自分は他の人よりも協調的で真面目?

『パーソナリティ研究』内容紹介

自分が他の人よりも優れていると思いますか? 劣っていると思いますか? 欧米の人たちには一般的にみられる自己高揚バイアスが日本人にはあまりみられず,自己卑下さえみられるといわれています。そうした傾向が性格特性の5つの側面にどのようにみられるのか,20歳代から50歳代までの幅広い日本人を対象に調査がされました。(編集部)

小田亮(おだ・りょう):名古屋工業大学大学院工学研究科教授。→ウェブサイト

自己高揚と自己卑下

みなさんは,自分が他の人よりも優れていると思いますか? それとも劣っていると思いますか? 自己評価の研究においては,人間には自己を実際よりも望ましい存在として捉える自己高揚バイアスがあることが指摘されてきました。しかし,それはおもに欧米の人たちに一般的なもので,日本ではあまりみられないばかりか,自己卑下的な傾向さえあることがわかってきました。なぜ文化によって自己高揚や自己卑下の傾向が異なるのかについてはいろいろな説がありますが,適応的な観点からみると,自律的であることや独自の特性をみつけ表現することが大切と考えられている相互独立的な自己観が優勢な欧米では,自己の優秀さをアピールすることが評価されるのに対して,人間関係を重視し,関係のある他者との調和が大切と考えられている相互協調的な自己観が優勢な東アジアでは,謙虚に振る舞うことが評価されるからではないかと考えられます。

どんな性格特性に自己高揚や自己卑下がみられるのか

自己高揚や自己卑下はさまざまな特性についてみられますが,たとえば性格はどうでしょうか。性格については,開放性,誠実性,外向性,調和性,そして情緒不安定性という大きく5つの因子に分けられるというビッグファイブモデルが広く支持されています。ある研究では日本人の学生を対象に,これらのうち情緒不安定性を除く4つについて,自分自身についての評価と,同じ学校に通う一般的(平均的)な同性の学生についての評価が比較されました。すると,開放性と外向性には他の学生よりも自分の方が低いという自己卑下がみられたものの,誠実性と調和性には自分の方が高いという自己高揚がみられるという結果になりました。誠実性と調和性において日本人には珍しく自己高揚が見られた理由として,これらの特性は協調性や真面目さと関連するものであり,相互協調的な社会においてはそういった特性がより重視されるものであるからだということが考えられます。しかしこの研究では,学生という限定された対象しか調べられておらず,また性格特性の測定に使われていた尺度も標準的なものではありませんでした。さらに,5つの因子のうち情緒不安定性については調べられていませんでした。

そこで筆者は,Big Five尺度短縮版というより一般的な尺度を用い,20歳代から50歳代までのより幅広い日本人に自分自身と他者一般の性格特性を評価してもらい,その差を分析しました。その結果,やはり開放性と外向性,そして情緒不安定性には自己卑下が見られたものの,誠実性と調和性には自己高揚と自己卑下のどちらもみられませんでした。つまり,日本人が自分の創造性やコミュ力について他者よりも低い,と考える傾向があることはかなり確実といえますが,協調性や真面目さが他者よりも高いと考えているとは必ずしもいえない,ということになります。

追試の重要性

心理学の研究には研究者自由度が比較的高いという特徴があります。つまり,必ずしも決まりきった手順や設定で研究が行われるわけではなく,研究をする人の裁量で手順や設定が変わることがよくあるということです。ただ,そうなると先行研究と同じ研究結果を再現することが難しくなります。それによる研究の信頼性の低下が,いま心理学では大きな問題となっています。その対策として直接的追試の重要性が指摘されているのですが,完全に正確な追試は原理的に不可能です。そこで,本研究のように異なる方法と対象により先行研究の結果を追認しようという試みである,概念的追試が役に立ちます。もし日本人の誠実性と調和性に自己高揚がみられるということが一般的な事実なのであれば,それは少々異なった対象や方法を用いても実証できるはずです。日本人の性格特性評価における自己高揚と自己卑下について,追認できる点とできない点を明らかにした本研究は,性格特性の自己観研究に新たな知見をもたらすものといえるでしょう。

論文

小田亮 (2022).「日本人の性格特性評価に自己高揚はみられるのか」『パーソナリティ研究』31(2), 100-101.