10月 みあやまり――擬似相関(2)
『大学生ミライの因果関係の探究』より
Posted by Chitose Press | On 2016年09月20日 | In サイナビ!, 連載「この場合には,どこに問題があるのでしょうか」
すると先生は,すぐ答えた。
「擬似相関だよ」
擬似相関……これは擬似相関なんだ。
「アイスクリームは,暑くなればなるほど売り上げが伸びる。そして,暑くなればなるほど,水死者数も増える」
私は先生の言葉を聞いて,あっ,と思った。どうしてこんなことに気づかなかったんだろう。
「ここでは,気温が第3の変数になっている。アイスクリームの売り上げと水死者数の双方に影響を与えている。両者の関連の原因は,気温にあるということ」
「それが第3の変数というわけですね」
第3の変数の影響,ということが,この例で想像できた。
「そういうことだね。研究の中でもそうなのだけれど,現実の問題の中でも,なかなかこのような第3の変数を見出すのは簡単ではないんだ」
因果関係があると思っていたのに,実は第3の変数が影響している可能性があるということか。これは,言われてみないと気づかないことかもしれない。
「夏の合宿のときに,大学への適応と幸福感の話をしたよね」
「高槻先輩の研究です」
「これは仮定の話にすぎないのだけれど。もしもある性格要因が,大学への適応にも幸福感にも影響するようであれば,大学への適応と幸福感との関連は,それらに共通して影響する性格のせいだ,と言えてしまうかもしれない」
「性格が第3の変数として働く,ということですか。本当にそういうことはあるのでしょうか」
「調べていないからわからないだけなのかもしれない」
これからそれが研究によってわかるようなことがあるのだろうか……。
「庭瀬さん」
「はい」
私は顔を上げた。
「アイスクリームが溶けてしまうよ」
私は小さなスプーンがかろうじて刺さっている,溶けかけのアイスクリームを見た。
擬似相関を散布図で見る
「庭瀬さんは,握力を測ったことあるかな」
アイスクリームを食べ終わったところで突然そのように言われて驚いた。
「握力,ですか?」
「そう。握力」
中学時代の運動能力テストを思い出してみた……いくつくらいだろう。
「うーん,中学の頃で25kgくらいでしょうか」
先生は「平均くらいだね」と言った。どうしてそんな平均値を知っているんだろう。先生は謎が多い。
「小学生の握力と,かけ算能力との間には,関連があると思う?」
これも不意を突かれた……握力とかけ算? 関連があるのだろうか。
「そんなの,関連があるのですか」
あるとは思えないのだけれどなあ……。
「かけ算を習う小学2年生から6年生まで,握力を測定して同じかけ算の問題を行う。すると,ほぼ確実に,両者の間には高い正の相関関係が見られるはずだよ」
本当に?
「実際にデータをとってみなくても,わかるのですか」