失恋によって成長するのはどんな場合?

『パーソナリティ研究』内容紹介

残念ながら,すべての恋愛がうまくいくわけではありません。いろいろなかたちで失恋にいたることがあります。「あの失恋で自分は成長できた」ということは,本当にあるのでしょうか? どのような失恋がどのような人を成長させるのか,青年を対象にして調べられました。(編集部)

中山 真:鈴鹿大学こども教育学部助教。webサイト

失恋による成長とは?

人にはさまざまなストレスフルな出来事が生じます。しかし,そんな出来事を通じて,人として成長したという実感をもつことがあります。ストレスフルな出来事には,災害や大きな事件・事故,重病の罹患などもありますが,今回は多くの青年が経験するであろう「失恋」による成長感に焦点を当てました。

しかし,ストレスフルな出来事を経験して,すべての人が「成長することができた!」と前向きに捉えられるとは限りません。そこで,どのような人が,あるいはどのような失恋で成長を感じられるのかを検証しました。具体的には,愛着スタイルと失恋の状況と立場に着目しました。愛着は,乳幼児期の母親などの養育者との情緒的な絆のことですが,養育者との関係の中で形成された自己や他者へのイメージが青年期・成人期以降の対人関係にも影響すると考えられています。愛着スタイルはその個人差のことです。また,失恋の状況と立場については,交際関係の破局なのか,片思いの終結なのか,フッた側なのか,フラれた側なのか,といった点に着目しました。

失恋で成長できるのは?

大学生を対象に質問紙調査を行い,過去5年以内に経験した失恋を振り返って回答してもらいました。

その結果,高い成長感が得られるのは,①交際していた関係の破局,②フラれた場合,③親密性回避(愛着対象となる他者と親密になることを避けようとする傾向)の低い愛着スタイルをもつ人,ということが示されました。

このような結果になった理由として,交際していた関係が破局することは,片思いの終焉に比べ,交際していた期間の出来事や思い出などが存在することが異なり,失恋としてのインパクトが大きいことが挙げられます。また,フッた側には否定的な感情しか残らないことがこれまでの研究でも指摘されており,成長感は得られないようです。さらに,親密性回避が低い人はストレスを前向きに対処することが指摘されており,そのことが関係しているのかもしれません。

この研究を始めた理由

恋愛関係については,心理学でさまざまな研究が行われてきました。私も以前,告白についての研究をしていました。告白というのは,恋愛関係に至るまでのプロセスですね。そして,もちろん交際中の関係を研究対象にすることもできるのですが,私は対人関係のストレスにも関心があったため,恋愛関係の終焉である「失恋」は大きなストレスイベントであると考え,失恋を対象にした研究をしようと考えました。

今後どのような研究をしていくか

すでにデータはとっているのですが,失恋から成長感が得られるまでの心理的プロセスをもう少しくわしく検証してみたいと考えています。どのようなことがきっかけで,立ち直ることができるのか,といった部分ですね。

それと,今回扱った成長は,個人の主観的な感覚です。それも1つの捉え方ではあるのですが,恋愛関係に必要な対人スキルが獲得されるとか,そういった成長の捉え方もあると思いますので,さまざまな側面から「成長」というものを考えていきたいと思っています。

論文

中山真・橋本剛・吉田俊和 (2017).「恋愛関係の崩壊によるストレス関連成長――愛着スタイルおよび崩壊形態の関連」『パーソナリティ研究』26, 61-75.