仲直り研究者を訪ねて(前半)

人間やさまざまな動物に見られる仲直りについて,進化ゲーム理論,動物行動学,心理学の研究を駆使して,進化心理学の観点から読み解いた『仲直りの理』を上梓した大坪庸介准教授が,動物行動学や幼児の仲直り研究で用いられるPC-MC比較法の面白さや大変さについて,4人の研究者から話を伺いました。(編集部)

大坪庸介(おおつぼ・ようすけ):東京大学大学院人文社会系研究科准教授。『仲直りの理――進化心理学から見た機能とメカニズム』(ちとせプレス,2021年)を刊行。

この度(2021年10月),ちとせプレスから『仲直りの理(ことわり)』という本を上梓しました。この本は,加害者の謝罪と被害者の赦しを通じた仲直りを進化心理学的な観点から理解することを目指しています。進化論的な観点をとるので,筆者自身は社会心理学者ですが,動物の仲直り研究も積極的に紹介しています。動物行動学での仲直り研究のスタンダードな方法は,PC-MC比較法といいます。PCというのは英語のpost-conflictの略で,直訳すれば「ケンカの後」になります。MCは英語のmatched controlの略で,ケンカの後に対応する(マッチする)統制条件というような意味です。ケンカの後(PC)にケンカをした二個体がお互いに近づいて親和的なやりとりをする頻度と,ケンカの後ではないけれどケンカをしたときと条件(時間帯や天気)が近い別の観察日に同じ二個体が近づいて親和的なやりとりをする頻度を比べます。もしケンカの直後の方がそうでないときよりもお互いに近づいて親和的な相互作用をしやすいのであれば,それはケンカの後に特有の仲直り行動といえます。

PC-MC比較法は,霊長類学者のフランス・ドゥ・ヴァールにより霊長類を対象とした研究方法として確立されました。ですが,ケンカをするところが観察できるのであれば,霊長類以外のどんな動物にも応用できます。そのため,動物行動学でのスタンダードな仲直り研究方法になっています。そして,さまざまな動物でケンカの後はそうでないときよりも親和的な相互作用が増えること(仲直りが起こること)が示されています。もちろん,すべてのケンカが仲直りで円満に解決するわけではありませんが,ケンカの後ではないとき(MC)と比べると,ケンカの後(PC)には親和的相互作用が統計的に有意に増えるのです。PC-MC比較法の応用先は霊長類以外の動物だけではありません。ヒトの幼児の仲直り研究にも利用されています。幼児に調査票を渡して回答を求めることはできませんが,子どもたちを観察していてPCとMCを比べることは可能だからです。

このPC-MC比較法を使った研究は,日本でも行われています。しかも,ニホンザル,ハンドウイルカ,セキセイインコ,ヒトの幼児の仲直りとヴァリエーションに富んだ研究がなされています。私はヒトの成人の仲直りを調べています。ヒトの成人の場合,質問票に回答してもらうことが可能なので,PC-MC比較法を使ったことがありません(1)。それだけでなく,PC-MC比較法を使った研究の難しさや面白さも肌感覚でわかっていません。それならば,実際にこの方法を使って研究をしたことがある先生方からお話を聞いたらいいのではないか。そして,それを本の中で紹介したら,研究の舞台裏まで含んだ生き生きした記述になるんじゃないか。これは良いアイデアだぞと思っていた矢先,コロナ禍の緊急事態宣言で都道府県をまたぐ移動が実質的にできなくなりました。というわけで,「良いアイデア」はお蔵入りになり,そのまま執筆を進めることとなりました。

執筆が終わり,ちとせプレスの櫻井堂雄さんから何か出版に関するエッセイを書きませんかと声をかけていただきました。そこでお蔵入りにしていた良いアイデアを思い出しました。あいにくコロナ禍はまだ終息していませんが,いまではオンライン会議がごく普通に行われるようになっています。そこで,本書で研究を取り上げた4人の先生方にダメ元で「お話をうかがえませんか」という連絡をしてみました。すると,4人の先生方全員からOKというお返事をいただくことができました。お話を伺ったのは,ニホンザルの仲直り研究をされた沓掛展之先生(総合研究大学院大学),ハンドウイルカの仲直り研究をされた山本知里先生(三重大学),セキセイインコの仲直り研究をされた一方井祐子先生(金沢大学),ヒトの幼児の仲直り研究をされた藤澤啓子先生(慶應義塾大学)です。順序は,お話の内容を踏まえて,私が書きやすいように並べさせていただきました。

