テスト理論から見た大学入試改革論(1)

次に,情報量についてです。

figure1-3

図3 情報量

図3の黒い曲線は,能力レベルに応じて,テスト得点の期待値が高くなっていく様子を示すもので,「テスト特性曲線」と呼ばれるものです。その曲線の傾きが大きいところは,能力の差異が鋭敏にテスト得点に反映されますので,テスト得点を知ることで能力の個人差がかなりわかることになります。その意味で,テスト得点は多くの情報をもっていることになります。ただし,能力レベルが一定でも偶然誤差によってテスト得点が大きくばらつくとしたら,そのぶん,情報は減少します。情報量はその双方を勘案する形で,図3の右に示したような式で定義されます。

テスト特性曲線の傾きも,また偶然誤差の大きさも能力レベルごとに異なるので,情報量は能力レベルによって変化する関数となります。これは重要な性質です。同じく偶然誤差の大きさを査定する信頼性は,受験者集団に対して1つに決まる指標であり,その点で情報量との違いがあります。たとえば,全体として信頼性の高いテストであっても,ある能力レベルでは情報量が低く,そのレベルでの測定には適していない可能性があります。たとえば,難度の高いテストは,全体としての信頼性は高くても,能力レベルの低いところではテスト特性曲線がほとんどフラットになり,能力レベルに差があってもテスト得点の差に反映されないため,能力の個人差を見分ける機能を発揮できないことになります。

得点の比較可能性・公平性

次の「得点の比較可能性」は,文字通り,異なるテストを受験したり,異なる採点者が採点したりした場合に,互いに得点の比較が可能か,という問いに関するものです。

最後の「公平性」は,テストがある特定の属性をもつ受験者集団に対して不当に有利,または不利になっていないかを表す概念です。公平性は妥当性と深い関係があります。なぜなら,公平でないテストは,テストが本来測るべきでない属性によって得点が左右される,つまり系統的な誤差の大きなテストになるからです。

それでは,以上の準備をふまえて,次回から本論に入っていきたいと思います。

第2回に続く

文献・注

(1) 高大接続システム改革会議 (2016).「最終報告」

(2) 中央教育審議会 (2014).「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ,未来に花開かせるために~(答申)」

(3) 教育再生実行会議 (2013).「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」

(4) 文部科学省 (2017).「高大接続改革の実施方針等の策定について(平成29年7月13日)」

(5) 文献(1)のp. 58。

(6) 以下に,本稿執筆時にウェブで公開されているものの一部を掲載します。
「入試選抜の測定問題」(講演)『大学入試センターシンポジウム2014――大学入試の日本的風土は変えられるか』pp. 61-74.
「共通試験と個別試験に求められるもの――測定論の観点から」(講演)『第24回東北大学高等教育フォーラム 新時代の大学教育を考える[13]報告書 大学入試における共通試験の役割――センター試験の評価と新制度の課題』pp. 7-23.
「大学入試新テスト記述式案――高校国語ゆがめる恐れ」『日本経済新聞』2016年11月28日朝刊
「高校の国語教育ゆがむ恐れ――開始時期こだわらず検証を」(インタビュー)『AERA』2016年12月19日号, pp. 23-24.
「大学新テスト方針案公表――記述式・英語委託熟考を」『日本経済新聞』2017年5月22日朝刊
「真価問われる高・大・新テスト改革」(インタビュー)『産経新聞』2017年7月19日朝刊
「大学入学共通テストの課題」『NHK視点・論点』2017年9月1日放送


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