新型コロナウイルス(COVID-19)への感染と運

2020年は新型コロナウイルスとの闘いの1年でした。知人や身近な人,あるいは自身が感染した,ということもあったかもしれません。そうした新型コロナウイルスへの感染はどの程度,運の影響を受けると受け止められているのでしょうか。村上幸史・関西国際大学准教授が考察します。(編集部)

村上幸史(むらかみ・こうし):2004年,大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。現在,関西国際大学現代社会学部准教授。『幸運と不運の心理学――運はどのように捉えられているのか?』(ちとせプレス,2020年)を刊行。

今年は新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な大流行がありました。楽しみにしていた卒業旅行や海外旅行に行けなくなったり,親しい人とも自由に遊べなくなったりなど,何だかツイていないなと思う方も多いかもしれません。

新型コロナウイルスに感染することはもちろん喜ばしくないことでしょう。筆者が気になっていることの一つに,新型コロナウイルスへ感染することはどの程度運に左右されるのか,という問題があります。

数ある病気のうち,先天的にもち合わせるものもあれば,後天的に発病するものもあります。そして,食物や他者から感染するものもあります。代表的なのは風邪やインフルエンザ,肝炎,性感染症などです。そして新型コロナウイルスは100年ほど前に流行したスペイン風邪と同じような代表的な感染症です。

他者からもらうイメージの強い感染症ですが,これらの病気になることはどの程度,運に左右されることだと捉えられているのでしょうか。そこで,筆者は学生のもつ認識に関して,アンケート調査(1)を行ってみたところ,それぞれの病気になることは,以下のような認識で捉えられていることがわかりました(2)

図1 病気になることが運に左右されると考える程度(平均値)

図1はそれぞれの病気になることが「どの程度運に左右されると思うか」を7段階で尋ねた平均値を示しています。ガンは運に左右されやすく,生活習慣病はその反対の端に値が寄っています。左端に近い場合,本人の行動(生活習慣やリスクのある性交渉など)のせいと受け止められやすいのに対して,右の端に近い場合,本人にはどうしようもない病気であると思われていることを意味します。

この生活習慣病やガンに対して,感染症に該当する項目は,どれもほぼ同じような中間ぐらいの値に位置することがわかりました。これは運にも人の行いにも,どちらにも左右されると認識されていることを示しています。

不思議なのは,新型コロナウイルスについては,運に左右されるという認識が,風邪やインフルエンザとあまり変わらないのに対して,現状での感染者はかなりひどい扱いを受けていると思われる点です。風邪やインフルエンザにかかったとしても不運なことと済まされたり,あるいは同情されたりするのに対して,新型コロナウイルスについてはあまりそのように見られていない節があるように思えます。

新型コロナウイルスは,ある程度は自分の心がけで防げる病気なのかもしれませんが,人から感染させられる以上,感染してしまうことは不運な(対策していても感染してしまうことがある)のではないでしょうか。というよりも,むしろ不運にも感染してしまったのに,責められているという方が正しいように思えます。

その理由はいくつか考えられるのですが,患者数が非常に少ないこと,まだ未知の病であること,そしてマスクや対策で防ぐことができるという防御策が,メディアなどでしきりに強調されていることなどにあると考えられます。

以前に大流行したスペイン風邪は新型コロナウイルスとよく比較されていますが,スペイン風邪の際には国民の半数ほどが罹患したことがわかっています。植村ら(3)は,当時の新聞記事を分析した結果,その割には報道量が非常に少なく,感染者を非難する風潮は小さかったことを示しています。

めったに起こらないことは不運と判断され,本人のせいではないと思われやすいはずですが,そうはならないのが興味深いところです。逆にめったに起こらないことは,その人自身に何か原因があったかのように判断されやすい可能性も指摘されています(4)。人は被害者の落ち度を探したりするのです。

同じようなことは幸運なことであっても見られるようです。たとえば,めったに当たらない宝くじに当たった人は,「何かを(幸運を?)持ってる人である」と言われたりするのです。そして,その人にあやかるかのように,まねをしたり,時には握手をしてもらったりする人もいます。

ここで,そもそも運とは偶然のことを指すのではないかと思われた方もいるのではないでしょうか。運をどのような意味で用いているのかは,人によって違いがあります。ある人は運を偶然と同じような説明のための用語と思っているのに対して,運そのものが物事の原因であると考える人もいます。むしろ積極的に運を原因として説明しようとしている人の方が多いのではないでしょうか。

そして,このように人に原因を求めたりすることは,先の「持ってる」のように,人によって「運の強さ」に違いがあるかのように考えることにもつながります。用語だけの問題ではなく,人がもち合わせる運に関する考え方は「しろうと理論」と呼ばれています。個人の「運の強さ」に違いを見出すのはその代表例です。他にも,幸運を得るために日頃の善行を心がけたり,握手でツイてる人の運をもらおうとしたりする考え方などは,運に関するしろうと理論と呼ぶことができます。

個人に「運の良さ」という特性が備わっているかどうかは確かではありませんし,もし「運の良さ」というものが実際にあったとしてもそれを正確に測定する,という手法は確立されていません。一方で,個人の認識としては,「運の良さ」という特性があるかのように扱われているのです。

このような運に関するしろうと理論は,人のさまざまな行動に影響することが示されています。たとえば自分の「運が強い」と思っている人は,ロトくじに的中する可能性を高く見積もったり,実際の購入金額も多い(5)など,不確実な出来事で幸運な結果を得る可能性を高く見積もる傾向にあるようです。もし病気に感染することが運の問題だとすれば,「運が強い」と思っている人は,自分が感染する可能性を逆に低く見積もっているのかもしれません。

筆者が先ほどの調査で調べてみたところ,自分の「運が強い」と思っている人は感染可能性を低く見積もっていたものの,その見積もりには他の群と差があると言い切れるまでの違いは見られませんでした(ちなみに,自分が感染する可能性の見積もりは,平均すると33.9%程度でした。これは現在〔2020年11月末〕の累積感染者数〔13万件,日本の人口の0.1%強に該当します〕から見て,全般的に感染しやすい病気と見積もられているといえます)。

以上のことからは,新型コロナウイルスはあまり運の問題とは認識されていないというよりも,むしろ感染すること自体は不運でも,それ以上に非難が向けられているという状態に思えます。

さまざまな病気に感染することがどのように捉えられているかについては,非難や責任の向けられ方の問題と関係しています。人がもつ運の考え方とも結びつけて一度調べてみる必要があるように思えます。

注・文献

(1) 調査は自粛期間明けの2020年6月に行われました。

(2) 村上幸史 (2020).「新型コロナウイルスへの感染は不運か?」『日本社会心理学会第61回大会発表論文集』39.

(3) 植村善太郎・村上幸史・釘原直樹 (2020).「マスコミが対象とするスケープゴートの変遷(27)――日本におけるスペインインフルエンザ流行時の新聞報道の様態」『日本心理学会第84回大会発表論文集』

(4) 外山みどり (1979).「偶発的な結果に対する帰属について」『日本グループ・ダイナミックス学会第27回大会発表論文集』77-80.

(5) Rogers, P., & Webley, P. (2001). It could be us! Cognitive and social psychological factors in UK National Lottery play. Applied Psychology: An International Review, 50, 181-199.

運とはいったい何なのか。運の強さやツキはどのように語られ,認識されているのか。運を「譲渡する」現象はどのように捉えられているのか。日常生活の中から,さまざまな記事やノンフィクションにおける運の描かれ方を分析し,その実態に迫る


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