社会心理学の学際性とは(4)

三浦:

大学院生や若手の人に学際的研究をやれとはとても言えないです。だって発表する場も投稿する場もないかもしれないんですから,まずは業績をという人にはリスクが大きいです。けれども,学際的な研究があるということは知っておいてほしいし,ある程度自分の研究スタイルができてきたくらいの人が,ずっと同じことをしているのではなくて,何かちょっと別のことへのチャレンジに具体的に踏み出せるきっかけになるとよいなと思います。ほかの分野の人とやってみたら楽しいかもと思っている人はけっこういると思います。そのきっかけを見出せるかもしれない場がたくさんあればあるほどいいと思うので,今回の学会をその1つにしてもらったら嬉しいです。そのために,わざわざ日本選挙学会や日本動物心理学会や日本パーソナリティ学会に連絡をとって,共催をお願いしたわけです。このシンポジウムは日本選挙学会共催,こっちは日本動物心理学会共催とかをわざと載せて,いろいろな学会の人に来てもらっていますと明らかにしています。それこそ日本動物心理学会の人とももともとはご縁がまったくないわけですが,共催を申し出たら快くOKしてくださいましたし。日本選挙学会にしてもそうです。ポテンシャルはいくらでもあると思います。

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木下:

日本選挙学会であれば,社会心理学に近い人が多いですよね。学会が立ち上げのとき私も入会を誘われたのですが,当時所属学会が20を超えていたので懐具合を考え遠慮しました。日本選挙学会の歴代の会長は半分以上友達だと思うな。

三浦:

日本政治学会ですと,厳しいですよね。

木下:

私も昔,日本政治学会に入会していたのですよ。ただ日本政治学会は哲学,思想を専門とされる方が多く,投票行動を含めて実証的な研究をされている方はほとんどありませんでした。最近はずいぶん様子が変わってきたと思いますが。

三浦:

日本政治学会だと,投票行動研究は完全にマイノリティで,何をやっているんだ,君たちは,みたいな扱いだと投票行動を研究している政治学者から聞いたことがあります。若い人がようやく査読の論文や国際誌に書くとかになってきた,ということみたいですよ。私くらいの世代ではそれは無理で,査読誌でも実質的なピアレビューからは遠いという噂も聞きます。学派間の対立で大喧嘩をするようなコストを査読に払うくらいであれば,自分のパフォーマンスを出す場として本を書く方がより適切なんだとか。全然査読誌に書かれないので,私たちから見たら何を遊んでいるんだろうと思うのですけれど,意味が違うんですね。

木下:

投票行動の研究が日本政治学会でマイノリティというのはその通りだけれど,それにビビってしまう必要はないのではありませんか。私たちも若い頃,異分子ながらその中でやってこれたわけですから。

それに注意してほしいのは,それぞれの学会には固有の学問体系があることです。すべての学会が心理学のように実証主義を中心に据えているわけではありません。政治学という学問もそうです。政治学以外の法学関係の学会では,投票行動どころか輿論調査ですら頭から否定する人がけっこうありますよ。法学関係の学会,ことに実定法を扱う分野では法律の解釈論,法体系の整合性などが主たる関心で,素人である市民が法をどのように考えているかとかといった社会心理学的な関心はマイナーです。

そもそも法学部というのは,旧帝大系の法学部を頂点とする強烈なヒエラルキー組織です。これらの法学部の専門の先生方が学会に君臨しておられて,そこでつくられた「教義」をいかに正しく伝えるか,異教徒の発想を許さないかに力が注がれます。私たちの人間科学系の学部のような「好き勝手な」発言が許される自由な組織とは体質が根本的に違うのです。ピアレビューの話にしても,法学関係の雑誌の多くは紀要で,私たちがなじんでいる学会誌の方式と違います。私たちはレフェリーが複数いて査読をしますが,法学関係の紀要は教授がその役をします。それも論文の査読という形ではなく,執筆者の能力保障というイメージです。だから私たちからすれば,大きな違和感はありますが,その伝統的な学問体系を頭から否定することもできないということでしょうか。私たちにできることは,伝統を尊重しながらそれに風穴を開けることです。


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