Zoomで体験! 問題解決療法
新型コロナウイルスによる外出自粛の問題について
Posted by Chitose Press | On 2020年05月14日 | In サイナビ!さまざまな不安やストレスを解消するために,医療現場や相談機関で活用されている問題解決療法。いま多くの人が悩んでいる「新型コロナウイルスによる外出自粛」の問題にどう取り組めばよいのか。新型コロナの影響もあり,Zoomで開催された問題解決療法のワークショップの様子を紹介します。
問題解決療法のオンライン・ワークショップ
2020年3月に平井啓・本岡寛子著『ワークシートで学ぶ問題解決療法――認知行動療法を実践的に活用したい人へ 実践のコツを教えます』が小社より刊行されました(1)。
平井啓先生と本岡寛子先生が実施しているSOLVEプロジェクト(2)において,4月に問題解決療法のワークショップを開催するということで,その体験記を掲載する予定でしたが,新型コロナウイルスの影響でワークショップは中止となってしまいました。そうしたなか,Zoomでのオンライン・ワークショップに切り替えて開催することになり,そちらに参加することとなりました。その様子をダイジェストでお届けしたいと思います。
参加者は10人ちょっと。医療現場の方,企業の方,研究者の方などさまざまな方が,問題解決療法に関心をもたれ,参加していました。冒頭,簡単な自己紹介と,とりまとめ役の平井先生から趣旨説明。さらに,書籍『ワークシートで学ぶ問題解決療法』の内容をざっと紹介されました。
この本では,ステップ1:問題の定義,ステップ2:目標設定,ステップ3:解決策創出,ステップ4:意思決定,ステップ5:実行・評価の5つのステップに沿いながら,問題解決キャンバスというワークシート(3)を埋めていき,抱えている問題の解決に向かう道筋を見つけ,実行し,評価していく問題解決療法のプロセスが解説されています。
平井先生によれば,問題解決療法はビジネスでも用いられる問題解決と理論上は同じもので,外的な出来事に対して用いるのか,心の中に生じる心理現象に対して用いるのかと違いということです。ステップを踏んで効率的に,またさまざまなバイアスにとらわれないように意思決定をしていく,そしてそれを支援するのが問題解決療法だということです。
問題解決療法は,うつ,ストレス,復職支援,がん患者支援など多様な問題への支援に用いられており,治療効果も確かめられているものです。今回のワークショップのテーマは,まさにいま多くの人が悩んでいる「新型コロナウイルスによる外出自粛」の問題を扱うことになりました。
今回の状況が特殊なのは,通常であれば新しいミッションに取り組む際,その日の仕事が終われば飲みに行ったり,会話をしたりしてストレス発散もできるわけですが,今回,そうしたことはすべてやってはいけないという点です。みんなで話し合うことによって新たな気づきが生まれることを期待して,このテーマを話し合うこととなりました。
何が問題なのか?
まず,どういったことが問題なのかを挙げていくことになりました。参加者から,仕事や職場の問題,家族の問題,そして個人の感情の問題などいくつかが挙げられました。これらをワークシートに記入しながら進めていきます。
- 外出自粛,先が見通せない,収入
- 仕事のやり方に試行錯誤している→手段が決められない
- 気分が暗くなる<してはいけないにとらわれる。自分がそうなったら大変なことになる恐怖。緊張している→トラブル
そうした問題によって,現在どういう状況なのか,ということについて2つにまとめられました。
- 通常の活動ができない
- コミュニケーションがとれない
どうしたいか?