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ニホンザルの仲直り研究の舞台裏

冒頭で書いたようにPC-MC比較法は霊長類研究で最初に確立されました。ですから,日本でPC-MC比較法を使った研究をしようと思ったら,すぐに思いつく対象はニホンザルです。研究のくわしい記述は本編(または沓掛先生のオリジナルの論文)に譲りますが,沓掛先生の研究では,MC(ケンカの後ではないとき)に比べてPC(ケンカの後)で仲直り行動が起こりやすいかどうかだけでなく,PCには自分自身を掻く,自分自身の毛づくろいをする,体を震わせるといったストレス反応が増えるかどうかも検討されています(2)。この研究が行われたのは長野県の地獄谷野猿公苑です。沓掛先生はここに大学生の頃から通い始め,この研究を修士論文研究としてまとめられました。結果も気になると思うので,簡単に述べておくと,ケンカの後,ストレス反応は増えるが,仲直りするとストレス反応が減るということが示されました。

図 ニホンザルの仲直り行動。Bの毛づくろいを始めるAと,それを受け入れるB。写真提供:沓掛展之先生

もしかすると,地獄谷でニホンザルを眺めていて大学院の学位(修士)がとれるなんてうらやましいと思われる方もいるかもしれません。ですが,野生のニホンザルを研究として観察するというのは,動物園でサルの群れをノンビリ眺めているのとはまったく違います。私も,沓掛先生にお話をうかがってあらためてその大変さに思い至りました。そもそも,PC-MC比較法ではケンカをした個体同士をそれ以外の場面(MC)であらためて観察する必要がありますから,個体識別ができることが前提です。沓掛先生の場合,はじめての研究がこのPC-MC比較法研究で,まずそこにいる200頭くらいからなる群れの個体識別をすることからスタートしなければなりませんでした。ベテランになってくるとかなり早く群れ全体の個体識別ができるようになるそうですが,沓掛先生にとってはこれが人生はじめての霊長類研究だったこともあり,約200頭の個体識別ができるようになるために9~10カ月くらい必要だったそうです(だからこそ,大学生の頃から通い始めたのに,その成果は修士論文になっているわけです)。「さあ,データをとるぞ」という準備態勢を整えるためだけにこんなに時間がかかるなんて,本当に頭が下がります。ところで,個体識別というとなんとなく顔を見るのだろうと思うかもしれません。もちろん,顔も見るようですが,霊長類の場合は,観察していると後ろ姿だけでもどの個体かわかるようになるそうです。また,研究に慣れてくるにつれて,はじめての群れでも比較的すぐに個体識別することができるようになるそうで,沓掛先生がその後,野生のチンパンジーの観察を行ったときには,50頭くらいの群れの個体識別ももっと早くできたそうです(半年経っても学生の顔と名前がなかなか一致しない筆者としては本当に頭が下がります)。

こうして研究の準備が整ったら,あとは見晴らしの良い場所に陣取って,延々とサルたちがケンカを始めるのを待っていたそうです。論文を読んでいると,サルたちはちょくちょくケンカをしているのかなという印象をもっていましたが,実際にはわりと平和に暮らしていてなかなかケンカなんて起こらないのだそうです。そうして延々と待っていてついにケンカが起こると,ケンカを観察しやすい場所に移動して記録をとるそうです。この観察しやすい場所に即座に移動するフットワークの軽さこそフィールドワーカーとしての最も大事な資質の一つとおっしゃっていて,じつはこの研究の成功の鍵にもなっているところです。たとえば,沓掛先生は先行研究にならってストレス反応の一つとしてあくびも記録されていました(最終的な分析には含まれていませんが)。背後からターゲットのサルを見ていたらあくびをしたかどうかわかりません。そう考えると,観察しやすい場所にすぐに移動するフットワークが大事だというのは,サッカーやバスケットボールのスタープレイヤーが絶妙な場所でパスをもらってシュートを決めるようなものなのだと合点がいきました。

こうして良い位置取りをして観察するわけですが,先行研究でストレス反応とされている行動には,あくび以外に自分を掻く,自分の毛づくろいをする,体を震わすといった行動があります。論文ではわりと素っ気なく書かれていますが,自分を掻くのと毛づくろいするのは実際にはどんな具合に違うのか気になります。自分を掻くというのは本当にガシガシ掻くと表現してもよいような反応なのに対して,自分の毛づくろいをするというのはなんだかモジモジしているときのような感じで,擬人化を許してもらえば「あぁ,やっちゃった……」といって落ち込んでいるといった印象を受けるそうです。体を震わすというのは犬が濡れた体をブルブルっとやるような感じだそうです。こうして具体的にお話を聞くとよくわかるなと思っていた矢先,東京の街中に出没したニホンザルが,屋根の上でカラスに威嚇されて逃げ出したという驚きのニュースを目にしました。映像を見ていると,逃げ出す前のサルがまさにガシガシという感じで体を掻いていて,「あ,ストレスを感じてるな!」と,早速教えていただいた知識が役に立ちました!

