友だちグループ間の上下関係は中高生の心理的適応の関係するのか
『パーソナリティ研究』内容紹介
Posted by Chitose Press | On 2020年11月17日 | In サイナビ!, パーソナリティ研究学校での生徒間(友だちグループ間)に格差がある状態を指すスクールカーストは,心理的適応とどのような関係にあるのでしょうか。また,高地位グループに属する生徒は,他者を見下す傾向があるのでしょうか。(編集部)
水野君平(みずの・くんぺい):北海道教育大学旭川校講師(→webサイト)
友だちグループ間の上下関係の構造―「スクールカースト」とは
みなさんは「スクールカースト」という言葉を聞いたことはありますか? 学校のスクールと身分の階層格差を示すカーストを合わせた造語で,2005年頃にネットで出てきた言葉と言われています。「スクールカースト」は生徒間(友だちグループ間)に格差がある状態を指し,これまで,中学生の学校適応やいじめとの関連が検討されてきましたが,自尊心といった学校適応以外の心理的適応との関連は検討されておらず,中高生間の比較はされていませんでした。また,「スクールカースト」で上位にいる生徒は下位にいる生徒を見下すエピソードが「教室内カースト」では語られていますが,上位グループの生徒が他人を見下しやすいかどうかについては実証的には検証されていませんでした。
そこで,私たちは①学校適応以外の適応の指標とはどういう関係なのか,②中高生で「スクールカースト」と各適応の指標との関連に違いが見えるのか,③高地位グループに属している生徒は他人を見下す傾向にあるのかについて検討しました。これらは潜在的自尊心(無意識的な自己への評価),顕在的自尊心(意識的な自己への評価),学校享受感(学校への楽しさ),他者軽視傾向(他人への見下しやすさ),仮想的有能感(顕在的自尊心と他者軽視傾向を組み合わせた4類型)を使い比較しました。
高地位グループに属する生徒ほど適応が高いのか?
インターネットを使ったアンケート調査を行い,中高生408名から回答を得ました。アンケートでは「スクールカースト」に関することの他に,学校享受感,潜在的自尊心,顕在的自尊心,他者軽視傾向の程度を質問しました。分析の結果,中高生で共通していたこととして,高地位のグループに属していると回答した生徒ほど学校享受感も高く,中高生の間で差がないことがわかりました。また,高校生のみ高地位のグループに属していると回答した生徒ほど顕在的自尊心も高いことがわかりました。その一方で,中高生ともに所属グループの地位と潜在的自尊心や他者軽視傾向との関連は見られませんでした。
高地位グループに属する生徒ほど自尊心も高く他人を見下すのか?
中高生ともに所属グループの地位と仮想的有能感の関連は見られませんでした。また,意外なことに,他者軽視傾向と自尊心の関連についてこれまでの研究とは異なる傾向が2点見られました。これまでの研究では,他者軽視傾向と顕在的自尊心は関連せず,他者軽視傾向と潜在的自尊心は正の相関関係(一方が高いともう一方も高い)にありました。しかし,本研究では顕在的自尊心と潜在的自尊心はどちらも他者軽視傾向と負の相関関係(一方が高いともう一方は低い)を示しました。このことについては,今後なぜこのような結果が現れたのかをさまざまな指標を用いつつ検討する必要があると考えています。
本研究の今後の展開
上に挙げた本研究の結果はあくまでも一時点のものですので,今後は縦断的な研究を行ってみたいと考えています。たとえば,学年が変わってグラス替えがあっても前と同じようなグループに属することが多いのかなど,学年や学校種をまたぐような研究をしたいと考えています。また,どんなグループに属していても(もっといえば友だちがいなくても),どのような要因(条件)があれば生徒の学校適応が守られるのかということも見つけていきたいと考えています。
論文
水野君平・柳岡開地 (2020).「中高生の「スクールカースト」と学校適応,顕在的・潜在的自尊心,仮想的有能感との関連の検討」『パーソナリティ研究』29(2), 97-108.