まなざしが示す感情によって「目から心を読む力」は違う? それを適切に測るために

『パーソナリティ研究』内容紹介

私たちは相手の目から,相手が何を考えているか,どう感じているかを読み取ろうとすることがあります。目から心を読むテストRMETのアジア版を用いて,日本人がそれぞれの写真に対してどういった感情価をもつかが調べられました。(編集部)

坂田浩之(さかた・ひろゆき):大阪樟蔭女子大学学芸学部心理学科准教授。

「目から心を読む力」の違いからわかること

「目は心の窓」や「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるように,昔から私たちは目から相手の心を読み取ろうとしてきました。心理学では,目から心を読むテスト(Reading the Mind in the Eyes Test:以下「RMET」と略します)というものがあります。両目の周辺部分のみの写真を36枚見せて,その写真が示す精神状態を4つの選択肢から選ぶというものです。たとえば,自閉症の人はこのRMETの得点が低いことが知られています。

このRMETは英国で開発されたもので,白人(コーカソイド)の写真が使われていますが,日本で生活する人々の「目から心を読む力」を正確に測定するには,黄色人種(モンゴロイド)の写真を使う方が,妥当であると言えます。実際,黄色人種の写真を使ったアジア版のRMETが開発されています。そして,このアジア版RMETを用いて,日本人における精神状態を読み取る力と対人関係への適応などとの関連が研究されています。

また,近年,境界性パーソナリティ障害の人は,自分や他者の精神状態を理解し,主体的に自分の心を調整する力(メンタライジング)にムラがあるという理解が進んでいます。そして,このメンタライジングのバランスが良くなり,安定することをサポートする心理療法や心理的支援の実践と研究が盛んに行われています。その流れの中で,感情の種類による精神状態を読み取る力の違いについても研究が進められ,RMETの得点を感情価(ポジティブ,ネガティブ,中立的)ごとに検討する試みもなされています。

日本人の「目から心を読む力」をより細やかに測るために

今回の研究は,日本人において,感情価ごとに精神状態を読み取る力の違いが,対人関係への適応や精神的安定などにどのように影響するかを検討できるようにするために行われました。具体的には,アジア版RMETの写真を感情価ごとに分類することを試みました。62名の日本人女性(大学生)にRMETの36枚の写真を見てもらい,それぞれ「とてもネガティブ」から「とてもポジティブ」までの7段階で評定してもらいました。それを分析した結果,20枚がネガティブな感情価をもつ写真,5枚が中立的な感情価をもつ写真,11枚がポジティブな感情価をもつ写真に分類されました。

今後の展望

今回の結果に基づいて,アジア版RMETの得点を感情価ごとに算出することで,日本人における感情価ごとの精神状態の解読能力を測定することができます。今後は,境界性パーソナリティ障害のように,対人関係や精神的安定において困難を抱える日本人の,感情価ごとの精神状態を読み取る力の違いを研究していきたいと考えています。そして,感情価ごとの精神状態を読み取る力やメンタライジングという観点から,日本の心理臨床におけるアセスメントや支援をより精緻化することに貢献できたら,と考えています。

論文

坂田浩之 (2020).「アジア版Reading the Mind in the Eyes Testの感情価による刺激分類 ――日本人女性データによる検討」『パーソナリティ研究』29(1), 11-13.