18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(1)
何歳から大人か
Posted by Chitose Press | On 2016年05月19日 | In サイナビ!, 連載日本でも18歳以上の人たちも投票ができるようになりました。一方で,喫煙や飲酒は20歳以上のままです。18歳は大人なのでしょうか。それとも子どもなのでしょうか。大阪教育大学の白井利明教授が、青年心理学の観点からこの問題に迫ります。(編集部)
白井利明(しらい・としあき):大阪教育大学教育学部教授。主要著作・論文に,『社会への出かた――就職,学び,自分さがし』(新日本出版社,2014年),『やさしい青年心理学〔新版〕』(有斐閣,2012年,共著)など。
2015年6月,公職選挙法が改正され,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ,2016年7月の参議院選挙から18歳以上の人たちも投票できる選挙が実施されます。これは,すでに,2014年6月の「日本国憲法の改正手続に関する法律」の改正で18歳から国民投票に参加できるようになったときに合意されていました。それに伴い,民法や少年法も改正し,成年年齢そのものを18歳に引き下げる検討もなされています。ただし,世論調査では,18歳は成人ではないとして,引き下げに反対の意見が多数を占めています(1)。この連載では,成年年齢引き下げをめぐって,青年心理学の観点から意見を述べてみたいと思います。
――成人は何歳からですか。
青年心理学では,青年期の終わり,つまり成人期の始まりを25,26歳と考えています(2)。青年心理学者の久世敏雄は「青年期は,おおざっぱにいって10歳代から20歳代半ば頃まで,つまり,思春期的変化の始まりから25,26歳までの子どもから大人への成長と移行の時期である」(3)と区分しています。
成人になるとは,一言でいえば,個人化と社会化の統一です(4)。個人化とは自己を確立することです。社会化とは,職業や家庭,社会に対して責任をもった社会人になること,そして他人とともに他人のために活動する人になることです。言い換えれば,自己と社会を調和してとらえることができる,現実社会の中で自己をどう生かしていくのかをはっきりさせることができることをいいます(5)。
私の研究でも,自分も他人も大切にできるようになるのは,20歳代半ばでした(6)。20歳代前半では,自立することを,大人に頼らず,自分で決め,自分で責任をとることだととらえていました。そして,そこでは,自立と依存が対立的にとらえられているため,大人に意見を聞くと,それに従わなければならないと思い込み,自分がなくなってしまうように感じて,どんなに困っていても大人に相談しにいかないことがあります。大人からすると,自分にこだわっているように見えます。
それに対して,20歳代後半になると,自分も他人も大切にできるようになります。大人の意見も聞いて,賛成できるところは取り入れ,賛成できないところは取り入れなくてもよいと考えることができるようになります。他人との間に距離をとることができるようになるのです。
以上の見方からすると,現在の成年年齢である20歳というのは,やや早いように見えるかもしれません。しかし,青年期の終わりや成人期の始まりは,ある特定の年齢を境に行われるものではありません(7)。16,17歳頃には自己の変化と動揺の時期が終わります。21,22歳頃には精神的にも安定し,自己と社会を統合できるようになります。最初に成人期の始まりは25,26歳としましたが,成人になるうえで就職や結婚などの社会経験を積んでいくことが必要と考えられているためです。