年をとるにつれて感情はどのように変わるのか(その2)

『パーソナリティ研究』内容紹介

年をとるにつれて感情はどのように変わるのでしょうか。20歳代の若者と80歳代の高齢者に、7日間毎晩その日に感じた感情を回答してもらった、感情の個人内変動に注目した研究を紹介します。(編集部)

中川威(なかがわ・たけし):国立長寿医療研究センター社会参加・社会支援研究室長。→webサイト

年齢と感情の関連

喜びや安心といったポジティブ感情を感じ,怒りや悲しみといったネガティブ感情を感じないことが幸福であると考えられています。年をとるにつれて,大切な人との死別,病気や障害といったさまざまな喪失が生じやすくなるため,直観的には,高齢期には,ポジティブ感情は低く,ネガティブ感情は高くなると考えられてきました。

年をとるにつれて感情はどのように変わるのかという問いに答えるため,同じ人を年間隔で追跡する調査を行い,個人内変化を調べる縦断研究が行われるようになっています。ただし,年間隔などの長期的な個人内変化と日間隔などの短期的な個人内変動を区別すべきであると考えられています。たとえば,1年間隔で10年間10回調査を行った結果,感情が安定し,個人内変化は認められなかったとします。一方,1日間隔で7日間7回調査を行った結果,感情が日によって上下し,個人内変動が認められたとします。そうすると,1年間隔で1回行う調査では,個人内変動は見過ごされていると考えられます。

近年の研究では,時間隔や日間隔で調査を行い,個人内変動を調べるミクロ縦断研究が行われるようになってきました。ミクロ縦断研究は限られているものの,高齢者では,若年者に比べて,感情の個人内変動は小さいことが示唆されています。ただし,個人内変動は変動の程度と持続しやすさという2つの要素から成るものの,これまでの研究は変動の程度のみに着目してきました。

同じ人を日間隔で追跡した結果

今回の研究では,感情の個人内変動を検討しました。20歳代の若年者19名と80歳代の高齢者21名が,7日間毎晩その日に感じた感情(たとえば,わくわくした,いらだった)を測定する質問に回答しました。

結果を図示しました。縦軸は感情を感じた頻度(値が大きいほど頻度が高いことを意味します)を示し,横軸は日数を示しています。実線は個人の軌跡を意味しています。

高齢者では,若年者に比べて,感情の変動の程度が小さいことが示されました。また,高齢者でのみ,ポジティブ感情が持続しやすいほどネガティブ感情の平均的な程度が高いことが示されました。

年をとるにつれて,感情の変動の程度を調整できるようになるという強みが生じる一方,生理的に脆弱になるため,感情が遷延しやすく,心身ともに悪化しやすくなるという弱みが生じると考えられます。

今後の展望

年をとるにつれて,人は強さと弱さの両方を併せ持つようになり,普段の生活では感情をうまく調整できるとしても,喪失の直後には感情を調整することが難しいのかもしれません。今後の研究では,喪失の直後から感情はどのように変わるのか,喪失後にどのように感情が調整され,回復するのか,といった問いを検討していくことが重要だと考えられます。

論文

中川威・安元佐織・樺山舞・松田謙一・権藤恭之・神出計・池邉一典 (2021).「若年者と高齢者における日々の感情の個人内変動」『パーソナリティ研究』29(3), 162-171.

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