意味を創る――生きものらしさの認知心理学(2)
動きに感じる生きものらしさ
Posted by Chitose Press | On 2016年10月17日 | In サイナビ!, 連載BigDog Beta――生きものらしさを超えて
ところでBigDogにはBigDog Beta(動画7)と呼ばれる開発バージョンが存在しています(9)。この動画,(笑えるという意味で)最高に面白いので,ぜひ一度ご覧ください。
さて,BigDogとBigDog Betaの本質的な違いとはなんでしょうか?
ミショットやゲルゲイのデモほど単純ではないので原因がどこにあるのか簡単にはわかりません,動画1のBigDogからは,生きものらしさに加えて「動きたい,倒れたくない,起き上がりたい」という強烈な意図,意志を感じます。
一方,BigDog Betaがなぜ笑えてしまうかというと,その物体が生きものらしく,意図をもっているように見える受け身な認識に加えて,その物体の(中の人の)心を感じる,気持ちがわかる,その気持ちになれる,ということ起こっているのかもしれません。
「心の理論」で語られるように,自分以外のものに自分の心が入った状態をイメージすることはそう難しいことではなりません。身体と心が他の誰かと入れ替わるというフィクションは昔から数多くつくられていますね。そう考えると,BigDog Betaは心を伴うものとして,私たちの心の入れ替わりの受け皿になりそうです。そして中に入った自分の心を想像するとバカバカしくて笑ってしまいます。
ではBigDogはどうでしょうか。入れ替わりの受け皿となるような心の存在をイメージできるでしょうか。視覚的な入力映像としてはほとんど変わらないBigDogとBigDog Beta。この両者から創り出される意味のレベル,心の性質が大きく違うなら,それは注目に値します。いったいどういうときに「生きものらしさを感じる」ことを超えて,私たちが理解し共感できるような心の存在までも感じてしまうのでしょう。この問題を解明するにはもうしばらく時間がかかるかもしれません。
今回のまとめ
今回は動きに感じるさまざまな生きものらしさを紹介しました。そのインパクト,不思議さ,面白さはわかってもらえたでしょうか。要点は以下の通りです。
・外観とは関係なく,動きそのものから生きものらしさを感じることがある。
・動きからの生きものらしさは多くの場合,素早く,自動的に,不可避的に生じる。
・動きから感じる生きものらしさには,社会性,意図,意志,不気味さなど多様なものが含まれることがある。
生きものらしさを生み出す動きをさまざまな視点から観察すれば,たくさんの新しい発見があるかもしれません。もし気になることあれば,ぜひ著者に教えてください! 生きものらしさ認知を理解するための研究のタネになるかもしれません。
次回は動きに感じる生きものらしさ(後編)ということで,同期と動き,Type 1エラーとType 2エラー,不気味の谷などを紹介する予定です。
おまけ
本編では紹介しきれなかった「生きものらしさ動画」をいくつか紹介しておきます。
最初は,おそらく日本では最も有名(最近はPepperの方が有名でしょうか)なヒューマノイドロボットのASIMOです(11)。
BigDogが登場した2000年代,HondaのASIMOが大きな話題になりました。やや滑らかに2足歩行するその姿は,当時のヒューマノイドロボットとしては最先端で,新しい未来を想像させてくれましたが,生きものらしさについてはイマイチでした。ですが,最近のASIMOはなかなかいい感じの生きものらしさを醸し出しています。
続いて,数年前にネット上に出回った面白い動画です。等速直線運動する点群に,足のような何かが加えられると,途端に生きものらしくなります(12)。
① これはただの等速直線運動 http://t.co/MWjihRqMc8
② 中心点の動きは①と全く同じなのに、こうなるだけでずいぶん印象が有機的になる http://t.co/WagLOOYxc0 …
— Yukiya Okuda / THE GUILD (@alumican_net) May 17, 2014
最近,大流行のドローンです(13)。
ドローン自体はそれほど生きものらしさを発しないのですが,2本の足(手?)のようなものが機能するだけで,なぜこうも意志や意図を感じてしまうのでしょう。
2年ほど前に「Bio-likeness――生命の片鱗」という展示が開催されました(14)。
Bio-likenessの紹介映像。生きものらしさと工学については次回以降の連載で紹介する予定です
「生きものか,そうでないか」そんな視点で世界を見まわしてみてください。他にもまだまだたくさんの(生きものらしさ的な意味で)面白い動きがあることでしょう。
→続く(近日掲載予定)
文献・注
(1) BigDog Overview (Updated March 2010)(YouTube)
(2) くわしく知りたい方は以下のレビュー論文を読みましょう(研究者向け)。
Scholl, B. J., & Tremoulet, P. D. (2000). Perceptual causality and animacy. Trends in Cognitive Sciences, 4(8), 299-309.
(3) Heider and Simmel Movie(YouTube)
(4) 動画2,4,6は「Processing」というアートやデザインに強いプログラミング言語で作成しています。
無料のプログラム環境で,アニメーションを手軽に作成することができます。
参考までに動画のソースコードをgithubにおいておきます。
(5) Takahashi, K., & Watanabe, K. (2015). Synchronous motion modulates animacy perception. Journal of Vision, 15(8):17, 1-17.
(7) 森政弘 (1970).「不気味の谷」『Energy』7(4), 33-35.
(8) 著者が知らないだけという可能性もあります。
(9) 中に人間が2人,入っています。じつはこの動画はBigDogのベータバージョン(試作機)ではなく,BigDogが公開された後に製作されたパロディ映像です。
(10) BigDog Beta (High Quality) – early Big Dog quadruped robot testing(YouTube)
(11) Honda’s All-new ASIMO Runs at 9 khm(YouTube)
(13) [PRODRONE] Dual Robot Arm Large-Format Drone PD6B-AW-ARM(YouTube)
(14) Bio-likeness――生命の片鱗(YouTube)