ムカつく相手に青汁を飲ませたくなる条件――攻撃行動の心理学実験

『パーソナリティ研究』内容紹介

攻撃的な行動は,どんなときに生まれるのでしょうか? 挑発的な振る舞いを受けたり、心の余裕のないことがどのように攻撃的な行動に影響するのかが、「青汁」を使って調べられました。(編集部)

相馬敏彦:広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻准教授。

どのような研究ですか?

簡単にいえば,乱暴な性格の人でも条件が揃わないと攻撃的な行動をとらないよ,という研究です。その条件は2つあります。1つは攻撃的な行動を向けたくなる相手から事前に挑発的な振る舞いを受けること,もう1つは攻撃的な行動を抑えるための心の余裕がなくなっているということです。この研究では,大学生を対象に実験を行い,このことを検証しました。

なぜこのような研究を?

私の研究テーマの1つに,夫婦や恋人間での対立や,その延長線上にあるDV(カップル内での暴力)がどのように生じてエスカレートしていくのかというものがあります。2人の関係性や,本人たちと部外者(友人や家族など)とのネットワークといった「人間関係」という視点から,このテーマについて研究しています。社会問題に関わるテーマだからか,研究者以外の方とも研究の話をする機会がたまにあります。そこで,よく投げかけられる問いが加害者に関するもので「加害者になりやすいのはどんな人か」というものでした。

私はどちらかというと「被害の受けやすさ」に着目して研究してきたので,加害についてはあまりくわしくありませんでした。ですので,あまり何も言えずに話を聞いていると,けっこうな確率で,(会話上の)答えがパーソナリティや生育歴に落ち着くのです。つまり,「もともと,危ない人が……つきあう前に気をつけないと」となるわけです。私は,内心「2人の関係性にも原因があるんじゃないのかなあ」と思うのですが,あまり不確かなことも言えません。そこで,実際のところ,どうなのかと先行研究を調べるなかで今回の研究の基盤となったI3理論を知りました。これはDV加害が生じる理由を3つのIから始まる要因(Instigation;引き金,Impellance;推進因,Inhibition;抑制因)によって説明しようとするものです。

この枠組みから考えると,攻撃性というパーソナリティはあくまでも攻撃行動の1つの原因にしかすぎず,他の原因がはたらきさえしなければ,攻撃行動は生じないはずです。また,この理論は,攻撃行動の知見を対人関係に応用したものですから,恋人ほど親密でなくても適用できるはずです。そこで,実験室で協力しながらゲームをしてもらう関係をつくって,そこでの攻撃行動を観察することにしました。

どのように研究を進めたのか? 苦労したのは?

共著者のお二人と話すなかで,実験のイメージはすぐにできました。しかし,肝心の攻撃行動をどのように設定するのかについて少し考えました。なぜなら,海外の研究でよく見かける(攻撃相手に与える)ホットドックに「どれだけ辛いソースをつけるのか」は,いまいち,日本の大学生にはリアリティがないように感じられたからです。そこで,テレビの罰ゲームによく見かける,青汁といった不味い飲み物を使うことにしました。次に生じたのは,「青汁を飲ませるか否か」と尋ねても多くの実験参加者がNoと答えるのではないかということです。そこで,共著者の西村先生の発想で「相手が飲むものは,相手自身があみだくじから選ぶ」ということにして,相手が選ぶことになるあみだくじに参加者がどれだけ不味い飲み物を含めるかをカウントすることにしました。共著者の高垣さんや他の西村ゼミの学生さんの意見を参考に,青汁に加え,ニッキ水やセンブリ茶,黒酢を含めました。実験の参加者にはこれらの飲み物の不味さを知らない人もいるかもしれません。だとすると,この不味さを理解してもらえなない限り,実験は成立しません。そこで,比較対象であるおいしい飲み物(ジュースや麦茶)も含め,すべての飲み物を実験室に並べ,実験に参加してくれた方がいつでも試飲できるようにしました。この結果,実験室中が香りの宝石箱になりました。

今後どのような研究をしたいですか

今回の研究は,攻撃的な性格で心にあまり余裕(制御資源といいます)のない人は,コミュニケーション後に挑発を受けたように感じると攻撃的になる,ということでした。この理由の1つは,人とのコミュニケーションそのものが,もともと余裕のなかった人からさらに余裕を奪ってしまうからです。しかし,現実には人とのコミュニケーションが楽しく,元気をもらう,ということもありますよね。だとすると,コミュニケーションそのものが楽しく快適なものであれば,もともと心の余裕のない人でも攻撃的にならないかもしれません。この可能性は,言い換えれば,人とのコミュニケーションには心の余裕を奪うはたらきもあれば,逆にそれを回復させるはたらきもあるのではないか,ということです。一度,この着想に基づいて実験を行いましたが,おおむねこれを支持する結果が示されています(そこでは「うまくない『うま○棒』シリーズ」を題材にしました)。機会があれば手続きを変えて検証してみたいと思っていますが,それなりに手間のかかる実験ですので,同じ関心をもつ学生さんや共同研究者を探しているところです。

論文

相馬敏彦・西村太志・高垣小夏 (2017).「攻撃的な人が不味い飲み物を与えるとき――挑発的行為と制御資源による影響」『パーソナリティ研究』26(1), 23-37.