内部告発と組織不正の心理(3)

トップが言ってはいけない言葉

――そういう研修が,組織風土をよくしていく1つのやり方なわけですね。

あと他に,トップの人に口を酸っぱくして言うことがあります。

最近の東芝の事例では,社長が「チャレンジ」という言葉を使って,3日で売上を1つの部署で100億伸ばせと言いましたね。そんなことができるはずがありませんから,間接的に数字の操作を指示したようなものですが,それは問題外としても,社長がチャレンジと言ってはいけなかったのです。

社長がもっと利益を出せとか,経費を削減しろとか,公に言ってはならない。これを口を酸っぱくして言っています。思うのはいいけれど言ってはいけない。社長もこれに納得するのは時間がかかるみたいです。部長や局長が言うのはかまわないのです。

会社は人事競争などいろいろな競争があると思いますが,共通する1つの論理は「直接間接に儲けを生んだ人が報われる」ということです。儲ける工夫や節約する工夫のうまい人が,自然と上に来る。そのことが会社の大きいハンディキャップになり,リスクになるわけです。だから,一番上だけはそれを言ってはいけないと。言ったとたんに内部申告が社長のもとに来なくなります。

内部申告が社長のもとに来なくなったら内部申告がなくなるのかといったらそうではなくて,業界団体に行ったり,マスコミに行ったり,政府当局に行ったりすることになる。「数字を上げろ」と言いたい気持ちは百もわかるけれども言ってはならない。儲けが欲しいと顔でじっと見るのはかまわないけれども,言葉にしてはいけない。局長が話す横で,肯きながら黙っているくらいはいいですが,自分の口で言ってはいけない。コンプライアンスというものはそういうことだと思います。

昔だと相談役がそういう役割を果たしていたのだと思いますが,いまは経済産業省も相談役という職位に否定的ですね。昔は取締役の相談役もいました。いまは会長でやめてもらうように,ということになってます。ですので,いまは社長が言わないようにしないといけないのですね。それを言った途端にコンプライアンスができなくなる。

――東芝はそれができていなかった。

東芝の場合はそれが10年も20年も続いていたわけです。最近では東芝が規模では大きかった。東芝は倒産するリスクもまだありますからね。株式や決算の報告書も全部ウソだったわけで,資本主義の前提を守っていません。

文部科学省の問題は,事実がまだわからない。忖度だけであれば,法的に問題はないです。そもそも忖度というのはもともと好ましい言葉として使用するのに,悪い言葉になってしまいました。

――文科省の件の評価はまだ難しいと思いますが,私怨なのか社会的正義からの行動なのかが見えにくいところもあります。

それは両方なのでしょうね。両方なのだと思いますが,一般的判断として言うと,事務次官が公益通報をしなくてはいけなくなっているというのが問題なのではないでしょうか。もともと,特区はけしからんという考え方が役所にはあるわけです。確かに,教育畑に特区はなじみません。私は大学人として,文科省の有識者委員会の委員なども務め,文部行政にはある程度参加して来ました。その経験から私見を言うと,教育界で特区はやらないのがいいと信じています。一時期,会社法人立のロースクールがありましたが,1つ残らずダメになりました。日本の行政はそれなりに自然淘汰に耐えてきていますから,規制もあまり不自然なものはなくなってきているのです。そういう意味で,規制性悪説に私は組みしません。とってつけたように5年の特区と言われても困るんじゃないかな。

第4回に続く

文献・注

(1) 岡本浩一・堀洋元・鎌田晶子・下村英雄 (2006).『職業的使命感のマネジメント――ノブレス・オブリジェの社会技術』新曜社


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