TEA(複線径路等至性アプローチ)の過去・現在・未来――文化と時間・プロセスをどのように探究するか?(1)

文化の問題,人生の問題に心理学がどう取り組むことができるのか。時間とプロセスを記述するにはどうすればよいのか。この10年ほどの間に普及してきた複線径路等至性アプローチ(TEA)を手がかりに,サトウタツヤ教授,渡邊芳之教授,尾見康博教授の三者が鼎談を行い,議論をしました。(編集部)

複線径路等至性アプローチの歴史

サトウ:

今日はよろしくお願いします。今回刊行した英語論文集(1)で扱っている複線径路等至性アプローチは,英語ではTrajectory Equifinality Approachで,略語のTEAは「ティー」と読みます。

Tatsuya Sato著
ちとせプレス (2017/3/31)

今日の鼎談に関しては2つ文脈があるのですが,まず1つ目の文脈としてTEAの成り立ちを簡単に紹介します。2004年1月に,立命館大学人間科学研究所がJaan Valsiner(ヤーン・ヴァルシナー)教授(2)を招いて,講演とシンポジウムを開催しました。その時に,私が半ば苦し紛れに複線径路等至性モデル(TEM)を使って発表をしたのが最初です。すると,それが思ったよりも好評で,その年の8月に国際心理学会(北京)で,ヤーンが取り仕切っていたシンポジウムに急遽私たち(安田裕子(3)+木戸彩恵(4))を入れてくれることになって発表をしました。さらに9月には日本質的心理学会の第1回大会があったのですが,ヤーンが来て記念講演をしてくれました。

Author_SatoTatsuyaサトウタツヤ(佐藤達哉):立命館大学総合心理学部教授。主要著作・論文に,Collected Papers on Trajectory Equifinality Approach『TEMではじめる質的研究』(誠信書房,2009年,編著),『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

尾見:

この2004年に起きたことのスピード感は今振り返ってもすごいですね。

Author_OmiYasuhiro尾見康博(おみ・やすひろ):山梨大学教育人間科学部教授。主要著作・論文に,Lives and relationships: Culture in transitions between social roles. (Advances in Cultural Psychology)(Information Age Publishing,2013年,共編),『好意・善意のディスコミュニケーション――文脈依存的ソーシャル・サポート論の展開』(アゴラブックス,2010年)など。→webサイト

サトウ:

そして,ヤーンと一緒にTEAに関する英語のチャプターを一緒に書こうという話になり,それが2006年に出版されます(5)。その後,『TEMではじめる質的研究』(6)が2009年に出て,ヤーンの翻訳書『新しい文化心理学の構築』(7)を2013年に出しました。これはヤーンのところに留学に行った岡本依子さん(8)が翻訳しようと言い始めて何とか刊行したものです。昨年には編著で英語書籍Making the future(9)も出しました。こうした流れの中で今回の英語論文集が出たわけです。

渡邊:

2000年くらいが1つの節目だったね。いろいろなものがその頃に集約されて,『心理学論の誕生』(11)の出版になった。その頃からTEMやTEAが現れるまでには,3,4年の期間があるけれど,どういう順番でTEMができてきたのかな。TEMの絵を描くものが先にできたのか,理屈が先にできたのか。何となく,TEMを書き始める前から達哉がTrajectoryと言い始めたのは覚えている。その頃にベルタランフィ(10)とかを言い出していた。

Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に,『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社,2010年),『心理学方法論』(朝倉書店,2007年,編著), 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

サトウ:

もう1つの文脈としては,鼎談の歴史(笑)がありますよね。2000年に『心理学論の誕生』でこの3人で鼎談をして本を出して,同じくらいの時期に『現代のエスプリ』で大村政男先生と私たち3人とで座談会をしました(12)。1980年代後半あたりに東京都立大学の大学院でわれわれが一緒にいた。大先生(13)とは大学院で同じ学年で,尾見は4つ下の学年だった。

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渡邊:

タツヤはTEMとかTEAとかへの流れを,この3人が一緒だった頃からの大きな流れとを位置づけようとして話し始めているんだけれど,俺はあまりそういう感覚はないんだよなあ。TEMやTEAと自分の関わりというと,節目節目に書かせてもらってはいたけれども,少し離れて見ている感じだった。TEMってのは俺の中では安田裕子さんなんだよね。安田さんが現れたあたりから,形になり始めたように思う。そもそもヤーンとはいつ知り合ったの?

サトウ:

以前(1997年)に東京大学に内地留学をした時に箕浦康子さん(14)の授業に出ていたことがあった。そこに箕浦さんと友達だったヤーン・ヴァルシナーの話が出たんだよ。ヤーンがクラーク大学に行く前(ノースカロライナ大学に所属)で,箕浦さんもアメリカにいたでしょ。それで2人は知り合いだったようだ。もう1つは,放送大学で心理学史の番組をつくる時に,クラーク大学には日本人がたくさん行っているからクラーク大学に行こうという話になった。その時に小島康次さん(15)が外遊をしていて,連絡をとったらすごく良くしてくれたんだ。ヤーンも紹介してもらって,実はヤーンと会ったのは心理学史の仕事が先だった。

渡邊:

なるほど。


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