尊敬されるリーダー、恐がられるリーダー――影響力と社会的地位の2つの形(1)

ヒトの社会と順位制

みなさんは高い地位につきたいと思うでしょうか? そうでもないでしょうか? 社会的地位や影響力について興味深い知見が蓄積されれてきているようです。尊敬されるリーダーとそうでないリーダーの違いとは、リーダーの存在を支えるフォロワーの心理とはどのようなものなのでしょうか。進化心理学・社会心理学が専門の神戸大学の大坪庸介准教授が、影響力や社会的地位の実態に迫ります。(編集部)

Author_OhtsuboYohsuke大坪庸介(おおつぼ・ようすけ):神戸大学大学院人文学研究科准教授。主要著作・論文に 『進化と感情から解き明かす社会心理学』(有斐閣,2012年,共著),「仲直りの進化社会心理学――価値ある関係仮説とコストのかかる謝罪」(『社会心理学研究』30 (3), 191-212)。→webサイト

社会的に成功した人のことを「地位も名誉も手に入れた」と言ったりします。社会階層や組織の中の高い地位について、みんなから尊敬されることは、成功の証だと考えられているのです。このことは、しごく当たり前のことのように感じられます。また他の動物でも地位をめぐった争いがあることから、地位動機(地位を求める傾向)が進化の産物として私たち人間の心にも備わっているといわれれば、そうかもしれないと思ってしまいます。ところが、ヒトという種にとっての社会的地位には、他の動物の地位よりも複雑で一筋縄では理解できないところがありそうです。これから4回の連載では、心理学的な研究を中心にして、ヒトの地位動機について考えてみたいと思います。

動物の社会の順位制

動物の地位関係について、ニワトリのつつきの順位について聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。簡単にいってしまうと、ニワトリでは一位の個体は他の全部の個体をつつき、二位の個体は一位以外の全部の個体をつつき、三位の個体は一位・二位以外の全部の個体をつつきます。つつきの順位とは、このニワトリ社会の中での優位・劣位の関係のありようのことです。

ここでは、「順位」という言葉が暗に示すように、一番上から一番下までを順々に並べることができます。つまり、じゃんけんのような三すくみのような関係はありません。XがYより上で、YがZより上だということになれば、XはZより上なのです。

このような動物の社会に見られる地位構造のことを言い表すために、動物行動学者は順位制という用語を使います。英語では、dominance hierarchyといいます。Dominanceは優位や支配といった意味の言葉です。Hierarchyは階層制度のことで、カタカナでヒエラルキーということもあります。つまり、順位制というのはある動物社会の個体を優位な順に並べた階層構造のことです。

それでは、どの個体が優位でどの個体が劣位なのかはどのようにして決まるのでしょうか? 簡単にいってしまうとケンカがどれだけ強いかによって決まることがほとんどです。このことを動物行動学では資源保持力と呼びます。英語ではresource holding power(RHP)といいます(1)。つまり、自分の生存・繁殖にとって欠かせない資源を手に入れて、それを他の個体からとられないように守ることができる力のことです。動物の社会では、資源を獲得し保持することができるかどうかは腕っ節の強さ次第ということです。

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ただし、順位を決めるためにいちいち一対一の真剣勝負をしてまわる必要はありません。ケンカの強い者にとっても弱い者にとっても、徹底的にやり合って決着をつけるのは大変です。弱い者にしてみれば、相手に徹底的にやっつけられるまでケンカするよりも、勝てないと思った瞬間に降伏して、致命的な怪我をしないようにした方がよいでしょう。そうすれば、そのうちにまた好機がめぐってくるかもしれません。一方、強い者にとっても、降伏した弱い相手を徹底的に追い詰めることに意味はありません。窮鼠猫をかむで、追い詰めた相手から手痛い反撃をくらって、無用な怪我をしてしまうかもしれません。

このように、強い者にも弱い者にも真剣勝負で優劣に決着をつけるのは避けたいものです。そのため、たいていの場合、武器の見せ合いであるとか、どちらも怪我をしないような力比べによって相手の資源保持力を見極めることになります(2)。また、優位に立つことに適応的なメリットがあるだけでなく、どう考えても勝ち目がないと思ったときには劣位の立場に甘んじることにも適応的なメリットがあることがわかります。


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