特別養子縁組を知っていますか?(1)

産みの親が育てることができない子どもに,継続的かつ安定した養育者と環境を保障する「特別養子縁組」。いま,特別養子縁組制度の見直しも検討されています。特別養子縁組とはどのような制度なのでしょうか。また,特別養子縁組によって結ばれた家族の思いとはどのようなものなのでしょうか。発達心理学が専門の富田庸子・鎌倉女子大学教授が解説します。

富田庸子(とみた・ようこ):鎌倉女子大学児童学部教授。鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナールの指導教員として,『ふたりのおかあさん』(ちとせプレス,2019年)を制作。

子どもには,「家庭で育つ権利」があります

日本には,さまざまな事情で産みの親のもとで育つことのできない子どもたちが,およそ4万人もいます。その多くが乳児院や児童養護施設など,施設で暮らしています。国連子どもの権利条約は,すべての子どもが「その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため,家庭環境の下で幸福,愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきである」(1)として,子どもが家庭で育つ権利を謳っています。国連の総合的な富裕度報告書(2012年)(2)で世界一豊かな国と評された日本は,じつは,国連から度重なる是正勧告を受けている「子どもの人権侵害国」でもあるのです。

そんな日本において,2016年の児童福祉法改正は画期的でした。子どもが権利の主体であることが明確化され,家庭養育優先の理念等が規定されました。産みの親がどうしても育てることのできない子どもには,継続的かつ安定した養育者と環境を保障するために(パーマネンシー保障),「特別養子縁組」を推進する方向性がはっきりと打ち出されたのです。

日本の養子縁組の現状

日本の養子縁組には,「普通養子」と「特別養子」という,2つの制度があります。もともとは普通養子しかありませんでしたが,1987年の民法改正で特別養子が追加されました。両制度にはさまざまな違いがあります。

普通養子縁組では,縁組成立後も子どもと産みの親との法的な親子関係が残ります。戸籍には双方の親の名前が並記され,子どもは養子,養女と記されます。未成年者を養子にするのでなければ,養親と養子が縁組に合意して届け出るだけで縁組が成立します。養親は成年であればよく,養子になる「子ども」は養親より年下であればよいので,たとえば80歳と79歳が「親子」になれます。縁組の解消(離縁)も認められています。縁組目的に決まりはないため,相続税対策などにも活発に利用されています。

一方,特別養子縁組(3)は,「子の利益のために特に必要がある(民法第817条の7)」場合にのみ,家庭裁判所の慎重な調査と審判によって成立します。子どもと産みの親との法的な親子関係は終了し,育て親との間に新たな親子関係が結ばれます。縁組には,原則,産みの親の同意が必要です。戸籍の続柄欄は,長男,長女といった一般の親子と同様の記載になります。育て親になれるのは法律婚をしている成年の夫婦で,夫婦のどちらかが25歳以上でなければなりません。子どもの側にも「6歳未満」という年齢制限があります。夫婦が育て親としてふさわしいかどうか,よい親子関係を築いていけそうかなどを確認するために,6カ月以上の試験養育期間が設けられています。離縁は原則できず,とくに,育て親からの離縁は認められません。このように,特別養子縁組は,子どもの最善の利益を目的とする「子どものため」のものなのです。

残念ながら日本は,子どものための養子縁組がまさに「特別」と称される通りの現状にあります。2017年の特別養子縁組成立件数は616件で,年間7万件以上の届出がある普通養子縁組の1%にもなりません。子どものための養子縁組を児童福祉政策の主軸に据える欧米諸国とは対照的です。

特別養子縁組を仲介する機関

特別養子縁組で子どもを迎える方法は,主として2つあります。児童相談所を通じて迎える方法と,「養子縁組あっせん事業」を行っている民間事業者を通じて迎える方法です。

児童相談所は都道府県や政令指定都市など全国に212カ所(2018年10月現在)設置され,虐待,発達,非行,不登校,障害など,子どもの福祉に関わる多種多様な業務を行っています。児童福祉法の改正によって,養子縁組に関する相談・支援も児童相談所の重要な業務であることが明確に位置づけられました。しかしその取り組みには,地域により大きな差があるのが現状です。

厚生労働省の調査によると,2014-2015年度に成立した特別養子縁組のうち,およそ4割は民間事業者の支援によるものでした。民間事業者は,以前は第二種社会福祉事業として届け出さえすれば養子縁組のあっせん事業を行うことができました。しかし,インターネット上でマッチングを行う事業者や営利目的が疑われる事業者などもあり,法整備を求める声が高まりました。2018年4月,「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」が施行され,都道府県等から許可を受けた事業者が,児童相談所とも連携しながら事業に取り組む許可制に変わりました。2018年12月現在,全国で18事業者が,許可を受けて活動をしています。育て親になる条件や縁組手続きの進め方,親子のマッチング,縁組後のサポート,縁組に関わる情報の管理,スタッフの資質,諸経費など,事業者によってさまざまな違いがあります。

