特別養子縁組を知っていますか?(2)

産みの親が育てることができない子どもに,継続的かつ安定した養育者と環境を保障する「特別養子縁組」。特別養子縁組によって結ばれた家族の思いとはどのようなものなのでしょうか。発達心理学が専門の富田庸子・鎌倉女子大学教授が解説します。

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富田庸子(とみた・ようこ):鎌倉女子大学児童学部教授。鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナールの指導教員として,『ふたりのおかあさん』(ちとせプレス,2019年)を制作。

筆者は,特別養子縁組を支援する認定NPO法人「環の会」(1)の理事の1人として,その運営や研修,子育て相談などに関わっています。筆者が指導する鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナールの学生たちは,環の会の活動に保育ボランティアとして参加しながら学んでいます。このたび出版した絵本『ふたりのおかあさん』(2)もその学びの中で生まれたものです。

今回は,『人口の心理学へ――少子高齢社会の命と心』(3)(2016年,ちとせプレス)に記した内容も参照しながら,環の会についてご紹介し,特別養子縁組による親子,家族の姿をお伝えしたいと思います。

認定NPO法人「環の会」とは

1991年に設立された環の会は,東京都内に事務局を置き,予期しない妊娠や出産で悩む人からの相談を受けて,産みの親がどうしても育てられない場合に「子どものため」を最優先にした養子縁組を支援しています。

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環の会では,「実親」「養親」という言葉を使いません。どちらの親も子どもにとっては実の親,本当の親であるという考えから,「産みの親」「育て親」と呼んでいます。育て親は子どもを「もらう」のではなく,産みの親から託された子どもをわが子として「迎える」こと,育てることによって親になります。これまでに350人以上の子どもたちが環の会を通じて育て親のもとに迎えられ,家族になり,暮らしています。

環の会は,次のようなことを大切に考えながら活動しています。

ありのままを受け入れる

環の会の縁組は,子どもを欲しい夫婦のために子どもを探すものではありません。育て親になる夫婦は,年齢や性別,身体的特徴,性格など,子どもに条件をつけることはできません。「この子を育ててください」と託されるその瞬間まで,どんな子どもがわが子となるのか,一切知らされません。

本来,自分たちが産んで親になる場合でも,親が望む通りの子どもを選ぶことなどできないはずです。ただ,特別養子縁組で迎える子どもには,必ず,育てる自分たちとは別に産みの親がいます。託されることになった事情があります。育て親には,子どものありよう,産みの親の存在や縁組に至る事情,自分たちには産めなかったという事実,あらゆることをありのままに受け入れて,いわば「選ばないことを選ぶ」主体的な態度が必要とされています。

産みの親を尊重する。

環の会では,産みの親は,子どもの命を守り環の会にたどり着いた存在として尊重されます。縁組成立後も環の会を通じて,子ども,産みの親,育て親,それぞれのニーズに合わせた交流が行われます。たとえば,産みの親から子どもの誕生日にプレゼントを贈ったり,育て親が子どもの写真を産みの親に送ったり,子どもの「会いたい」という希望に応えて産みの親と育て親家族が共にひとときを過ごすなどといったことです。このような縁組のあり方は「オープン・アダプション」と呼ばれ,子どもが生い立ちの疑問を解消してアイデンティティを健やかに形成していくために有効であるとして,欧米では勧められている方法です。

テリング(tell+ing)

環の会では,日本の養子縁組で一般的な「真実告知」という言葉を使いません。子どもの出自に関わる事柄はある日突然打ち明けるものではなく,日常の中で子どもの発達に応じて伝え続けていくことだという進行形の意味を込めて,「テリング」と呼んでいます。環の会の縁組は産みの親側の相談から始まるため,迎えられる子どものほとんどが生まれて間もない赤ちゃんです。テリングは,子どもの出自を知る権利を守り,嘘偽りのない親子関係を築いていくために重要です。

テリングは,育て親が子どもを迎えたその日から始まります。たとえば,「生まれてきてくれて嬉しいよ。お父さんとお母さんのところに来てくれてありがとう。〇〇ママが産んでくれたおかげだね」「風邪をひかない丈夫な体は□□おかあさんにもらったんだよ」というような,さりげない語りかけが日々行われていきます。絵本『ふたりのおかあさん』にも描いたように,テリングを通じて子どもは,自分にはふたりのおかあさんがいることをいつの間にか知っています。やがてはそれが他の人とは少し違うことだと気づいていきます。迎えられたことについての疑問や感情を表現し始め,育て親は誠実に応え,テリングは,育て親と子どもとの間の双方向的なものへと徐々に変化していきます。

育て親ご家族の“声”

特別養子縁組によって親子になるとは,どのようなことなのでしょうか。環の会の育て親ご家族の実際の“声”をご紹介しながら考えてみましょう(文中の斜字は引用,名前は仮名です)。

「infertility(不妊,不毛)」から「in fertility(豊かな実りのなか)」へ

「毎日が,『今までの人生の中で一番幸せ』と感じてしまいます。今日以上の幸せはないんじゃないかと思います。でもきっとまた,明日も,それ以上の幸せを子どもたちからもらえるんでしょうね」 ――卓代さん(3歳の男の子と3カ月の女の子の母親)

「日々暮らしていると,ああ,私は子どもを産みたかったんじゃなくて育てたかったんだ,子育てをしたかったんだと,つくづく思います」 ――直子さん(3歳の女の子の母親)

