幼児期から児童期の子どもの学校適応を継続的に支援するために―SLAQ親評定版の開発

『パーソナリティ研究』内容紹介

子ども自身が学校に対して感じる感情を測定する尺度として学校肯定感・回避感尺度(SLAQ)があります。日本語版SLAQの親評定版は未開発でした。幼児期から児童期にかけて,学校移行期間の子どもの適応状態を縦断的に評価するうえで有用だと考えられる日本語版SLAQ親評定版を開発し,信頼性・妥当性が検討されました。(編集部)

本間優子(ほんま・ゆうこ):新潟青陵大学福祉心理学部臨床心理学科准教授。博士(心理学)。→ウェブサイト

SLAQとはどのような尺度か

学校は子どもたちにとって,家庭以外の場で最もすごす時間が長い場です。学校に否定的な感情を抱くことは,自尊感情の低下,抑うつといった心理的な問題,不登校や反社会的な行動の発生といった,行動面の問題にも影響を及ぼすことが明らかとなっています(Bulotsky-Shearer, Fantuzzo, & McDermott, 2008)。

子ども自身が学校に対して感じる感情を測定する尺度として,Ladd & Price(1987)による学校肯定感・回避感尺度という尺度があります(School Liking and Avoidance Questionnaire; SLAQ)。SLAQは児童評定版に加え,教師評定版,親評定版も開発されています(Ladd, Buhs, & Seid, 2000)。日本においては,3種類あるSLAQのうち,児童評定版(大対・堀田・竹島・松見,2014),教師評定版(本間・内山,2016)の開発が行われていますが,親評定版は未開発です。

なぜ,保護者による評定が必要か

小1プロブレム予防の一助として,子どもたちの学校適応を縦断的に評価することは,子どもたちがよりよい学校生活を送るうえでとても大切ですが,幼児や小学校低学年の子どもが自分自身の学校適応を正確に自己評定することは,なかなか難しいのではないでしょうか。その場合,他者評定が望ましいと考えられますが,幼保から小学校に向けて縦断的に評価を行う際に,各々の子どもたちの進学先の小学校教諭に評定を依頼することは,幼保小が系列校でない限りは実施困難な場合が現実的には多いと考えられます。SLAQ親評定版を開発することで,縦断的に学校適応を評価することの困難さを解決することができ,幼児期(こども園,幼稚園,保育所)から児童期(小学校)にかけて,学校移行期間の子どもの適応状態を縦断的に評価することが容易になります。それにより,支援が必要な子どもに対する連続性・一貫性のある教育的支援の実施がスムーズとなることが期待されます。そこで,本研究は日本版SLAQ親評定版を開発し,信頼性・妥当性を検討することを目的としました。

研究方法

データ収集は調査会社を通してweb調査で行いました。対象者として,同居している小学4年生以上の子どもがいて,「子どもが一人でwebアンケートに回答可能」と保護者より回答がなされた親子を対象としました。兄弟姉妹がいる場合,保護者は年長者を評定し,子どもの自己評定も年長者が回答するよう求め,309組の親子のデータが収集されました。保護者の内訳は父親128名,母親181名(M=41.60,SD=4.82),子どもの学年の内訳は4年生91名,5年生107名,6年生111名でした。

保護者についてはSLAQ親評定版である学校肯定感尺度(5項目),学校回避感尺度(5項目)の全10項目に回答しました。その他,保護者についてはSLAQ親評定版の妥当性を検証するための尺度にも回答を行いました。また,親評定との相関関係を検討するため,子どもについても,SLAQ児童評定版に回答を求めました。なお,デリケートな内容が質問項目に含まれますので,回答の自由や途中で回答を辞めても不利益にならないことの明記に加え,親,もしくは子(子,もしくは親,回答の順序はカウンターバランスをとり実施)に独立して回答することを求め,各々の質問に最後まで回答すると前のページには戻ることができない設計とし,お互いの回答内容をwebページ上では確認できないようにするなど,倫理面については充分に配慮したうえで,本調査の実施はなされました。

結果

因子モデルを検討した結果,日本版SLAQ親評定版は原版同様に学校肯定感尺度,学校回避感尺度で構成される2因子構造であることが確認できました。信頼性についても,高い内的整合性が確認されました。構成概念妥当性についても,類似する尺度と高い相関関係が認められ,日本版SLAQ親評定版は一定の妥当性・信頼性を有していることが明らかとなりました。また,親評定と子評定の間にも,中程度の相関関係が認められました。

親評定版SLAQを今後,どのように教育現場に活かすか?

今後の展望として,本尺度の活用による幼児期から児童期の学校移行期の子どもの適応状態の評価とその支援への活用に加え,応用として,自己評定可能な小学校中学年以上を対象とした,同一尺度を用いた立場の異なる者による評定結果の検討を挙げることができます。たとえば,本間(2020)は教師評定と子評定のSLAQ得点をクラスター化し(教師高・児童高群,教師高・児童低群,教師低・児童高群,教師低・児童低群の4つに分類),教師認知と児童認知の相違を検討し,各クラスターにおける子ども自身が感じる友人関係,教師関係,学習関係等,領域別の学校適応感の特徴を明らかにし,介入が必要な領域を示しています。本研究においても今後は親評定―子評定のSLAQ得点の相違,とくに親評定と子評定が一致しないケースの検討,および各クラスターごとの子ども自身が感じる領域別の学校適応感の特徴を明らかにし,教育現場に有益な知見を提供していきたいと考えています。

引用文献

Bulotsky-Shearer, R. J., Fratuzzo, J. W., & McDermott, P. A. (2008). An investigation of classroom situational dimensions of emotional and behavioral adjustment and cognitive and social outcomes for Head Start children. Developmental Psychology, 44, 139-154.

本間優子 (2020).『児童期における役割取得能力と学校適応の関係』ミネルヴァ書房

本間優子・内山伊知郎 (2016).「教師評定版SLAQ(School Liking and Avoidance Questionnaire)日本版の作成」『道徳性発達研究』10,69-73.

Ladd, G. W., Buhs, E. S., & Seid, M. (2000). Children’s initial sentiments about kindergarten: Is school liking an antecedent of early classroom participation and achievement? Merrill-Palmer Quarterterly, 46, 255-279.

Ladd, G. W., & Price, J. M. (1987). Predicting children’s social and school adjustment following the transition from preschool to kindergarten. Child Development, 58, 1168-1189.

大対香奈子・堀田美佐緒・竹島克典・松見淳子 (2014).「日本版SLAQの作成―学校適応の規定要因および抑うつとの関連の検討」『日本学校心理士会年報』6,59-69.

論文

本間優子 (2021).「日本版School Liking and Avoidance Questionnaire(SLAQ)親評定版の信頼性と妥当性の検討」『パーソナリティ研究』30(2), 52-55.