勉強法重視の人は,効果的な勉強方法を行う?
効果的な勉強方法を行うことで,勉強法重視の人になる?
『パーソナリティ研究』内容紹介
Posted by Chitose Press | On 2018年08月25日 | In サイナビ!, パーソナリティ研究効率的に勉強したい,良い勉強方法を知りたい,と思う人は多いのではないでしょうか。では,勉強方法は学習観とどのような関係にあるのでしょうか?(編集部)
赤松大輔(あかまつ・だいすけ):名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士課程後期課程2年。→webサイト
良い勉強法ってどんな方法? 良い勉強法ができるのはどんな人?
どれだけ頑張って勉強しても成績が良くならない。そんな経験をしたことはありませんか。それは,ひょっとすると,あなたの勉強方法に理由があったのかもしれません。教育心理学では,学習の効果を高めるための方法は「学習方略」という概念として取り上げられ,研究が進められてきました。たとえば,用語などを覚えるときは,何も考えずにただ繰り返し書くよりも,自分の知っている知識と関連付ける方が良いと示されています。また,自分1人で問題がわからないことがある場合は,先生や友人に質問することもあると思います。その質問のやり方ひとつでも,答えだけを教わるようなやり方よりも,問題を解く考え方も併せて教えてもらうなどする方が効果的であると示されています。このようなことから,良い学習成果を得るために,効果的な学習方略を用いることが重要になることが示されてきました。
このような効果的な学習方略の使用を促すためには,学習者自身が学習方略が大事であるという考え方をもっている必要があります。学習を効果的に行うことを目指すうえで何を重視するかに関する考え方は,「学習観」と定義されています。学習観の中にはさまざまなタイプがあります。たとえば,「成績を良くするためには,たくさん勉強することが大事だ」という考え方は「学習量志向」と呼ばれています。また,「うまく勉強するために良い先生に習うことが大事だ」という考え方は,学習を行う環境を重視しているため「環境志向」と呼ばれています。いくつかある学習観のうち,学習方法が大事だという考え方は「方略志向」と呼ばれ,効果的な学習方法の使用を促すことが示されてきました。
その一方で,効果的な学習方法を実際に使ってみることが,方略志向の学習観に結びつくことも考えられます。試しに,新しい勉強方法を行って,テストでうまくいったことを想像してみてください。テストでうまくいったのは,きっとその勉強方法のおかげだと思うでしょうし,次のテストでもその勉強方法を使ってみようと思うのではないでしょうか。このように,効果的な学習方略を使うこともまた,方略志向の学習観を形成するのに影響していることが予想できます。この研究では,先行研究で示されてきた「学習観→学習方略(勉強法重視の人は,効果的な勉強方法を行う)」という因果関係に加えて,「学習方略→学習観(効果的な勉強方法を行うことで,勉強法重視の人になる)」という因果関係も存在することを示し,両者の相互的な関係を実証することを目的としました。
研究の方法・研究を通してわかったこと
これまでの多くの研究では,質問紙を用いた調査を1時点のみで行うのが一般的でした。このような手法では,この研究のねらいとする学習観と学習方略の相互的な因果関係は検証できません。そこで,この研究では,複数の時点にわたって調査を行い,学習観と学習方略の因果関係に迫る分析を行いました。
学習観と学習方略の因果関係に関する分析を行った結果,まず,方略志向という学習観が効果的な学習方略の使用に影響を与えることが示されました。これは,従来の研究で想定されてきた「学習観→学習方略」の因果関係と一致するものです。さらに,効果的な学習方略の使用が方略志向に影響を与えることも示されました。これは,「学習方略→学習観」という新たな方向の因果関係を示すものです。これら2つの因果関係が同時に示されることによって,学習観と学習方略が相互的に影響し合うことが支持されました(図1)。これは,方略志向をもつ学習者が有効な学習方略を使って,その経験から方略志向を強めて,効果的な学習方略をさらに使用していくようになるという循環的な学習過程を示唆するものです。つまり,タイトルの疑問はどちらも正しく,「勉強法重視の人は効果的な勉強方法を行うし,効果的な勉強方法を行うことで勉強法重視の人になっていく」というプロセスがあることが示されました。
今後どのような研究につなげていくか
今後は,本研究で示された学習過程が学習者個人の違いによってどのように変化するか検討していきたいです。たとえば,やる気の高い学習者は,方略志向が実際の学習行動に強く結びつくかもしれません。また,パフォーマンスの高い学習者は,効果的な学習方法を通して良い成果を挙げやすいと考えられ,方略志向が身につきやすいかもしれません。さらに,個人の違いに注目することは,このような学習過程をうまく形成できない生徒に共通する特性(たとえば,やる気や自信の低さなど)を明らかにすることにもつながると考えています。
このように,本研究で示された学習過程を,学習者個人の違いを踏まえたうえで詳細に捉えていくことが重要ではないかと考えています。そうすることで,学習に困っている生徒には良い循環に導ける手助けを,うまく学習を進められる生徒にはその循環を定着させていく手助けができればよいと思っています。個人の学習過程を詳細に捉える研究を進めていくことによって,多くの児童生徒の皆さんの学びの一助になればと考えております。
論文
赤松大輔・中谷素之・小泉隆平 (2018).「学習観と学習方略の相互因果関係の検証」『パーソナリティ研究』27.