次に,どういうふうになれたらよいかを考えてみることになりました。その際,参加者からの,「自分にできることを書くのか,それとも自分にはできないが,今回の新型コロナが収束してほしい,とかでもよいのか」という質問が出されました。それに対して,平井先生からは「問題解決療法では,できるだけ自分,あるいは自分の周りの人たちの行動に落とせるように考える,What we want to doやWhat I want to doで考えるというのがポイント」ということが示されました。「コロナウイルスがなくなってほしいわけですが,そうすると自分たちの行動につながりにくくなり,目標設定が遠くなってしまう。政策を考えようとする場合はそれでよいのですが,使っている組織のレベルによると思います。今回はここにいる人たちの範囲でできることを考えてみたいと思います」ということになりました。
個人のストレス,仕事や職場の状況に関して,「こうしたい」ということがいくつか挙げられました。
- 前向に物事に取り組みたい
- うまくストレスマネジメントしたい
- 円滑に情報共有できるようにしたい
目標を考える
こうあってほしい,ということに対して,どういった目標が立てられるのかを次に考えていきます。自宅にずっといると,会社の同僚たちの考えていることがわからなくなっている。実際に会うことはできないけれど,どうすれば「つながっている感」を持てるようになるかを考えてみることになりました。
「つながっている感」を具体化するために,通常を100として,80くらいを目標にすることになりました。現状では50くらい,ということにしておきます。このあたりの数字は,もちろん感覚的なものですが,数字化することが大切のようです。50から30上げる方法を考えればよい,ということになります。
では具体的な行動目標を考えていきます。思考を柔軟に,ブレーンストーミングの手法を用いてアイデアをいろいろと出していきます。ある程度の数が出てきたら,それをいくつかのカテゴリーにまとめていきます(ワークシートでは色で区分けされました)。今回は以下のような目標が挙げられました。
まず,手段に関するような,オンラインによる飲み会や交流の場をつくる,というもの。テイクアウトを利用すれば飲食業の支援にもなる,という案が出ました。
- メンバー間でSNSグループ,日報・雑談を入れる
- Zoom飲み会
- Zoom以外のアプリ・サービスを使う→オンラインゲーム→しながら感が持てる
- テイクアウト晩ごはん会の開催
- 座談会:喋りたい人が喋れる
2つ目に,体を動かすことを通じて,連帯感を感じる,というもの。
- 意図的に体を動かす時間を作る→共有(例:朝ヨガ会)
- 散歩している他の人をみる→連帯を感じる
3つ目に情報に関すること。情報を互いに提供し合い,共有を図るという側面と,コロナに関する情報にあえて触れない,それ以外の情報に触れる,ということも挙げられました。
- 情報をたくさん投げる
- 情報の風通しをよくする
- (テレビをあまりみないようにする)
- コロナデトックス:コロナに触れない時間を作る
- ポジティブな情報に触れる時間を作る
4つ目に,ルールが明確になったり,コンセンサスが得られたりすると安心できる,ということが挙げられました。
- グループの中でわかりやすいルールを作る
- 自分が不安なことを話し,コンセンサスを得る
- 周囲に働きかける・提案する
一週間以内にできることを考えてみる
では具体的にどういう行動をするとよいのでしょうか。ここではおおむね一週間以内にできることを考えてみることになりました。そして,その際,自分からまわりの人たちに何か働きかけることが大切なのでは,ということが話されました。具体的には以下のような計画が立てられました。
- 自分の関係する人間関係のどこかに,オンライン飲み会・座談会・ヨガなどの開催を提案する
- 情報を積極的に発信する・相手から引き出す
- 心配事についてみんなでなにかルールを作る
ここまでに要した時間は,問題を話し合い始めてから40分程度でした。
ワークショップをやってみてどう感じたか
最後に,ワークショップをやってみた感想をみなさんからひと言ずつ話してもらいました。
- 「見える化」することが大事だなと感じた
- 行動目標を分けて考えるのが肝だと感じた。自分一人でできるかが課題→「時系列で考えるとよいかも」と平井先生よりアドバイス
- 同じ目標について,期限が限られた話し合いをもつことで,再び話し合いに参加したくなるような仕組みができると有益だなと感じた
- みんなで考えることで「つながり」を感じることもできた。シートが埋まっていく感じもよかった
- 今回のワークショップ自体がつながりを生む一つの手段だなと思った
- 他人の目を通すことで見えてくるところがあると思った
今回の新型コロナウイルスによる影響がいつ頃なくなるのかはいまだ見通せませんが,この状況下でも,自分たちが感じている問題を整理して,自分たちにできることを考えて,実行していく,という問題解決療法のプロセスは意義のあるものに感じられました。また,オンラインでのワークショップには初めて参加しましたが,オンラインを通じたコミュニケーションの可能性も感じられました。
期せずしてみんなが共有する非常にタイムリーなテーマを今回は話し合いましたが,問題解決療法は,社会問題に限らず,個人の問題や職場の問題などさまざまなテーマに関して応用可能な幅のあるアプローチのだと思います。関心をもっていただけた方は,書籍をぜひご覧いただき,試してみてほしいと思います。
文献・注
(1) 平井啓・本岡寛子 (2020).『ワークシートで学ぶ問題解決療法――認知行動療法を実践的に活用したい人へ 実践のコツを教えます』ちとせプレス
(3) ワークシートはSOLVEプロジェクトのサイトから入手できます。
さまざまな不安やストレスを解消するために,医療現場や相談機関で活用されている問題解決療法。それぞれが抱える問題を解決するための5つのステップを,ワークシートを用いながら具体的に解説します。本人だけでなく,支援者や家族も活用できる実践のコツが詰まった1冊。