パーソナリティのそもそも論をしよう(3)

渡邊:歴史的に見ていくと、行動主義が出てきたのと同じような理由で出てくるんですよね。20世紀初めのアメリカって、家柄や門戸から解放されて実力主義の社会を作るというイデオロギーが全体にあって、それが行動主義とぴったり合ったし、あとアセスメントもそうなんですよね。五十嵐靖博さんたちが翻訳した本で『心を名づけること』という本(1)があって、その当時のアメリカの経済発展と心理アセスメントや知能検査がどういうふうにうまくすり合わせながら進んでいったかということがくわしく分析されています。

それと同じことがいまも起きていて、非認知特性だって、昔から非認知特性がすごく大事だったけれど心理学者が気がついていなかったという話なのか、昔の社会はそんなことはあまり大事じゃなかったけれど、最近社会の方が大事にするように変わってきたのか、という両方があると思います。最近よく言われるコミュニケーション力の問題も、確かにある程度大事だったろうと思うけれど、50年前にそれが職を得られるかどうかに直接大きく影響するようなことはなかったと思います。社会の評価軸が先に変わって、心理学者が研究を行ってと、循環が起きるんですよ。

小塩:どちらが先かはわからないですが、発見してしまったということがあるんじゃないでしょうか。ミシェルも最初は予測していなかったじゃないですか。予測力があると後から発見してしまったわけですね。社会の方はわかりませんが、実際にそうなっている、というのを見つけちゃったところがあると思います。

渡邊:見つけちゃうとそこに投資する人が出てくるわけですよね。コミュニケーションという言葉は、心理学者がすごく便利に自分たちの仕事を増やすために使ってきたでしょう。私は田舎にいるのですが、田舎で頼まれる講演の半分くらいはより良いコミュニケーションについてお話ししてください、と言われます。循環が生じていて、心理学者がコミュニケーションが大事だということを強めていくような働きをしている気がします。社会的な需要だとかと研究との関係ですよね。パーソナリティ心理学研究の動きが変わっているときには、やっぱりそこに社会の変化があるんだろうなと。

小塩:どちらが先なんでしょうね。研究したことが徐々に広がっていく、ということもありますよね。研究が世の中に伝わっていくにはやはりタイムラグがあって、研究者も社会の情勢を敏感に感じ取って、「群集心理」みたいなもので流されて、何となくそっちの方に行くということなのかもしれないですけれど。やったことが、ずいぶん後から世の中に伝わっていくということもあると思うんですよね。それが良かったり悪かったりしますが。

渡邊:心理学者は昔は「モラトリアム人間」だとか、そういうものを打ち出して、提供していくわけですよね。やや話は飛びますが、心理学って文系の学問なんだなと、強く感じます。自然科学は何かを発見することはあっても、何か自然現象を作り出すということはないよね。あったものが発見されるわけでしょ。もちろん技術は作られると思いますが。あったものを見つけて研究しているなかで新しく何か現実が作られていくということがあるというわけですよね。偏見なんですけれど、ポジティブ心理学的なものに時々感じる違和感は、何がいいのかを決めにかかっているんじゃないかと感じてしまうんですよね。

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小塩:話が少し変わるかもしれないですが、例えばポジティブな指標を作るじゃないですか。予測力ってけっこう限られていて、自尊感情が典型的なんですが、自尊感情が高いとポジティブだけれど、自尊感情が高いことがすべての良いことを予測するわけではないですよね。その予測力を高めようと思って、自尊感情を分けてみたり、自尊感情に加わる軸を作ってみたり、自尊感情が高くてこちら側の人がいいけれど、自尊感情が高くてこっち側の人は良くない、みたいな話になります。いろいろなところでそういうことが起きます。

幸福感もオーセンティック・ハピネスという話になったり、楽観性や悲観性もよいもの悪いものということになったりする。結局、予測力がないからかもしれません。ダークなパーソナリティも、それがあることでよい場面、ということになったりするわけです。

渡邊:例えば幸福にr=.30みたいな相関があるとするじゃないですか、有意に。そのr=.30の相関って、あまり個人の幸福には力をもちにくいよね。

小塩:そうですね。全般的には影響がありますけど。

渡邊:だから、大きなデータで小さな相関があるもので最も意味があるものって、政治とか行政ですよね。あるものを食べると、5%病気が減るというのは個人のレベルではほとんど影響がないけれども、みんなが食べれば実際に病気が減るわけじゃないですか。医療費が減ったりするでしょ。行政や社会のデザインみたいなときに、r=.30くらいの説明で役に立つじゃないですか。

小塩:大きいですよね。

渡邊:そう考えると、幸福や長寿とかにr=.30くらい影響があるような指標が見つかることを、誰が役に立てるのかなあと気になります。


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