情報プライバシーが高い人でも,インターネット上では見知らぬ相手に自分の情報を多く公開する場合がある?

『パーソナリティ研究』内容紹介

インターネット上での見知らぬ相手に自分の情報を公開する程度は,どのような要因の影響を受けるのでしょうか。情報プライバシーの高さや,対面する予期の程度,コミュニケーション動機に着目した研究の紹介です。(編集部)

太幡直也:愛知学院大学総合政策学部准教授。

目的

インターネット(以下,ネット)では,他者とコミュニケーションするときに,公開したい自分の情報を自由に決めることができます。しかし,公開の仕方によっては,個人情報を悪用される,望んでいないのに見知らぬ人から繰り返し連絡を受けるといった,ネット上のトラブルが生じることも考えられます。

ネット上での自分の情報の公開に関わる要因の1つに,「情報プライバシー(自分の情報を他者に伝えるか否かを調整したいと思うこと)」があります。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service,以下SNS)上で見られる自分の情報の公開に着目した私たちの研究では,自分の識別情報(本名のような,自分を特定できる情報)への情報プライバシーが低い人ほど,不特定多数の他者の目につきやすいように自分の情報を公開していることを明らかにしました(「SNS上で不特定他者に自分の情報を多く公開しやすいのはどのような人?」を参照)。

日常生活においてネット上で自分の情報を公開する場面には,SNSのように不特定多数の他者に公開するとき以外にも,会ったことのない特定の相手に向けて公開するときもあります。そこで,この研究では,情報プライバシーの高さと,ネット上の見知らぬ相手に自分の情報を公開する程度との関連を調べました。

ネット上の見知らぬ相手との対面の予期

この研究では,ネット上の見知らぬ相手と,その後,直接会うと思っている場合とそうではない場合,つまり対面の予期がある場合とない場合の違いに着目しました。

プライバシーの維持に関するこれまでの理論に基づき,対面の予期がない場合,自分の情報をその相手と共有しようと思う人は少ないと考えました。そこで,SNSのように不特定多数の他者に公開するときと同様に,情報プライバシーが高い人は自分の情報を公開しにくいと予測しました。一方,対面の予期がある場合,「その相手とコミュニケーションしたい」という気持ち(コミュニケーション動機)次第で,自分の情報をその他者と共有しようと思うかが決まると考えました。そこで,情報プライバシーの高さに関係なく,コミュニケーション動機の高さ次第で自分の情報を公開しやすいか否かが決まると予測しました。

方法

この研究では,ネット上で見知らぬ相手に自己紹介をするときに,実際にどのように自分の情報を公開するかを調べるため,大学生67名に個別に実験を行いました。実験参加者の半数を対面の予期あり条件,残りを対面の予期なし条件に分けました。

はじめに,実験参加者に,ネット上で他大学の学生とチャットをしてもらうと説明しました。ここで,対面の予期あり条件の実験参加者のみに,「後日,相手と直接会って話をしてもらう」と伝えました。

続いて,チャットをする前に,相手に公開する自分のプロフィールを作成するように求めました。プロフィール欄には,「名前」,「性格」などの項目があり,自由に書き込むことができました。また,質問紙によって,実験参加者の情報プライバシーやコミュニケーション動機の程度についても測定しました。

最後に,実験参加者に,実際にはチャットをしたり相手と会ったりしないことを,実験の目的とともに丁寧に説明しました。

主な結果

この研究では,プロフィール上での自分の情報を公開する程度として,入力可能な項目に何項目情報を入力したか(情報公開数)と,評価者が実験参加者のプロフィール全体を見て評価した,自分のことを表現している程度(表出印象得点)に着目しました。そして,それらと,実験参加者の情報プライバシー,コミュニケーション動機の程度との関連を調べました。

その結果,対面の予期なし条件では,識別情報へのプライバシーが低い人ほど,表出印象得点が高くなりました。一方,対面の予期あり条件では,情報プライバシーと情報公開数,表出印象得点には関連は見られませんでした。代わりに,コミュニケーション動機が高い人ほど,情報公開数,表出印象得点が高くなりました。

研究の結果からいえること

この研究で特に注目すべき結果は,対面の予期のある見知らぬ相手には,情報プライバシーの高さに関係なく,コミュニケーション動機が高いと相手に自分の情報を公開する傾向が見られたことです。この結果を踏まえると,ネット上のトラブルを防ぐには,「対面する可能性のある見知らぬ相手に対して,その相手とコミュニケーションしたいという気持ちが高まっても自分の情報を公開しすぎないように自制する」ことを念頭に置く必要があると考えられます。私たちは,この研究を通じて,より多くの人が安心してネットを活用できるような社会づくりに貢献していきたいと考えています。

論文

太幡直也・佐藤広英 (2018).「情報プライバシーとインターネット上の未知の他者への自己情報公開との関連――対面の予期を操作した検討」『パーソナリティ研究』27.