変革の動き

厚生労働省の調査(4)によると,養護施設で暮らす子どものおよそ14%の在所期間が10年以上となっています。長年にわたって産みの親との面会交流がない,将来的にも家庭復帰が見込めないなど,特別養子縁組の利用を検討すべきであるにもかかわらず縁組要件が厳格なために実現できていないケースが,2014-2015年度で合計298件報告されています(5)。縁組を支援する現場からはかねてより,子どもの年齢制限や産みの親の同意確認のあり方など,制度の改善を求める声が挙がっていました。

そしていま,特別養子縁組は大きな変革期を迎えています。2017年6月,厚生労働省は「特別養子縁組制度の利用促進の在り方について」という報告書をまとめ,制度が活用されるために検討すべきポイントを整理しました(6)。同年8月には改正児童福祉法の理念に基づく「新しい社会的養育ビジョン」が発表され,おおむね5年以内に現状の約2倍である年間1000人以上の特別養子縁組成立を目指して,制度の改革や支援の充実を進めることが明言されました。2018年6月には法務大臣の諮問機関である法制審議会に特別養子制度部会が設置され,調査・審議を重ねていよいよ2019年1月,「特別養子制度の見直しに関する要綱案」がまとめられました(7)。これをもとに今後,民法や戸籍法などの改正が進められていく予定です。

おもな見直しのポイントは次のとおりです。

養子となる者の年齢要件等の見直し

現行法では,特別養子縁組の対象となる子どもの年齢は審判申立時に原則「6歳未満」となっています。上限年齢が規定されたのは,子どもと育て親との間に安定した親子関係を形成するためには幼少期からの養育が必要と考えられることなどが理由です。しかしそのために,どんなに縁組を必要とする子どもであっても6歳という年齢で線引きされ,たった1日でも過ぎてしまえば申し立てできない事態が生じていました。

要綱案では,「原則15歳未満」に対象が拡大されました。また,15~17歳であっても①15歳になる前から育て親に養育されていること,②15歳までに申立てされなかったやむをえない事由があること,そして,③養子となる本人の同意があること,という要件が満たされれば対象になります。

特別養子縁組の成立に係る規律の見直し

要綱案では,家庭裁判所の審判手続きは2段階に分けられました。第1段階では,縁組についての産みの親の同意や養育できない事情などを確認し,その子どもが特別養子縁組という制度の対象になるのかどうかを判断します。第2段階では,その子どもの育て親になる夫婦の適格性を判断します。

現行法では,縁組を申し立て,産みの親が養育できないことを立証するのは育て親の役割とされていましたが,見直し案では児童相談所々長も申し立てられるようになります。また,産みの親は縁組に同意しても家庭裁判所が最終的に判断するまでの間であれば撤回することができましたが,見直し案では,同意後2週間経てば撤回できなくなります。

継続的な支援を

こうした見直しは,現場では歓迎されています。しかし,たとえば対象となる子どもの年齢が上がることによって親子の関係をいちから築く難しさは増すだろうと予想できます。必要な支援を縁組成立後も継続して行う体制が,よりいっそう重要となるでしょう。そのためにも,信頼できるスタッフやノウハウをもつ民間事業者が,公的支援を受けながら活動できる仕組みを整えることが急務です。

子どもを守るのは,社会の責任です。社会をつくっているのは,私たち1人ひとりです。社会全体の特別養子縁組についての理解を深め,真に「子どものため」になる制度に育てていくことが必要です。

第2回に続く

文献・注

(1) 外務省「児童の権利に関する条約全文」

(2) 国連環境計画編 (2014).『国連大学 包括的「富」報告書――自然資本・人工資本・人的資本の国際比較』明石書店

(3) 厚生労働省「特別養子縁組について」

(4) 厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査結果(平成25年2月1日現在)」

(5) 厚生労働省「特別養子縁組に関する調査結果について(平成28年12月9日現在)」

(6) 厚生労働省「特別養子縁組制度の利用促進の在り方について」

(7) 法務省「特別養子制度の見直しに関する要綱案」

9784908736124

鎌倉女子大学「家族のつながり」ゼミナール作・絵
ちとせプレス (2019/2/28)

特別養子縁組によって結ばれた親子,家族の絆を描く。特別養子縁組により,おとうさん,おかあさんと家族になったみらいちゃん。産みの親からも育て親からも愛されながら成長していくみらいちゃんを描いた全ページフルカラーの絵本です。


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