内部告発と組織不正の心理(1)

内部申告の特徴

最近の,文部科学省の前事務次官である前川さんの申告には私もびっくりしましたが,この事件は内部申告というものの典型的な進行を辿っています。普段,私は何万件と内部申告を読むのですが,そのときに内容を見極めるコツがあります。それは,記述の内容が具体的かどうか,日付,図面があるか,といったことです。

ケイ・スガオカの場合も,こういうところにこういうキズがあると具体的に書かれていました。このときは,複数の案件があったのですが,彼は1件ずつ小出しに情報を出してきました。例えば,東京電力が検査を業者に発注したところ,検査をした人は「ここにキズがあります」と出してくる。そうすると,その納品書を拒否して受け取らず,お金も払わないわけです。他には,和英対訳になっている検査報告書の英文には正確に書いてあるのに,和文はそこを訳していないなどということもありました。ぱっと見では同じように見せかけて,これで納品したのです。英文だけなら責任を問われないだろうと知恵を働かせた人が東電側にいたのでしょう。英文からも削除してあった箇所もありました。そうしたディテールを,ケイ・スガオカがきちんと書いていました。串岡さんの場合もやはり詳細に書いていました。

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前川前事務次官の話の何が典型的かというとまず,「自分が見た書類と同じだ」と,話が具体的だったことです。事務次官になったほど能力が高い人だというのも典型的です。内部申告した後に何が起こるかというと,社長が人事調書を調べたりします。そして小さなキズを見つけて「こんな奴が言っていることが本当のはずがない」となるのです。文部科学省の事案はまだ進行形ですからわからないですが,「いかがわしいバーに行った」と官房長官が言い始めて,発言の信憑性を落とそうとしました。品がない話です。それを言わなければいけないくらい,真に迫っていたのではないでしょうか。

内部申告をする人は能力が高いのですが,自己評価はもっと高いです。もともと不満をもっていて,不満が高じたときに申告をします。ケイ・スガオカの場合,ことが起こってから最初の手紙まで2年半もかかっています。我慢をしていたわけですね。そうしたときにボーナスの評価が低かった。会社を辞めようかとも思いはじめたりしたタイミングで,内部申告に踏み切るわけです。多くの内部申告が,そういうパターンです。直前に,本人の不満が高まる何かが起きています。

とはいえ,だからといって,それがガセであるわけではない。私はいくつもの会社の顧問をしていますが,口を酸っぱくしていうことは,どんな人が言ってきたとしても,侮ってはいけないということです。本当かどうかは文章の書き方をよく見ればわかります。


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