容姿へのとらわれと思いこみの関係――メンタライジングに着目することで見えること

『パーソナリティ研究』内容紹介

ある調査では日本人の若者の半数に,自分の容姿に関する心配があることが示されています。大学生が抱く容姿へのとらわれ(醜形恐怖心性)に関して,自己や他者の感情,願望,目的,態度などの精神状態に注意を向け,省察する能力であるメンタライジングとどのように関連するかが検討されました。(編集部)

坂田浩之(さかた・ひろゆき):大阪樟蔭女子大学学芸学部心理学科准教授。

誰もが容姿にとらわれる

筆者の好きなアニメ作品にディズニーの『美女と野獣』があります。『美女と野獣』では,魔法で姿を変えられた野獣が「自分は醜いから愛されない」という思いこみにとらわれています。そして,ベルは,野獣の怒りを買った父の身代わりとして野獣の城にとどまります。野獣は最初のうちは,唯一の肉親と離れ離れになったベルの思いに目を向けることができませんでしたが,ベルと関わるうちに,しだいに自分の中にある愛という感情に気づいていきます。そして,魔法が解けないことを犠牲にしてまでも,ベルの心情を理解し,思いやるようになっていきます。筆者は,『美女と野獣』に感動するなかで,自身の青年期の容姿に対するとらわれを思い起こし,これは誰もが多少なりとも成長するなかで経験する普遍的な心理なのではないかと考え,今回の研究に至りました。じつのところ,平成30年度の内閣府の調査では,日本人の若者の半数以上が容姿に関する心配があることが示されています。また,大学生の3%に「醜形恐怖症」を抱えた人がいるという知見もあります。そこで,今回の研究では,容姿にとらわれる若者に対する理解を深めるために,大学生が抱く容姿へのとらわれ(醜形恐怖心性)とメンタライジングとの関連について検討しました。

メンタライジングとは?

近年,境界性パーソナリティ障害患者や被虐待児など愛着トラウマを抱える大人やこどもの心の支援に有用な観点として,「メンタライジング(メンタライゼーション)」が注目されています。メンタライジングとは,自己と他者の両方に関して,感情,願望,目的,態度などの精神状態に注意を向け,省察(reflect)する能力のことです。メンタライジングの興味深い点は,適度なメンタライジングは誰でも感情が高ぶると途絶え,落ち着くと回復するところです。とくに,愛着トラウマがあると,少しの感情の高ぶりでメンタライジングが途絶え,思いこみから闘争・逃走反応をしてしまいます。なので,メンタライジングが途絶えないように支援し,途絶えている場合は回復・向上するよう支援していくことになります。

また,MBT(メンタライゼーション・ベースト・トリートメント)に期待を寄せる支援者は多く,MBT関連の研修会は大勢の参加者を集めています。コロナ禍におけるオンライン研修会の隆盛に伴い,海外のMBTの開発者・研究者・実践家から直接教わることも可能になっています。メンタライジングは心の支援に活用されるだけでなく,調査・実験といった実証的な研究も活発に行われ,その理論の妥当性や支援における効果が検証されています。筆者もメンタライジングの研鑽を積みながら,心理臨床の現場で活かしているところであり,実証的にもその有用性を研究していきたいと考えています。

日本人大学生における容姿へのとらわれとメンタライジングの関係

今回の研究では,689人の大学生が調査に参加してくれました。調査は,質問紙を用いた自分の心と他者の心に関するメンタライジングの自己評価と,両目の周辺部分のみの写真を36枚見せて,その写真が示す精神状態を4つの選択肢から選ぶ「目から心を読むテスト」(Reading the Mind in the Eyes Test: 以下「RMET」と略)を用いた,他者の精神状態に対するメンタライジングの正確さの測定でした。さらに,RMETでは,感情価(表されている感情が,ネガティブか,ポジティブか,それとも中立的か)で写真を分類し,それぞれのメンタライジングの違いについても測定しました。

結果としては,まず,メンタライジングに関する自己認知は,醜形恐怖心性と弱く関連することが示唆されました。より具体的には,他者の言動に伴う精神状態がよく理解できると自己評価する若者・自分の精神状態がうまくふり返れないと自己評価する若者は,容姿にとらわれがちであることが示唆されました。一方で,他者の目を見てその人の精神状態を読み取るメンタライジングの正確さは,容姿へのとらわれと関係がないことが示唆されました。感情価による違いもありませんでした。このことは,自分と他者に関するメンタライジングをどう自己評価しているかに着目することで,容姿へのとらわれで悩む若者に,より適切に寄り添える可能性を意味しています。

今後の展望

今回の研究は,一般大学生を対象に行いましたが,今後は醜形恐怖症など,より大きな苦悩を抱えている方も含め,さらに心の支援の現場で役立つメンタライジングの研究を,臨床的・実証的両面から進めていきたいと考えています。メンタライジングやMBTに関して,日本での理解も筆者の理解も(加えて筆者の研究力向上も)進行中で,この論文が掲載されるまでに5年かかりました。この論文が臨床心理学と基礎心理学のクロスロードである『パーソナリティ研究』に掲載されることで,さらにメンタライジングに関する研究が活性化することを願っています。

坂田浩之 (2021).「大学生における醜形恐怖心性とメンタライジングの関連」『パーソナリティ研究』30(2), 101-110.