独り言のようなツイートは本当に独り言?

『パーソナリティ研究』内容紹介

Twitterでは「独り言」のようなツイートがしばしば投稿されています。こうした「独り言」ツイートは,誰かに何かを伝えようという意図があるのか,それとも私的なつぶやきなのか,どちらなのでしょうか。(編集部)

澤山郁夫:兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教
三宅幹子:岡山大学大学院教育学研究科准教授。

なぜこのテーマを研究しようと思ったのか?

Twitterでは,しばしば宛先が指定されない他者への伝達意図が不明瞭なツイートが,独り言のように投稿されています。私たちは,このようなツイートを「独り言的ツイート」と定義し,独り言的ツイートが有する他者への伝達意図の程度を明らかにしたいと考えました。なぜならば,他者への伝達意図の程度を明らかにすることができれば,閲覧者はより適切な対応をとることができると考えられるためです。具体的には,独り言のようなツイートが他者への伝達意図をもった社会的発話として発せられているのであれば,閲覧者はそれに対して何らかの反応をすることが求められているであろうし,私的発話として発せられているのであれば,閲覧者はある程度そのプライバシー性を尊重した対応が求められているといえます。

どのように調べたのか?

大学生を対象とした質問紙調査を行い,「独り言的ツイート頻度」と個人のパーソナリティ特性である「発話傾向」,そして「独り言的ツイートの代替手段」(他者に話すorメモに書く)との関連を検討しました。すなわち,独り言的ツイートが,他者への伝達意図を有する社会的発話(social speech)としての性質と,他者への伝達意図を有さない私的発話(private speech)のうち,どちらの性質がより強いものであるのかについて検討しました。

また,インターバルをおいた再調査を繰り返し行い(時期1:2012年12月,時期2:2015年2~4月,時期3:2016年1月),時期を超えた再現性についても検討しました。なぜならば,Twitterの利用者は年々増加していると報告されており,このような利用者の増加やTV・新聞などの他メディアでの取り上げられ方などの変化に伴って,利用者が「独り言的ツイート」をどのようにとらえるかは,経年変化していく可能性も考えられたためです。

何がわかったのか?

まず,時期1に得られたサンプルでは,私的発話傾向の高い者ほど独り言的ツイート頻度が高いことが示されました。ところが,時期2に得られたサンプルではこの関連は再現されませんでした。そして,時期3に得られたサンプルにおいては,社会的発話傾向の高い者ほど独り言的ツイート頻度が高い傾向が示されました。さらに,経年変化として,独り言的ツイートの代替手段に「メモに書く」をあげる者の割合が減少傾向に,一方で「他者に話す」をあげる者の割合は増加傾向にあることも示されました。すなわち,時期1から時期3にかけて,独り言的ツイートは,私的発話としてとらえられるものから,社会的発話としてとらえられるものへと変化したと考えられます。

この理由の1つとして,利用者の増加やTV・新聞などの他メディアでの取り上げられ方などの変化に伴って,Twitterがプライベートな空間としては利用しづらくなった可能性が考えられます。とくに2013年は,Twitter上でみずからの犯罪行為をつぶやいたり,仕事で知りえた内部情報を漏らしたりする者の存在が新聞やニュースで,多数報道された年となりました。このような報道も,トラブルを避けるために,独り言的ツイートが社会的発話であることを当然のものとして利用者に考えさせる方向に働いたのではと考えています。

今後どのような研究につなげていくか

オンライン上でのコミュニティの形成過程について,研究を進めてみたいです。

ソーシャルメディアは一般的に,閲覧者が少ないコミュニティ形成の初期段階では,社会的発話に比べて,日記や記録のような私的発話が多くの割合を占めているのではないかということ,そしてコミュニティの成熟段階では,この私的発話の閲覧を目的とした読者が出現することによって,徐々に読者を意識した社会的発話の比率が高くなっていくのではないかと考えています。このようなコミュニティの形成過程について,同一の個人ないし集団を対象とした追跡的な調査を行ってみたいと思います。

あるいは,新たなオンライン上でのコミュニティの構築を目指すことを考えた場合,社会的発話を促すような介入よりも,まずは日記や記録のような私的発話を行いやすい環境構築が効果的である気がしています。これは,例えば,eラーニング上でのラーニングコミュニティの形成を促すヒントになるかもしれないと考えています。

論文

澤山郁夫・三宅幹子 (2018).「大学生の独り言的ツイートは独り言なのか――発話傾向との関連から」『パーソナリティ研究』27.