尊敬されるリーダー、恐がられるリーダー――影響力と社会的地位の2つの形(4)

なぜリーダーに従うのか?――フォロワーの心理

同じようにリーダーを尊敬するフォロワーの行動もよく考えると不思議です。そもそもなぜフォロワーは他の人に高い地位を授け、自分は低い地位に甘んじるのでしょうか。動物の順位制では、力の強い個体ととことんケンカをして、ひどい怪我をするくらいなら、いったん低い地位に甘んじて好機を待つ方が得なのだと説明しました。しかし、誰かを尊敬しないとしても、徹底的に痛めつけられたりはしないでしょう(3)。ということは、ヒトのフォロワーシップの説明に、動物の順位制で使った説明をそのまま使うことはできません。

プライスとファン・フクトは、リーダーとフォロワーの間には利他行動のときと同じような互恵的な関係があるのだと考えました。リーダーは人々に他では得られないサービスを提供し、フォロワーはそのサービスを得るためにリーダーに従うというのです。

たとえば、狩猟の得意な人がいて、その人についていけば獲物がたくさんいるところに行けるとしましょう。よい狩場に連れていってもらう代わりにその人を尊敬してあげるわけです。第1回の記事で紹介したツィマネ族の研究では、尊敬される男性ほど魅力的な女性と結婚し、村の会議などで影響力をふるうことができるのでした。リーダーにはこのような利益があり、フォロワーには獲物にありつくという利益があるので、たしかに互恵的な関係になっています。

また、ある人が戦争のときの作戦に長じていて、その人の司令に従って戦うことで勝利できる確率が高くなると考えてください。自分がリーダーになりたくても、自分が司令すると負けてしまうとしたら(そして自分も死んだり負傷したりする可能性があるとしたら)、作戦に長じた人に従った方がよいでしょう。この場合のリーダーも戦争での勝利という利益をフォロワーにもたらし、その代わりにみなから尊敬されるのです。

これらの例では、リーダーはフォロワーによい狩場を教えるとか、戦争で勝利に導くとか、何かサービスを提供していて、フォロワーはそのサービスのために従っていることになります。

有事のフォロワー・平時のフォロワー

「有事のリーダー」という表現を耳にすることがよくあります。国や組織の生き残りをかけた場面で必要なリーダーシップは、平時のそれとは違うということです。また、この表現は、なんとなくフォロワーが受動的な立場にあるような印象を与えます。ところが、プライスとファン・フクトの考え方はその反対です。彼らはフォロワーが積極的にリーダーを選ぶと考えます。

では、有事と平時でどのようなリーダーが望ましいのでしょうか? これまでに見てきたように、ヒトの地位には二重性があり、それぞれ力と尊敬によって獲得されます。力で他者を脅すことができるリーダー(支配傾向が高いリーダー)と、技能が高く親切で尊敬されるリーダー、よその国と戦争している国のリーダーとしてはどちらが向いているでしょうか? おそらく力が強く、相手を脅してでも作戦を有利に運ぶことができる支配傾向の高い人物の方が向いているでしょう。

それに対して、平和なときには、他国との友好な関係を維持して、可能なら新しい共同事業などを始めることができる親切なリーダーが望まれます。

もし、フォロワーが積極的にリーダーを選ぶとしたら、有事には支配傾向の高いリーダー、平時には親切で尊敬されるリーダーを選ぶはずです。


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