行ってしまうという行動特性」を測定する海外の尺度を翻訳し,日本人にも使えるかどうかを検証したものです。

衝動性のさまざまな側面

「衝動性」と一言で言っても,その概念は一枚岩ではなくさまざまな側面があります。「国語」の側面として「現代文」「古文」「漢文」がある,みたいなものです。衝動性にいくつの・どのような側面が仮定されるのかはアプローチによって異なるのですが,私たちが今回の研究で注目したのは5つの側面を測定する尺度で,UPPS-P尺度などと呼ばれます。アルファベットは各側面(因子)の頭文字です。

5つの側面とは,一般的に想定しうる,忍耐欠如(lack of perseverance),熟考欠如(lack of premeditation)に加え,ジェットコースターやカーチェイスのようなスリルを求める傾向の側面である刺激希求(sensation seeking)と,情動喚起に伴う衝動的行動の側面である2つの切迫性(urgency)です。

UPPS-Pの特徴と妥当性検証

UPPS-P尺度が他の尺度のアプローチと異なる特徴的な点は,切迫性を捉えるところです。ネガティブ気分に伴ってまずい行動をとってしまう(負の切迫性),あるいはハイな気分の時にやらかすような行動をとってしまう(正の切迫性),という側面です。

しかし,尺度を翻訳したからといっても,日本人に当てはめて「測定したい衝動性を本当に測定しているかどうか」はわかりませんので,「たしかに衝動性を測定しているようだ」ということ(これを妥当性といいます)を検証する必要があります。また,5つの側面はいずれも衝動性ですが,その質がそれぞれ若干異なりますので,「この5つの側面が同じものではなくそれぞれ弁別されうる」ということも検証する必要があります。本研究では,他の個人差を測定する尺度を実施し,それらの個人差とUPPS-P尺度で測定された各側面の得点がそれぞれ想定された通りの関連を示すかどうかを検証しました。

具体的には,自己制御(5つの側面すべてと関連するはず),不安・抑うつ傾向(正負の切迫性と関連するはず),「やり抜く力」(忍耐欠如・熟考欠如と関連するはず),危険行動(たとえば無茶な運転など;刺激希求と関連するはず),躁傾向(正の切迫性と関連するはず;ただし結果的に関連は示されませんでした)との関連に加え,複数の性格特性との関連を検証しました。この予想はすべてではないもののおおむね支持されたため,妥当性があると判断しました。

今後の展望

この尺度の妥当性は18歳以上のサンプルで検証しました。ですので,じつはこの尺度を適用するのに妥当であるといえるのは,厳密には「18歳以上」という制限つきです。一方,18歳未満,とくに青年期やそれ以前であっても衝動性の個人差はあり,そしてそれが生きにくさや問題行動につながる可能性も指摘されています。そのため,18歳未満にも適用できるかどうかを検証する必要があるでしょう。また,現状の尺度の文言は青年期やそれ以前の年代にとって難しいと思われますので,簡単な文章に修正する必要もあるかもしれません。

この研究のおもしろさ

手前味噌ですが,妥当性を検証するために,とくに5つの側面の弁別性を検証するために詳細な理論ベースの予想を立てた点,そしてそれが(完璧ではないにせよ)きれいに再現されたことは,理論ベースでの調査研究をしている研究者冥利に尽きるポイントです。この辺が伝わるかどうかはなかなか難しい気がしますが,一種のカタルシスですね。孔明が二重三重に策をめぐらせ,曹操がばっちりハマってくれた感覚とでも言いましょうか(筆者は曹操はどちらかというと好きですが)。なお,この尺度を使った私たちの別の研究では,3つのダークな性格(冷淡で自己中,他者は仲間というよりも自分の目的のための道具,と認識しがちな性格)がUPPS-Pモデル(5つの側面)に基づき初めてクリアに弁別されました(Kiire et al., 2020; このときのもう1人の共著者も衝動性が高いようです)。ということで,UPPS-P尺度,使ってもらえたら嬉しいです。

ちなみに筆者は明日1限授業の予定があり,でもお酒が美味しいなと思っていたらすでに深夜XX時です。しっかり熟考欠如の高さが反映されているようです。そして,こんな自慢めいた文章を書いてしまうのも正の切迫性が反映されているのでしょうね。

論文

喜入暁・松本昇 (2022).「短縮版多次元衝動的行動尺度日本語版(SUPPS-P-J)のさらなる妥当性の検証」『パーソナリティ研究』31(3), 112-121.