環の会で子どもを迎えた卓代さんや直子さんは,「産めない」事実に悩み苦しんだ経験をおもちです。結果の出ない不妊治療に疲弊し,夫婦2人で生きていこうかと思い始めた頃,「特別養子縁組」を知りました。夫婦で話し合いを重ね,産むことは諦めても育てることは諦めないと決意して,血縁のない子どもを迎えて家族になる人生を選びました。

「そもそも夫婦にだって血のつながりはありません。私たち家族は誰も血がつながっていない。だからこそ,出会えたことを大切に思います。血縁がないからこそ結べる絆があると思います」 ――博さん(中2の男の子と小6の女の子の父親)

博さんはこのように話してくれました。筆者たちの調査(2004)では,環の会の育て親のみなさんが,子育てに奮闘する忙しい日々を送りながらも「子どもを迎える前よりもずっと幸せだ」と感じていることが示されました。産めないことを受け入れて育て親になるという選択は,人生を”infertility”から“in fertility”へと進める大きな選択なのだと思います。

発達心理学者のE. H. エリクソンは,成人期の発達課題として「ジェネラティビティ(generativity)」を挙げています。ジェネラティビティはgenerate(生成する)とgeneration(世代)という2つの言葉をかけ合わせたエリクソンの造語で,個人を超えて世代と世代を結ぶ概念です。次の世代や生み出されたものを信頼し,気づかい,見守り,育む働きです。ジェネラティビティが発揮できなければ,「停滞」の危機に陥るとされています。

ジェネラティビティは成人の幸福感と強い関連があり,私たちの限りある人生に「生きる意味」を与えてくれることが,数々の研究で示唆されています。環の会の育て親はまさに,停滞の危機を乗り越えてジェネラティビティを発揮し,生きる意味を実感しています。

テリングの必要性

「子どもにはとにかく生まれてきてよかったと思ってほしいのです。だからこそ嘘はつきたくない。あなたを産んでくれた人がいることも,私たちはあなたを迎えて本当に幸せなのだということもきちんと伝えていきたい。子どもが事実をつらいと感じるときがあるかもしれません。けれどもそれを乗り越えて,自分に与えられた命を大切にしてほしい。そして,産みのお母さんに,どんな事情があったとしても,「産んでくれてありがとう」と言えるような人生を歩んでほしいのです。」 ――愛子さん(小6の女の子と小3の男の子の母親)

テリングを通じて,育て親たちは子どもに,産みの親が別に存在しているという事実だけではなく,産みの親や自分たち育て親をはじめ,子どもに関わる人たちの思いを伝えようとしています。絵本『ふたりのおかあさん』でも,主人公のみらいちゃんにお母さんが次のように語りかけるシーンがあります。

「おかあさんがふたりいるということは,みんなとはちょっとちがうことかもしれないけれど,みらいのことをたいせつにおもっている人がたくさんいるっていうことよ」

子どもの健やかな心の育ちには,自分を大切に思ってくれる人,「生まれてきてくれてありがとう」「あなたがいるだけで嬉しい」と心から伝え続けてくれる身近な人の存在が不可欠です。テリングは,育て親家族に限らず,どのような親子関係においても大切なことだと思います。

筆者は,環の会の全面的協力を得て,環の会で縁組し成人した子どもへのインタビュー調査を始めました。「大人になった子ども」たちがテリングや産みの親との交流といった環の会の縁組のあり方をどのように考えているのか,成長する過程でどんなことを感じてきたのか,その率直な思いに耳を傾け,これからの縁組支援につなげていきたいと思っています。ちなみに「大人になった子ども」の1人である昌夫さんは,テリングについてこのように話してくれました。

「テリングしてもしなくても,「本当のこと」は変わらない。それを受け入れられるかどうかの違いであって,テリング自体は当たり前。親に隠されたり嘘をつかれたりすることのほうが絶対に嫌だ。」 ――昌夫さん(20歳。新生児期に育て親に迎えられ,テリングを受けながら成長)

つながり合う

子育ては,順風満帆とはいかないことも多いものです。環の会の育て親たちも,血のつながりのある親子に見られるような,さまざまな悩みを抱えます。そんなとき,頼りになるのは,環の会の育て親家族同士のつながりです。

「それぞれの家族の子どもはもちろんそのお家に迎えられるご縁があったのだけれど,夫婦が環の会を訪ねるタイミングや年齢によっては,もしかしたらいま別のお家に迎えられている子どもが来てくれていたのかもしれない,そうすると,あの子のこともこの子のことも,とてもよそのお家の子どもとは思えない。「環の会」全体が大きな家族だと感じます。」 ――稔枝さん(小6の男の子の母親)

環の会には,育て親家族の中だけではなく,産みの親や,育て親家族同士など,さまざまなつながりがあります。そもそも私たちはみな,家族の中だけで生きているわけではありません。血のつながりがあってもなくても,さまざまな人たちと関わり合い,育て合い,育ち合っています。もちろん,他者と関わればストレスを感じることや傷つくこともありますが,喜びや楽しさもまた,大きくなるでしょう。

特別養子縁組の魅力と広がる可能性を,ぜひ,多くの方たちに知っていただきたいと思います。

文献・注

(1) 認定NPO法人環の会

(2) 鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナール作・絵 (2019).『ふたりのおかあさん』ちとせプレス

(3) 柏木惠子・高橋惠子編 (2016).『人口の心理学へ――少子高齢社会の命と心』ちとせプレス

9784908736124

鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナール作・絵
ちとせプレス (2019/2/28)

特別養子縁組によって結ばれた親子,家族の絆を描く。特別養子縁組により,おとうさん,おかあさんと家族になったみらいちゃん。産みの親からも育て親からも愛されながら成長していくみらいちゃんを描いた全ページフルカラーの絵本です。


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