他にも論文ではサラッとしか書かかれていない,だけどよく聞くと面白い話を教えてもらいました。地獄谷野猿公苑のサルたちは野生だけど餌付けされています。つまり,決まった時間に餌をもらうわけです。論文では餌が与えられた後は観察しないということでした。人為的な介入の後なので,野生のサルの行動とは違う行動パターンを観察に含めないためだと専門的には書かれています。実際,その通りなのですが,野生のサルの行動とは違う行動パターンって何なのでしょうか? 沓掛先生によれば,餌が与えられるとサルたちが集まってきてケンカも起こるけれど,仲直りよりも餌を食べることが優先で,仲直りもしないそうです。たしかに,たまたま同じ餌に手を伸ばしてケンカになりそうになっても,周りにたくさん餌があったら,激しくケンカしたり仲直りをするよりも,まずはお腹を満たす方が大事というのは納得です。また,ここのサルたちは温泉に入ることでも有名ですが(じつは地位が高い個体でないと入れないそうです),冬に温泉につかっているときもケンカして外に出るのは寒いので,ケンカになりそうになってもすぐに収まってしまうそうです。すごく納得するとともに,「ケンカしてる場合じゃないよ」という状況を作ってあげると,おのずとケンカしなくなるというのはじつはけっこう深い話なのではないかと思いました。

図 温泉に入るニホンザル。写真提供:沓掛展之先生

ハンドウイルカの仲直り研究の舞台裏

ハンドウイルカの仲直り研究は,神戸の須磨海浜水族園,下関の海響館,鹿児島のいおワールドかごしま水族館で実施されています。この研究を実施された山本先生によれば,神戸の水族館で,卒業論文研究として仲直り研究を実施されたそうです。その後,修士論文研究で別のテーマに取り組んだ後,あらためて仲直り研究をきちんとまとめようと思い,下関と鹿児島の水族館でデータを足して,それらをまとめて論文として出版されたそうです。山本先生の研究ではケンカをした二個体が近づいて親和的な相互作用をする(つまり,仲直りする)かどうかに加えて,周りにいる個体がケンカの後に攻撃した個体,攻撃された個体に近づいて親和的な行動をとるかどうかも検討されています(3)。これも結果が気になると思うので簡単に述べておくと,ハンドウイルカではケンカの当事者同士の親和的相互作用以外にも,周りの個体が攻撃した個体に接触したり,攻撃された個体に接触したりということが観察されました。

図 ハンドウイルカの親和行動。並んで泳いでいる。写真提供:山本知里先生

この研究は,ハンドウイルカをある程度の数飼育している施設でないと実施できません。また,同じ施設で観察を続けていても,同じ個体ばかり見ていることになりサンプルの数が増えないので,どうしても複数の施設で実施する必要があります。もちろん,研究テーマによっては少数の個体に着目して研究することもできるのでしょうが,仲直り研究では特定の個体に特有の行動ではないという一般性も示す必要があるため,数頭のデータだけでは結論を導くことができません。そのため,研究の場所を変えながらデータを足していくというノマドのような研究スタイルになっていて,それだけでもなかなか大変そうです。実際,山本先生が長崎大学で研究されていたときに下関と鹿児島での観察が行われています。出不精な筆者としては,もっと近場でなんとかならなかったのですかと質問してみたのですが,下関と鹿児島でも「近場」だったのだそうです。

イルカの観察は大型水槽の側面の大きな窓(水族館で客がイルカを観る窓)から行うそうです(ただし,神戸ではスタッフ用の窓が別にあったそうです)。実際の研究では,とにかくイルカたちがケンカするまでその窓を覗きこんで延々と待っているそうです。ニホンザルの研究と同じく,イルカたちもしょっちゅうケンカするというわけではないので,とにかくいつ起こるとも知れぬイルカたちのケンカをただひたすら待つという忍耐力が必要な研究だったようです。

その一方,ひとたびケンカが起こると,今度はどの個体とどの個体がケンカをしているのかの判別が大変だったようです。イルカたちの個体識別は背びれの特徴的な欠け方,体の傷,体格などを使って行うということなのですが,イルカたちが素早く泳ぎ回ってケンカするので(そして,ケンカに関係のない他の個体も同じプールの中を泳ぎ回っているので),かなり集中して見ていないとどの個体とどの個体がケンカをしているのか判別し損ないそうになることもあるそうです。そのため,ビデオも撮っておき,判別が難しかったときには確認もするのだそうです。実際,そのビデオを見せてもらいましたが,素人の目には,ケンカになるとイルカたちが無秩序に(そしてプールの中を所狭しと)泳ぎ回っているようにしか見えませんでした。実際に自分がこの研究をすることになったとしたら,いったいどの個体とどの個体がケンカしているのか,そしてその後,本当にケンカした個体同士が親和的相互作用をしているのか(あるいはそれ以外の個体が近づいてきたのか)を判別するなんて本当にできるのだろうかと,天を仰ぎたいような気持になることでしょう。山本先生によれば,イルカの仲直り研究では,ケンカを待っている忍耐力に加えて,ひとたびケンカが始まるとどの個体とどの個体がケンカしているかを判別するための集中力が欠かせないということですが,さもありなんと思いました。

