幼児教育のエビデンスと政策(4)

エビデンスを政策に生かす――幼児教育の質の向上に必要なエビデンスとは

ニュージーランドのテ・ファリキとラーニング・ストーリー

私たちがニュージーランドから学ぶべきことは、①教育理念とアセスメントが表裏一体に機能していること、②実践者と研究者が協力してシステムを作り上げ、プログラムを問わず共有されていること、でしょう。

多文化の共存を国家政策として目指すニュージーランドの、多様な保育形態や文化的価値観を越えて共有できる幼児教育理念とアセスメント・システムが、テ・ファリキとラーニング・ストーリーです(9)

1986年に就学前教育・保育を全て教育省に移し、完全な一元化を達成していますが、ニュージーランドでは、多様な文化背景を反映して、多様な幼児教育プログラムが存在しています。それらを包括的に一元化するナショナル・カリキュラムがテ・ファリキ(マオリ語で「織ってある敷物」という意味)です(10)。テ・ファリキは、1996年に告示され、すべての幼児教育施設・保育施設等がテ・ファリキの理念に沿った教育を行います(11)

ラーニング・ストーリーは、このテ・ファリキの枠組みに沿ったアセスメントです。保育者はそのときの子どもの姿や状況を記録します。その記録された何気ない姿の中に、テ・ファリキが示す学びの要素がどのように含まれているかを分析します。1人ひとりの子どものストーリーはポートフォリオとして保存され、子ども自身や家族と常に共有することができます。保護者は、共有されたラーニング・ストーリーに自分の考えや家庭での子どもの姿を書き添えることもできます。

ニュージーランドでは、各施設は、国の教育調査室(ERO: Education Review Office)が行う調査(レビュー)を3年に1回受けます(12)。調査結果で改善が必要な施設にはもっと短期間で次の調査が入ります。その調査は、自己評価と外部評価の両方からなり、外部評価は専門家による観察や保育者の資格審査を含みます。EROは国として評価の視点を示しますが、それに対してどのような指標を自己評価に使用し何を根拠(エビデンス)として示すかは、各施設の独自性を反映すべきだと考えられています。多文化国家ニュージーランドらしい考え方だといえます。この過程で、子どもの成長発達を捉えたエビデンスとしてラーニング・ストーリーが活用されますが、他の評価指標も使用できます。

個別の審査結果は教育調査室ウェブ上に公表されています。プログラムの質を専門的な視点から判断した情報は、一般の保護者にとって施設選択のための有益な情報の1つです。さらに、総合的な情報は、National Reportsとしてさまざまなテーマでまとめられ、政策や各学校・施設の運営の参考に活用されています。

EROはすべての幼児教育施設が良いものになることを目指しているため、評価の結果が芳しくない場合に、基本的には施設と一緒に問題点を改善していく努力をします。どうしても十分に改善しない場合は、予算上の措置がとられることになります。

日本型の、実践と融合したアセスメントが求められる

日本でテ・ファリキにあたるのが、幼稚園教育要領や、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領です。日本の文化文脈の中で、保育を行ううえでの原則や内容が示されています。ニュージーランドの保育者たちは、ラーニング・ストーリーを通してテ・ファリキの理念を取り込んだ各施設の保育を開発していきました。日本も適切な評価(アセスメント)ツールを日々の保育と融合させることで、教育要領や保育指針の理念を反映した幼児教育を、担保する仕組みを作れないでしょうか。

2015年10月末に発行されたOECD(13)の『人生の始まりを力強くIV――幼児教育・保育の質をモニターする』(Starting strong IV: Monitoring quality in early childhood education and care)では、調査参加各国が幼児教育の質をどうモニタリング(継続的に評価)しているかの現状調査とその結果に基づく将来への提言が報告されました。継続的な質評価を、幼児教育・保育プログラムのタイプにかかわらず共通にモニターしようとする国が多く、物理的な環境整備等はほぼどの国でも調査しています。しかし、「プロセスの質」を重視する傾向は強くなっており、誰がどのようにやるのか、何を使って行うのか、より適切なモニタリングの仕組みを作ろうと各国で努力が続けられています。諸外国の挑戦の中で、日本に取り入れるべきはどういった点でしょうか。


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