事件,事故のことを子どもからどう聴き取ればよいか?――子どもへの司法面接(1)
Posted by Chitose Press | On 2016年11月08日 | In サイナビ!, 連載話を聞くことの難しさ
子どもが事故を目撃したかもしれない,虐待被害にあっているかもしれないとなれば,大人は事件を解決するために,あるいは子どもを守るために,あれこれ話を聞きたい衝動に駆られる。
学校で,子どもが「家にいるのがつらい」と言ってきたらどうだろうか。打ち明けられた大人(例えば,教師)は心配のあまり,矢継ぎ早に次のように尋ねてしまうかもしれない。
「どうしたの? 何がつらいの?」
「お家の人が何かした?」
「お父さん? お母さん?」
「もしかして,お父さんが叩いたりしたの?」
「いつもお父さんに叩かれるの?」
口の重い子どもが,最後の問いにためらいがちに「……うん」と言ったらどうだろうか。
大人は通告した方がよいのか迷い,別の大人(例えば,上司)に相談するかもしれない。
この大人も「被害が確実でないと通告できない」と考え,根掘り葉掘り質問をしてしまうかもしれない。
「なんで叩かれたの?」
「え? 何もしてないのに叩かれた?」
「そんなはずあるかなあ。お父さん,乱暴な人なの?」
「なんか,叩かれたって証拠になるようなものある? そうか,証拠って言ってもわからないよね……」
「じゃ,何で叩くの? 足? 手? 蹴ったりもするの?」
架空の会話であり,大げさに書いてはいるが,大人が心配のあまりあれこれ聞いてしまうということは,よくあることである。
こういった会話では,大人の発話の中に「お父さん」「叩く」「蹴る」「乱暴」「足」「手」「いつも」などの言葉が含まれている。子どもは自分の言葉では何も言っていないのに,いつの間にか「お父さんは乱暴な人で,子どもをいつも叩く。手や足で叩いたり,蹴ったりする」というようなストーリーができあがってしまうかもしれない。
「お父さん」と対峙できるか
話を聞いた大人は,子どもが身体的虐待にあっていると判断し,父親と対峙しようとするかもしれない。しかし,ことは容易には運ばない。
「お子さんが,お父さんにいつも叩かれたり,蹴られたりする,と言っています」
「え? 子どもがそういったという証拠でもあるの?」
「いや,ちゃんと録音してあるんですよ……」
とは言ったとしても(そして,実際録音されていたとしても),上記のやりとりでは「大人が誘導した」と批判されてしまうかもしれない。