ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(3)
楽観性
Posted by Chitose Press | On 2017年06月02日 | In サイナビ!, 連載楽観性がパフォーマンスに及ぼす影響
以上見てきましたように,3つの研究分野によって楽観性の定義・とらえ方は多少異なるものの,楽観性は心身の健康や適応,目標達成やパフォーマンスに良い影響を与えることが示されています(9)。
たとえば,セリグマンが長期にわたって行ったさまざまな研究(10)によりますと,学齢期の子どもを対象とした研究において,楽観主義者は成績が高いことがわかっています。同様に,大学生や保険の外交員,兵隊を対象とした調査においても,楽観主義者が悲観主義者よりも高い成績・業績を挙げたことを示しています。
同じく,特性的楽観性の高い人は,実験場面での課題パフォーマンスや日常場面でのパフォーマンスが高いことがさまざまな研究で示されています(11)。
では,なぜ,楽観性の高いことが,目標達成や優れたパフォーマンスにつながるのでしょうか?
自分の行動がもたらす結果への期待は,やる気を引き出し,つまりは行動を引き起こす大きな原動力となるので,迎えるべく状況に対して前向きに挑戦することができます。困難に突き当たったときに,悲観性の高い人が目標から退き,不快な情動に心を向けてしまいやすいのに比べて,楽観性の高い人は自分がその目標に到達する可能性が高いと信じているので,他人の助けを借りることを含め,障害を乗り越える方法をいくつか試し,困難を乗り越えることが多いのです。
事実,楽観性の高い人は,何か目標を阻害するような状況に陥ったとき,けっしてあきらめるのではなく,何とかその問題を解決できるような計画を立てたり,努力をしたりするなどの方法を使うことがわかっています(12)。
つまり,楽観性の高さが適応的結果につながるその理由は,目標の追求の仕方(努力や慎重な計画,粘り強さ,正しい方略の選択など)にあると考えられます。
幸運を期待し,たんにぼんやりと待っている不毛な楽観主義者(たとえば,自分はやせられると思っているが,何も行動しない)は,けっして適応的結果にはつながりません。将来に対して肯定的な期待を抱き,それが行動を引き出す動機づけへとつながり,目標志向的な行動を起こす場合に,適応的な結果を導くものと考えられます。
これから行う行動に対して,ポジティブな結果を期待する楽観性の高い人は,そうすることで動機づけを高め,積極的に行動を起こすので,高いパフォーマンスを示すものと考えられます。
しかし,楽観性の高い人は,いつでも高いパフォーマンスを示すのでしょうか? あるいは,将来,ネガティブな結果が起きるだろうと予期する悲観性の高い人は,必ずしもパフォーマンスが高くないのでしょうか?
次回は,自分の将来に対する見方である楽観性,悲観性がパフォーマンスをどのように変えるのかについて紹介することにします。
→第4回に続く(近日掲載予定)
文献・注
(1) Heine, S. J., & Lehman, D. R. (1995). Cultural variation in unrealisitic optimism: Does the West feel more invulnerable than the East? Journal of Personality and Social Psychology, 68, 595-607.
(2) Scheier, M. F., & Carver, C. S. (1985). Optimism, coping, and health: Assessment and implications of generalized outcome expectancies. Health Psychology, 4, 219-247.
(3) Seligman, M. E. P. (1990). Learned optimism. New York: Alfred A. Knopf.(山村宜子訳,2013『オプティミストはなぜ成功するか』パンローリング)
(4) 外山美樹・桜井茂男 (2001).「日本人におけるポジティブ・イリュージョン現象」『心理学研究』72, 329-335.
(5) (1)を参照。
(6) 外山美樹 (2013).「楽観・悲観性尺度の作成ならびに信頼性・妥当性の検討」『心理学研究』84, 256-266.
(7) 外山美樹 (2016).「子ども用楽観・悲観性尺度の作成および信頼性・妥当性の検討」『教育心理学研究』64, 317-326.
(8) (7)を参照。
(9) Peterson, C. (2000). The future of optimism. American Psychologist, 55, 44-55.
(10) (3)を参照。
(11) Singh, I., & Jha, A. (2013). Anxiety, optimism and academic achievement among atudents of private medical and engineering colleges: A comparative study. Journal of Educational and Developmental Psychology, 3, 222-233.
(12) Solberg Nes, L., & Segerstrom, S. C. (2006). Dispositional optimism and coping: A meta-analytic review. Personality and Social Psychology Review, 10, 235-251.