心理学が挑む偏見・差別問題(3)

社会問題への実証的アプローチ

ステレオタイプはどこからが問題?

北村:

LGBTでも,オリンピックで多くの外国人が来るというような,外圧や外の視点があると日本も影響を受けやすいところがあります。強姦事件はこたえていないようなので,別なのかもしれないですが。ただ,オリンピックとパラリンピックのマスコットを作った作者の苦労話を先日テレビでやっていたのですが,マスコットは男性っぽいのと女性っぽいのが対になっていて,女性の方がピンク色の服装をしていました(4)。見た瞬間に,「おお,ステレオタイプだな」と思ったのですが,番組ではその点にはまったく言及はない。黄色とか緑とかもあるのに,こんなにはっきりとステレオタイプ的な色合いのつけ方をして,オリンピックでやって来る諸外国の人たちにどう見えるのでしょうね。

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唐沢:

アニメで見るまさにジャパンそのものだと思うのではないですか(笑)。

北村:

アニメの中ではそうですよね。そういうステレオタイプやロールモデルが出ていますからね。

唐沢:

日本ステレオタイプを,そこでまた助長することになるのでは。

大江:

それに関していいのか悪いのか私はちょっとわからないのですが,テレビやアニメででも,ステレオタイプ的なものは理解を促進するので,使ってよさそうなところでは使っておいてもいいのかなとも思うところもあります。

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高:

ステレオタイプ的なものは設定を伝えるためには便利です。映画の『ズートピア』も多様性をアピールしている作品だとして有名ですが,キャラデザインはステレオタイプに則っているところがあります。主人公の純朴でまじめでまっすぐな女の子のウサギは目が大きくて幼児図式(5)に則った顔ですが,その主人公を理解をしてくれず辛くあたる上司たちは目が小さくてごつごつして幼児図式から外れています。そういう作品でもステレオタイプに則った表現をしていますね。ただ,オリンピックとパラリンピックの男性はブルーで,女性はピンクというのはあまりのもテンプレート過ぎて,それはさすがに避けようと言われているものです。

北村:

そうしたステレオタイプに合致した情報が世の中にたくさんありますが,せめてコントロール可能な部分に関しては極力対置していくということはできるはずですよね。全部することは無理だし必要ないかもしれませんが,コントロールできること,たとえば小学校の教科書の家事の場面などは,対置戦略をとった方がいいように思います。

唐沢:

「あえて逆にしています」とメッセージを出せるくらいの懐の深さはほしいね。トイレのサインは青とピンクの方がわかりやすくていいけれども,それと人格を描くことは別ですから。その使い分けはほしいですね。

大江:

今後,その女の子のキャラクターがどのように動くかではないですか。

唐沢:

あまり複雑な属性をもったキャラクターが出てきたら,競技を見に来ただけの人にとっては,情報環境としてややこし過ぎるでしょうから。あるところは,わかりやすさで対応しなくてはいけないのだと思います。とはいえ,ステレオタイプを助長する手がかりは,あちこちにたくさんあります。

わかりやすくするために単純化しただけなのに,なんでもかんでもそれがステレオタイプだ,偏見だ,と批判されることになったら,萎縮する人が出てくるでしょう。

北村:

たとえばジェンダーに関して理解しようとしている人が,飽き飽きするのもいけないですし。

第4回に続く

文献・注

(1) サイバーボールとは,社会的排斥実験のツールとしてコンピュータ上でバスケットボールのパスをするゲームにおいて最初数回だけであとはパスが回ってこないという経験を実験参加者がもつことになる。

(2) 相対的に多数集団(マジョリティ)と少数集団(マイノリティ)があったときに,その行動の善し悪しが一定の同割合であってもマイノリティの少数行動は目立って度数の上で過大評価されやすいというもの。日本においては,ネガティブ行動の効果が強く現れ,これによって自動的にマイノリティ=ネガティブ集団というイメージが形成されやすくなる。ただし,アメリカにおいては単純にマイノリティ=悪ではない。

(3) Hamilton, D. L. (Ed.) (1981). Cognitive processes in stereotyping and intergroup behavior. Lawrence Erlbaum Associates.

(4) ちなみに公式には,マスコットの性別は設定されていない。

(5) 動物行動学者のコンラート・ローレンツが指摘した,哺乳動物の幼体が成体に比してもっている外見上の特徴。成体の養育行動を引き起こすと考えられている。

私たちはなぜ偏見をもち,差別をしてしまうのか? 私たちの社会はどのような偏見や差別に関する課題を抱えているのか? 偏見や差別の問題に,心理学はどのように迫り,解決への道筋を示すことができるのか。第一線の研究者が解説した決定版。


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