10月 みあやまり――擬似相関(3)
『大学生ミライの因果関係の探究』より
Posted by Chitose Press | On 2016年09月26日 | In サイナビ!, 連載研究室から窓越しに見える空はすっかり暗くなっていた。秋の日は釣瓶落としというが,まさにそんな感じがする。先生との会話で時間を忘れていた,ということもあるけれど。
あおいのバイト先の店長は,おそらく因果関係を間違って認識しているのだろう。でも,この話はそれ以前に,広く知られてしまっている。
「先生,誰か「この説は間違いだ」とか「信じないで」とか,そういうことをみなに知らせる方法はないのでしょうか」
先生は,肩をすくめて答える。
「あのウェブページや本への反論は,すでに別の複数のウェブページで書かれている。本も出版されている。ただ,広く知られていないだけだ」
何だか,もどかしい気分になる。でも……。
「もっと,もっと広めるにはどうしたら」
「こういうのは,意図して広められるわけじゃない。あとは,個々の人々が何を情報源とし,どんな判断をするかに委ねられているんだ。僕たちは,そういう意味で賢くならなければいけないだろうね」
先生はさらに続ける。
「何でも疑えばいいというわけでもない。何かを信じて,そこによって立つことで,別の問題の解決策が手に入ることもあるだろう。だけど,調べて考えることを怠ってはいけないと思うよ」
すでに信じてしまっている人に対しては,どうしたらいいのだろうか……。先生は,私が考えていることを見透かすように言う。
「すでに信じてしまった人の意見を無理に変えるのも,とても難しい。残念だけどね」
あおいのアルバイト先の状況は,もう変えられないのだろうか……。
街灯の光の下で
江熊先生の研究室を出た。もうとっくに日が落ち,暗いキャンパス内を,ぽつぽつと街灯の光が照らしている。
図書館の前で,あおいに出会った。
「あおい。こんな暗くなるまで残っていたの」
「お,ミライじゃん。友達と話してたらこんな時間になっちゃった」
友人の多いあおいらしい言葉だ。
「今日は寒いね」
あおいが言う。
「うん,寒いね」
上着を,胸の前でぎゅっと締めた。気づけば,吐く息も白い。
私はあおいと一緒に静かで暗いキャンパスの中を歩きながら,先生の研究室で聞いた話を,順を追ってあおいに説明した。
あおいは熱心に聞いていてくれた。そして私が話し終わると,あおいはこう言った。
「ありがとう,ミライ。なるようになる。きっと,うまくいくようになるよ。私,こういうことは楽観的に考えることにしているんだ」
あおいらしい。私はそう思った。
冷たい街灯の光が,私たちを照らしていた。
「じゃあねミライ。これからバイトに行ってくる。うまくやってくるよ」
バイバイと左右に振る手の指先が,街灯に白く照らされてキラキラと輝いたように見えた。
(終了)
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