TEA(複線径路等至性アプローチ)の過去・現在・未来――文化と時間・プロセスをどのように探究するか?(2)

文化の問題,人生の問題に心理学がどう取り組むことができるのか。時間とプロセスを記述するにはどうすればよいのか。この10年ほどの間に普及してきた複線径路等至性アプローチ(TEA)を手がかりに,サトウタツヤ教授,渡邊芳之教授,尾見康博教授の三者が鼎談を行い,議論をしました。第2回は文化,そして一般化の問題について。(編集部)

連載第1回はこちら

文化心理学とは?

サトウ:

『TEMではじめる質的研究』に書いてあるんだけど,2005年に日本心理学会で文化心理学のワークショップをしたんだよ。結構多くの人が集まってくれて,盛り上がるかと思ったら,TEM的な研究は文化を扱ってないだろみたいな話になって,しらけて終わりそうになったんだよね。ところが,その時に森直久さん(1)が発言して,これは文化の話だと思うという話をしてくれた。この発言はありがたかった。そこで声をかけて森さんも一緒にやることになった。

Author_SatoTatsuyaサトウタツヤ(佐藤達哉):立命館大学総合心理学部教授。主要著作・論文に,Collected Papers on Trajectory Equifinality Approach『TEMではじめる質的研究』(誠信書房,2009年,編著),『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

このワークショップ,私たちは文化心理学って言ってやったんだけれど,聴いている人はがっかりするのが絵で見えるような反応だった(笑)。

渡邊:

会場にいる人たちはどういうことを期待したんだろうか。

Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に,『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社,2010年),『心理学方法論』(朝倉書店,2007年,編著), 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

サトウ:

なんだろうね? 興味ないけど。もうちょっと比較文化心理学的なものを期待したんじゃないのかな。

渡邊:

未開の部族の人たちはこんなすごいことをしている,みたいな。

サトウ:

その当時で言うと,未知の文化をフィールドワークするような文化心理学や比較という意味での文化心理学を期待していたんだと思うけど,実際の発表は日本人の女の子が化粧をしているとか,日本人女性が不妊治療しているとかの話だったので。

渡邊:

昨日ツイッターで見たんだけれど,日本のテレビでは「日本がすごい」みたい話を今すごくやっているよね。じゃあ海外のテレビはどうなのかというと,ドイツのテレビでは未開の部族はどうだとか,ヨーロッパでない世界の映像を毎日流しているんだって。どっちもいやな感じだよね(笑)。古いタイプとあえて言っちゃうけれど,古いタイプの文化研究観というのは自分たちと全然違う人たちがいて面白いね,といったものや,日本とアメリカはこんなところが違うね,といったようなもので。それもまあTEMでも描けるよね。同じもので絵を描けばいいから。

サトウ:

マーカスと北山の文化的自己観の研究(2)の影響があって,そういうイメージだったんだね。ヤーンの考え方では,文化心理学は人間と文化の関係を描くものだから,一般心理学であって基礎心理学。差異心理学ではないということだよね。それがこういう形で研究できるんだと言っているわけだけれど,当時の日本の研究者はぼくらも含めてなかなか理解できなかったんじゃないかな。

尾見:

2006年,オーストラリアで国際社会・行動発達学会(ISSBD)があった時に一緒に行かせてもらったんだけれど,ぼくも発表に対して似たようなことを言いました。「文化はどこにあるんですか」って。ぼくはぼくなりの答えをもっていたんだけれど,やっぱり物足りなさがあったんだよね。文化をお前ら勝手に考えろ,というようにしか聞けなかった。先ほどのワークショップの参加者が同じように思ったのかわからないけれど。ぼくは,ここに日本文化とアメリカ文化があって差があるでしょというようなものじゃなくて,ある種のエマージングな感じで日々の活動の中から生活や人生を描くことで文化が見えてくるもので捉えている。文化を対象にするんじゃないけれど,結果として文化が見えちゃうものとして理解していて,そういうような答えがあるといいなという思いはあった。

Author_OmiYasuhiro尾見康博(おみ・やすひろ):山梨大学教育人間科学部教授。主要著作・論文に,Lives and relationships: Culture in transitions between social roles. (Advances in Cultural Psychology)(Information Age Publishing,2013年,共編),『好意・善意のディスコミュニケーション――文脈依存的ソーシャル・サポート論の展開』(アゴラブックス,2010年)など。→webサイト

渡邊:

そうかそうか。スキナー(3)だったら,文化は随伴性だって言っているよね。俺は,TEMを見て,ああ文化だなあと思っちゃったなあ。

サトウ:

随伴性ってすごく大事な概念でね。昔,もう20年以上前に都立大時代に行動分析学会で知り合った三田地真実さん(4)って覚えている?今はTEMづかいですよ。

渡邊:

そうか。まあそういう意味で,俺としては途中にある通過点が面白かった気がして,人生ゲームでもゴールは大金持ちになるか貧乏人になるかしかないわけだから,途中の方が面白いよね。


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