年をとるにつれて感情はどのように変わるのか(その1)

『パーソナリティ研究』内容紹介

年をとるにつれて感情はどのように変わるのでしょうか。50歳から76歳を対象に、過去1週間に感じた感情を回答してもらった、6年間の縦断研究の結果を紹介します。(編集部)

中川威(なかがわ・たけし):国立長寿医療研究センター社会参加・社会支援研究室長。→webサイト

年齢と感情の関連

喜びや安心といったポジティブ感情を感じ,怒りや悲しみといったネガティブ感情を感じないことが幸福であると考えられています。年をとるにつれて,大切な人との死別,病気や障害といったさまざまな喪失が生じやすくなるため,直観的には,高齢期には,ポジティブ感情は低く,ネガティブ感情は高くなると考えられてきました。

年をとるにつれて感情はどのように変わるのかという問いに答えるため,初期の研究では,調査を1回行い,異なる年齢の人たちを比べることで個人間の差を調べる横断研究が行われてきました。その結果,高齢者は,若年者に比べて,ポジティブ感情をよく感じ,ネガティブ感情をあまり感じないということが報告されてきました。

さらに,近年の研究では,調査を2回以上行い,同じ人を追跡することで個人内の変化を調べる縦断研究が行われるようになってきました。しかし,縦断研究はまだ少なく,高齢期では感情が良好になると報告する研究もあれば,感情が悪化すると報告する研究もあり,結果は一貫していません。

同じ人を年間隔で追跡した結果

今回の研究では,2007年から開始され6年間行われた縦断研究のデータを用いて,感情の個人内変化を検討しました。50歳から76歳までの3,107名が,過去1週間に感じた感情(たとえば,楽しい,悲しい)を測定する質問に回答しました。

結果を図示しました。縦軸は感情を感じた頻度(値が大きいほど頻度が高いことを意味します)を示し,横軸は年齢を示しています。実線は統計的に変化が認められた軌跡,破線は統計的に変化が認められなかった軌跡,灰色の線は無作為に抽出した100名の軌跡を意味しています。

平均的には,いずれの年齢でも,ポジティブ感情は低くなる傾向が示されました。一方,ネガティブ感情の軌跡は年齢によって異なっていました。ネガティブ感情は,中年期では逆U字型の変化を示し,高齢期では安定していました。

年をとるにつれて,人はポジティブ感情をあまり感じなくなるものの,高齢者はネガティブ感情をあまり感じていませんでした。むしろ,中年者はネガティブ感情をよく感じるようになる傾向が示されました。

今後の展望

年をとるにつれてさまざまな喪失が生じやすくなるとしても,ほとんどの高齢者は喪失にうまく適応し,ネガティブ感情をあまり感じないのかもしれません。今後の研究では,喪失の前後に感情がどのように変わるのか,感情が回復や安定する人と感情が悪化する人の違いは何によってもたらされるのか,といった問いを検討していくことが重要だと考えられます。

論文

中川威 (2020).「中高齢期における感情の個人内変化」『パーソナリティ研究』29(2), 109-119.

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