10月 みあやまり――擬似相関(2)

『大学生ミライの因果関係の探究』より

「この場合には,どこに問題があるのでしょうか」

すると先生は,すぐ答えた。

擬似相関だよ」

擬似相関……これは擬似相関なんだ。

「アイスクリームは,暑くなればなるほど売り上げが伸びる。そして,暑くなればなるほど,水死者数も増える」

私は先生の言葉を聞いて,あっ,と思った。どうしてこんなことに気づかなかったんだろう。

「ここでは,気温が第3の変数になっている。アイスクリームの売り上げと水死者数の双方に影響を与えている。両者の関連の原因は,気温にあるということ」

fig10-2

「それが第3の変数というわけですね」

第3の変数の影響,ということが,この例で想像できた。

「そういうことだね。研究の中でもそうなのだけれど,現実の問題の中でも,なかなかこのような第3の変数を見出すのは簡単ではないんだ」

因果関係があると思っていたのに,実は第3の変数が影響している可能性があるということか。これは,言われてみないと気づかないことかもしれない。

「夏の合宿のときに,大学への適応と幸福感の話をしたよね」

「高槻先輩の研究です」

「これは仮定の話にすぎないのだけれど。もしもある性格要因が,大学への適応にも幸福感にも影響するようであれば,大学への適応と幸福感との関連は,それらに共通して影響する性格のせいだ,と言えてしまうかもしれない」

「性格が第3の変数として働く,ということですか。本当にそういうことはあるのでしょうか」

「調べていないからわからないだけなのかもしれない」

これからそれが研究によってわかるようなことがあるのだろうか……。

「庭瀬さん」

「はい」

私は顔を上げた。

「アイスクリームが溶けてしまうよ」

私は小さなスプーンがかろうじて刺さっている,溶けかけのアイスクリームを見た。

擬似相関を散布図で見る

「庭瀬さんは,握力を測ったことあるかな」

アイスクリームを食べ終わったところで突然そのように言われて驚いた。

「握力,ですか?」

「そう。握力」

中学時代の運動能力テストを思い出してみた……いくつくらいだろう。

「うーん,中学の頃で25kgくらいでしょうか」

先生は「平均くらいだね」と言った。どうしてそんな平均値を知っているんだろう。先生は謎が多い。

「小学生の握力と,かけ算能力との間には,関連があると思う?」

これも不意を突かれた……握力とかけ算? 関連があるのだろうか。

「そんなの,関連があるのですか」

あるとは思えないのだけれどなあ……。

「かけ算を習う小学2年生から6年生まで,握力を測定して同じかけ算の問題を行う。すると,ほぼ確実に,両者の間には高い正の相関関係が見られるはずだよ」

本当に?

「実際にデータをとってみなくても,わかるのですか」


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