ところで,そもそも水族館で飼育されて餌も十分にもらっているイルカたちは,いったいなぜケンカするのでしょうか。山本先生によれば,いくつか理由がわかるものもあるけれど,多くはなぜケンカになったのかわからないのだそうです。理由がわかるものとしては,ふざけて甘噛みしていたら,しだいに本気になってしまうというものが典型例のようです。なんとなく,小さい子が隣の子にふざけてちょっかいを出していたら,しだいに悪ふざけでは済まなくなってケンカになってしまうといった場面が思い浮かびます。イルカの場合もそんな理由でケンカをすることがあるようです。ビデオでも見せてもらいましたが,そうやってケンカしたイルカがすぐに仲良く並んで泳いでいるのは,さっきケンカしたと思った子どもたちがふと見ると同じ玩具で遊んでいるときのようでもありました。

イルカの仲直り行動には,並んで仲良く泳ぐ以外に相手を胸びれでなでてあげる(掻いてあげる)というものがあるそうです。これは仲直り以外の場面でも見られるそうです。「どこをなでるのですか?」と質問してみると,いろんな場所をなでてあげるとのことです。そして素人にはまったく意外なことに,なでてもらう個体がここをなでてというふうに場所を指定するのだそうです! たとえば,尾びれを胸びれでなでてもらうということがあるそうです。なでてもらう方が場所を指定するということは,痒いところをなでてもらっているのかと思って,これも尋ねてみました。すると,なでてもらった後に垢がとれることが観察されていて,衛生的な機能がある行動という考え方をする研究者もいるそうです。垢がたまっていたら痒そうですし,筆者の素人考えもあながち外れてはいないのかもしれません。

最後に研究をしていてもどかしいことがないか尋ねたところ,仲直りに限らずハンドウイルカの社会行動の研究がどうしても飼育下での研究に限られがちなことだという答えが返ってきました。たとえば,水族館で群れで飼育されているのはメスが中心で,オスは子育てをするわけでもないので別の場所で飼育されていることが多いそうです。そういうわけで,山本先生の研究対象となったのも一頭を除いてすべてメスでした。東京の御蔵島では野生のイルカの研究が行われているそうですが,さすがに大きな海を自由に泳ぎ回り,時に深く潜ってしまうイルカたちの仲直りを観察するのは難しそうです(そもそもケンカが起こるところを観察するのもハードルが高いでしょう)。でも,いつか技術革新でそんなことが可能になったら,仲直りに限らずイルカたちのどんなに興味深い生態が明らかになるだろうかと筆者のような素人も思わず夢想してしまいます。

後半に続く

文献・注

(1) このエッセイ執筆がきっかけで,沓掛先生からヒトの成人を対象にPC-MC比較法の考え方を応用した研究があると教えていただきました(じつは沓掛先生のグループも同じようなアイデアに基づく研究をしようとしたことがあるそうです)。こういう自分からは出てこないアイデアを教えてもらえることも,異分野の先生方と交流することの大きなメリットだなとあらためて感じました。
Benenson, J. F., & Wrangham, R. W. (2016). Cross-cultural sex differences in post-conflict affiliation following sports matches. Current Biology, 26(16), 2208-2212.
Benenson, J. F., White, M. M., Pandiani, D. M., Hillyer, L. J., Kantor, S., Markovits, H., & Wrangham, R. W. (2018). Competition elicits more physical affiliation between male than female friends. Scientific Reports, 8, Article 8380.

(2) Kutsukake, N., & Castles, D. L. (2001). Reconciliation and variation in post-conflict stress in Japanese macaques (Macaca fuscata fuscata): Testing the integrated hypothesis. Animal Cognition, 4(3-4), 259-268.

(3) Yamamoto, C., Morisaka, T., Furuta, K., Ishibashi, T., Yoshida, A., Taki, M., Mori, Y., & Amano, M. (2015). Post-conflict affiliation as conflict management in captive bottlenose dolphins (Tursiops truncates). Scientific Reports, 5, Article 14275.

9784908736209

大坪庸介 著
ちとせプレス(2021/10/10)

ケンカや誤解から生じるいざこざを解決する「仲直り」は,ヒト以外のさまざまな動物にも見られる興味深い現象です。赦しと謝罪の2つの側面をもつ仲直りの機能とメカニズムを,進化生物学のモデル研究,動物行動の研究,心理学の研究を駆使し,進化心理学の視点から読み解きます。


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