実験心理学の魅力(2)

関西学院大学の今田寛名誉教授に、ご自身の研究史を振り返っていただきながら、心理学における実験や実証的アプローチの魅力について伺う連載の第2回。研究ではどのような問題関心から、どういった実験を実施されたのでしょうか。(編集部)

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恐怖・不安に動機づけられた回避行動

――実験実習の中で、科学的に確認し事実を積み上げていくための態度や思考法が鍛えられていくわけですね。今田先生は白ネズミを用いた動物実験を進められたということですが、その頃はどのような問題関心をもたれ,どのような実験を行っていたのでしょうか。

Author_ImadaHiroshi今田寛(いまだ・ひろし):元関西学院大学学長,元広島女学院大学学長。現在,関西学院大学名誉教授。主要著作・論文に『ことわざと心理学――人の行動と心を科学する』(有斐閣,2015年),『心理科学のための39レッスン』(培風館,2004年),『学習の心理学』(培風館,1996年)など。

私は3年生の最初のゼミ発表のときに、万全の準備をして臨んだにもかかわらず、すっかりあがって酷い目にあったことがきっかけで、異常行動の実験的研究に興味をもちました。そこで卒論で選んだテーマは「マイヤーのフラストレーション理論に関する実験的研究」、修士論文のテーマは「回避行動に対する罰の効果」でした。いずれも白ネズミを用いた基礎実験で、恐怖・不安に動機づけられた回避行動の異常性を示したものでした。

例えば卒論では、恐怖・不安に動機づけられたネズミは、異常なまでにある方向への反応に執着し、その方向をブロックすると、他に楽な反応の可能性がたくさんあるにもかかわらず、あくまでブロックされている自分の好みの方向に固着し、時にはブロックを飛び越えて1 mもの大ジャンプをして装置の壁に頭をぶっつけて鼻血を出すというような異常を見せることを示しました。

また修士論文では、回避行動(恐怖に動機づけられた行動)を消す(消去する)ために、起こった回避行動に罰を与えると、与える罰が強いほど、その罰に向かって素早く、激しく、長く回避反応をし続けるという矛盾が起こることを示しました(1)。私はこのような事実を、マイヤーのように別建てのフラストレーション理論に頼らずに、通常の学習理論で一元論的に説明しようと努めました(2)

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後に講義をするようになったときの講義ノートをいま開いて見ますと、「生活体の生存・適応にとって不都合な状態は?」とあり、次の5つが書かれています。①客観的に恐れる必要のないものを恐れたり、恐れ続ける場合(恐怖症、強迫的行動、恐怖のインキュベーション)、②恐れる必要のないときも、四六時中ビクツイテいるような状態(慢性的不安、不安神経症)、③問題解決能力が備わっているにもかかわらず、問題解決ができない場合(アガリ、学習性絶望)、④より労が少なく、苦痛も少ない合理的反応が可能であるにもかかわらず、労多く苦痛な不合理行動に固執する場合、⑤不都合状態に陥りやすい個体、陥りにくい個体(個人差)、とあります。

これを見てわかるように、私は③のアガリの経験をきっかけに、④の問題を卒論と修論で手がけたことになります。そしてその後の研究で、最も力を入れたのが②の慢性的不安を引き起こす心理的要因(物理的要因ではない)の問題でした。⑤の個人差(個体差)の問題は気になりながら自分では納得のゆくことはできず、教え子の何人かがこの道の研究者になりました。

この講義ノートのメモを見て思い出すことは、当時学生に話したことです。それは、研究をする場合、大きな全体的視野を失うな、「森に入って森を見ず」になるなということでした。そのためには、まず一歩引いて自分が本当にやりたいことは何かを見極め、そのやりたいことに関わりのありそうな研究テーマを、素朴に自分の経験に照らして、あるいは論理的可能性として羅列してみることが大切ではないかということでした。心理学の研究テーマは無数にありますが、W. ジェームズ(3)も言ったように、自分にとって身近で温かい日常的事実から研究に入らないと、実験のための実験になってしまうと、よく話したものです。自分に対する自戒も込めて。


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